40代になると、会社員生活に少し妙なイベントが増えてきます。
若いころは「給料が上がるなら偉くなった方がいい」と単純に考えていたのに、いざ課長や管理職が現実的な選択肢として近づいてくると、「これ、本当に出世した方が得なのか?」と考え始めるのです。
給料は上がるかもしれない。肩書も付く。ボーナスも増えるかもしれない。将来の退職金や企業年金に影響する会社もあるでしょう。
その一方で、部下の評価、人事、トラブル対応、予算管理、会議、経営層への説明、場合によっては転勤や休日の連絡まで増える。会社によっては、それまで受け取っていた残業代の扱いまで変わります。
しかも、20代なら「この先30年働く」と考えられたのに、FIREを目指している40代なら話が違います。
あと10年。あと7年。あと5年。場合によっては、あと3年。そこまで来ると、
「今さら出世して何年回収するの?」という、かなり現実的な疑問が出てきます。
だからといって、「FIRE民は出世しなくていい」と決めつけるのも雑です。
例えば昇進によって年間の手取りが100万円増え、その増えた分をほぼ資産形成へ回せるなら、5年間でも500万円です。そこへ運用益まで加われば、FIRE時期を前倒しできる可能性があります。
逆に、年収は50万円上がったものの、残業代が減り、拘束時間が大幅に増え、転勤まで発生するなら、「肩書を買ったら自由が遠ざかった」ということもあり得ます。
つまり、出世は善でも悪でもありません。FIREを目指す会社員にとって重要なのは、「その昇進が自分のFIREまでの距離を、本当に縮める取引なのか」を見ることです。
そこでこの記事では、出世を「偉くなること」ではなく、一つの投資案件のように考えます。
便宜上、その判断軸を、「出世ROI」と呼ぶことにします。
ROIは本来、投資した資本に対してどれだけ利益が得られたかを見る指標です。
もちろん仕事のストレスや責任を円単位で完全に換算することはできませんが、「昇進によって得るお金・選択肢と、追加で差し出す時間・責任・自由を比べる」という考え方は、FIRE直前の40代会社員にはかなり役に立ちます。
「出世したくない自分はやる気がないのか」と悩む前に、「その出世、本当に割に合うのか」、一度数字で考えてみましょう。
- 「出世したくない40代」は珍しいのかより、まず損得を分けて考える
- 実際、役職と賃金にはかなり差がある
- 「年収が上がる」だけでは出世ROIを計算できない
- 管理職になると残業代がなくなる?――これは会社の肩書だけでは決まらない
- FIRE民なら「出世の手取り時給」を一度出してみる
- 出世ROIでは「ストレス」を無理に円換算しなくていい
- FIREまで10年ある人と3年の人では、同じ昇進でも価値が違う
- 昇進で増えたお金を生活水準へ流すと、FIREはむしろ遠ざかることがある
- 退職金・企業年金まで見ると、出世の価値が逆転することもある
- 「課長になった経験」はFIRE後には無価値なのか
- 出世によって「辞めにくくなる」という見えないコスト
- 出世しないことにもコストはある
- 「昇進を断る」は簡単なFIREテクニックではない
- 実は「一回だけ出世する」という中間戦略もある
- FIREできる資産があるほど、出世を冷静に判断できる
- 40代会社員が昇進前に確認したい「出世ROIチェック表」
- 「出世したくない」と思ったときに、本当に嫌なのは何なのか
- まとめ|出世は「偉くなること」ではなく、FIREまでの投資案件として考える
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「出世したくない40代」は珍しいのかより、まず損得を分けて考える
「出世したくない」、「管理職になりたくない」という言葉を検索すると、やる気、責任、ストレス、ワークライフバランスなどさまざまな話が出てきます。
ただ、FIREを目指す人の場合、少し論点が違います。出世への憧れがあるか。部長になりたいか。肩書が欲しいか。それより先に、「あと何年間、この会社から給料をもらう予定なのか」という時間軸があります。
例えば25歳で係長候補になった人と、48歳で課長昇進を打診されたFIRE志向の会社員では、同じ昇進でも経済価値が違います。
25歳なら、昇進による給与差を今後20年、30年と受け取れるかもしれません。
一方、50歳で55歳FIREを予定しているなら、役職を保有する期間は5年です。
つまり出世の価値には、「何円上がるか」だけでなく「何年間もらえるか」が効いてきます。
私はこれを、「残存会社員年数」として見ると分かりやすいと思います。
同じ年間100万円の給与差でも、20年間なら額面2,000万円、5年間なら500万円です。
もちろん昇給、税金、社会保険、賞与、退職給付などを無視した単純比較ですが、時間軸を入れるだけで昇進の見え方はかなり変わります。
だからFIRE直前ほど、「出世したくない = 逃げ」という精神論ではなく、「この昇進案件の回収期間は、自分の会社員残存期間に収まっているか」と考えた方が合理的です。
実際、役職と賃金にはかなり差がある
「出世しても給料なんて大して変わらない」と言われることがありますが、社会全体の統計を見ると、役職ごとの賃金には一定の差があります。
厚生労働省の2025年「賃金構造基本統計調査」では、雇用期間の定めがない一般労働者の所定内給与額について、男女計の平均は非役職者31万500円、係長級39万9,200円、課長級52万9,200円、部長級63万5,800円でした。
| 役職 | 2025年の所定内給与額・男女計 | 平均年齢 |
|---|---|---|
| 非役職者 | 31万500円 | 41.8歳 |
| 係長級 | 39万9,200円 | 45.4歳 |
| 課長級 | 52万9,200円 | 49.5歳 |
| 部長級 | 63万5,800円 | 53.1歳 |
ただし、この表を見て、「課長になれば自動的に月21万円給料が上がる」と考えてはいけません。
これは同じ人が昇進前後でどう変化したかを追跡したデータではなく、それぞれの役職者を横断的に比較した平均です。
年齢や勤続年数も違いますし、企業規模、業種、会社ごとの賃金制度も異なります。
また厚生労働省のこの「賃金」は2025年6月分の所定内給与額で、時間外手当などをそのまま含む年収比較でもありません。
それでも、「出世には経済的なリターンが存在し得る」ということは分かります。
だからFIRE民が「管理職なんて面倒だから全部断ればいい」と一律に考えるのも、もったいない。
見るべきなのは平均ではありません。「自分の会社で、自分が昇進した場合に何円増えるか」です。
「年収が上がる」だけでは出世ROIを計算できない
昇進を打診されたとき、一番分かりやすい数字は「役職手当」です。
例えば、「課長になれば月5万円上がる」と言われたとします。年間60万円。悪くありません。
しかし、これだけで出世ROIを判断するのは早いです。
会社員の報酬は、役職手当だけで決まるわけではないからです。
| 確認したい項目 | 昇進で何が変わるか |
|---|---|
| 基本給 | 昇格によって等級・職能給が変わるか |
| 役職手当 | 毎月いくら加算されるか |
| 賞与 | 基本給・等級・評価係数の変化で増えるか |
| 時間外手当 | 昇進前後で支給条件が変わるか |
| 退職金 | ポイント制・最終給与連動などで影響があるか |
| 企業年金 | 職級や給与水準が給付へ影響する制度か |
| 福利厚生 | 役職者向け制度や逆に失う制度があるか |
| 税・社会保険 | 額面増加ほど手取りは増えない |
FIRE目線で特に重要なのは、「額面年収ではなく、実際に資産形成へ回せる手取りがいくら増えるか」です。
年収が100万円増えても、その100万円すべてを投資へ回せるわけではありません。
所得税、住民税、社会保険などの負担も変わります。
さらに昇進に伴って交際費、服装、通勤、転勤、単身赴任など本人側の支出が増えるケースもあります。
だから、「昇進後の年収 - 昇進前の年収」だけでは足りません。
FIREまでの資産形成へ本当に効くのは、「昇進したことで年間いくら純粋な余剰資金が増えるのか」です。
ここまで出して初めて、出世ROIの「リターン側」が見えてきます。
管理職になると残業代がなくなる?――これは会社の肩書だけでは決まらない
出世のコスパを考えるとき、よく聞くのが、「管理職になったら残業代がなくなるから、むしろ給料が下がった」という話です。ここは少し注意が必要です。
労働基準法第41条では、「監督若しくは管理の地位にある者」、いわゆる管理監督者について、労働時間、休憩、休日に関する一部規定の適用除外を定めています。
しかし、会社で「課長」・「店長」・「管理職」と呼ばれた人が、自動的に労働基準法上の管理監督者になるわけではありません。
厚生労働省も、管理監督者については役職名だけではなく、職務内容、責任と権限、勤務態様、賃金等の待遇などを踏まえ、実態に即して判断するとしています。
だから昇進を考える際には、「課長になると残業代がなくなるらしい」という噂ではなく、「自社の就業規則・賃金規程では実際にどう扱われるのか」を確認する必要があります。
例えば昇進前に時間外労働が多く、毎月かなりの残業代を受け取っていた人なら、役職手当が増えても総支給額が思ったほど増えないケースは考えられます。
反対に、もともと残業が少なく、昇進による基本給・賞与の上昇が大きい会社なら、経済的にはかなり有利かもしれません。
これも、「管理職は得」・「管理職は損」ではなく、自社制度を数字で見るしかありません。
FIRE民なら「出世の手取り時給」を一度出してみる
昇進によって年間の手取りが60万円増えるとしましょう。
一方で、会議が増える。部下との面談が増える。評価作業が増える。トラブル時の対応が増える。帰宅後も仕事を考える。こうした追加負担を、仮に年間300時間と見積もったとします。
単純化すれば、「60万円 ÷ 300時間 = 1時間あたり2,000円」です。
私はこれを便宜上、「出世の手取り時給」と考えます。
もちろん、これも正式な賃金指標ではありません。
そもそも「責任」は時間だけでは測れませんし、課長になることで得られる裁量、経験、仕事の面白さ、人脈、将来のキャリア価値もあります。
それでも、「年収60万円アップ」という数字だけを見るより、「自分はその60万円のために、年間何時間の自由とどれだけの精神的容量を追加で会社へ渡すのか」と考える方が、FIREとの相性はいい。
なぜならFIREを目指している人が増やしたいのは、お金だけではなく、「自分で使える時間」だからです。
▶ 定年まで働いてから自由になるのは本当に得?|FIRE民が考える「時間の先送りリスク」 / FIRE計画の羅針盤
給与を増やすために自由時間を追加で差し出すなら、その交換条件が自分にとって本当に有利なのかを考える必要があります。
出世ROIでは「ストレス」を無理に円換算しなくていい
ここで一つ大事なのは、「全部を金額へ変換しなければ」と思わないことです。
ストレスを一時間3,000円と換算する。責任を年間50万円と換算する。そこまでやる必要はありません。
むしろ無理に数字へ変えると、もっともらしいだけの謎計算になります。
出世ROIでは、金銭面と非金銭面を分けて評価した方がいいと思います。
| リターン側 | コスト側 |
|---|---|
| 手取り収入の増加 | 労働・拘束時間の増加 |
| 賞与の増加 | 部下・トラブルへの責任 |
| 退職金・企業年金への影響 | 転勤・異動の可能性 |
| 昇給カーブの上昇 | 休日・夜間への仕事侵入 |
| 裁量の増加 | 心理的ストレス |
| 社内外の経験・人脈 | 自分で仕事内容を選べない可能性 |
| 転職市場での評価材料 | 会社固有スキルへの依存深化 |
この左右を眺めて、「自分にとって右側を引き受ける価値が、左側にあるか」を考える。それで十分です。
人によっては、部下を育てることが楽しいかもしれません。自分で決定できる範囲が増えることに価値を感じるかもしれない。その人にとっては、管理職の責任は単純なコストではありません。
逆に、人の評価やトラブル対応が猛烈に苦手な人にとっては、年間100万円増えても割に合わない可能性があります。
「出世ROIは、人によって違う」、だからこそ他人の「課長になれるなら絶対なった方がいい」、「管理職なんて罰ゲーム」という意見だけでは決められません。
FIREまで10年ある人と3年の人では、同じ昇進でも価値が違う
仮に昇進によって、資産形成へ回せる余剰資金が年間80万円増えるとします。
単純化すると、以下のとおりです。
| FIREまでの残り年数 | 追加余剰資金80万円を単純累計した額 |
|---|---|
| 3年 | 240万円 |
| 5年 | 400万円 |
| 10年 | 800万円 |
| 15年 | 1,200万円 |
運用益、昇給、税制の変化などは考慮していない単純計算です。でも一つ分かります。
「役職を何年間保有するつもりなのかによって、昇進の経済価値は大きく変わる」ということです。
逆に責任は、初日から発生します。課長になった翌日から部下はいる。会議もある。評価もある。トラブルも起きる。
だからFIRE直前の昇進には、「コストは即日発生するのに、リターンを受け取れる期間は短い」という特徴があります。これが、FIRE直前ほど昇進のコスパに悩む理由です。
ただし、「じゃあFIRE直前なら絶対断れ」という意味ではありません。
年間200万円増えるなら、3年間でも600万円です。FIRE目標があと500万円なら、一気にゴールへ届くかもしれません。
要するに、「残存会社員年数 × 実際の手取り増加額」を一度出してみる。
それだけで「なんとなく出世したくない」、「なんとなく出世した方が得」からかなり離れられます。
昇進で増えたお金を生活水準へ流すと、FIREはむしろ遠ざかることがある
ここで地味に重要な罠があります。昇進した。年収が100万円増えた。そして、少し広い部屋へ引っ越す。車を買い替える。外食の単価が上がる。服装へお金をかける。旅行を豪華にする。
すると、出世によってFIREが近づくどころか、「生活費まで昇進」してしまうことがあります。
FIRE目線で出世の経済メリットを最大化するなら、「増えた給与と生活水準を切り離す」のがかなり重要です。
例えば昇進によって手取りが年間70万円増えたなら、生活費をほぼ変えず、その70万円を資産形成へ回す。
これなら出世によって得た追加負担が、少なくとも目に見える形でFIRE資産へ変換されていきます。
逆に、役職が上がるたびに生活費も上がるなら、FIRE必要資産も上がります。
▶ FIREは「節約力」より「満足力」で決まる?|少ないお金でも幸せな人が強い理由 / FIRE計画の羅針盤
収入が上がったからといって、「十分」と感じる生活水準まで同じ速度で上げる必要はありません。
出世の経済メリットをFIREへつなげるなら、この考え方はかなり重要です。
退職金・企業年金まで見ると、出世の価値が逆転することもある
40代以降の昇進で絶対に確認しておきたいのが、「退職時の給付へ影響するか」です。
これは会社によって驚くほど違います。退職時の基本給や役職等級が退職金へ影響する会社。ポイント制で役職や等級ごとのポイントが積み上がる会社。勤続年数中心で、直前の昇進がそれほど効かない会社。確定給付企業年金や確定拠出年金の掛金に給与水準が影響する会社。制度はさまざまです。
だから、「あと3年しかいないから昇進しても意味がない」と思っていたら、実はその3年間の役職が退職金へそれなりに効く会社もあり得ます。
逆に、「課長になれば退職金も大幅アップ」と思い込んでいたら、ほとんど影響しない制度かもしれません。
ここは会社の退職金規程や企業年金規約を確認するしかありません。
なお、退職金に対する税制は給与所得とは異なり、原則として退職所得控除などを用いた分離課税の仕組みが設けられています。
ただし役員等としての勤続年数が短い場合などには別の扱いもあるため、役員まで昇格するケースでは一般社員の退職金と単純に同じと考えない方が安全です。
FIRE直前の出世では、「最後の数年間の給料」だけでなく「退職時に何が変わるか」まで見る。
ここまでやると、出世ROIはかなり正確になります。
「課長になった経験」はFIRE後には無価値なのか
FIREを目指していると、「どうせ数年で辞めるんだから、今さら管理職経験なんていらない」と思うことがあります。
これも、一概には言えません。FIREには計画変更があります。
相場が大暴落する。生活費が増える。親の事情が変わる。本人の考えが変わる。完全リタイアではなく、少し働きたくなる。
そのとき、管理職経験やマネジメント経験が「働ける選択肢」を増やす場合があります。
逆に、会社の内部ルールや社内政治に極端に特化した役職経験なら、外ではそれほど価値を持たないこともあります。
ここで重要なのは、その昇進によって得るものが「勤務先固有資産」なのか「持ち運べる資産」なのかです。
例えば、自社だけで通用する稟議ルートを熟知する。役員との社内人脈が増える。社内評価制度に詳しくなる。
これらは在籍中には強いですが、退職すれば価値が大きく下がる可能性があります。
一方、人員管理。予算管理。採用。交渉。プロジェクトマネジメント。外部との折衝。
こうした経験は、別の会社や仕事でも使える可能性があります。
▶ 給料も退職金も人脈も1社に集中して大丈夫?|40代会社員の「勤務先集中リスク」 / FIRE計画の羅針盤
出世によって給与が増える一方で、人的資本まで勤務先へ集中する可能性があります。
昇進を考えるときは、「今の会社で偉くなる価値」と「会社を離れても残る価値」を分けて見ると整理しやすくなります。
出世によって「辞めにくくなる」という見えないコスト
FIRE目線では、もう一つ面白い問題があります。
役職が上がると、「会社を辞めにくくなる人がいる」ことです。
給料が上がった。部下ができた。重要な案件を任された。「今辞めたら迷惑だ」と感じる。
次の部長候補と言われた。もう少し働けばさらに昇進できそう。すると、もともと55歳でFIREする予定だった人が、「せっかく課長になったんだから、あと2年」となる。
その2年後には、「次は部長になれるかもしれないから、あと3年」となる。気づけば定年です。
もちろん、その仕事が楽しくなったのなら何の問題もありません。FIREは会社を辞める義務ではないからです。
問題は、「自分では辞めたいのに、昇進したことでサンクコストが増え、予定していた自由を先送りすること」です。
役職には給料だけではなく、「ここまで来たのだから」という心理的な退出コストもあります。
これは給与明細には載りません。しかしFIRE直前の人にとってはかなり大きい。
だから昇進前に、「この役職になっても、自分は予定どおり○年後に辞められるか」と一度想像しておく価値があります。
▶ FIRE直前5年は「退職レッドゾーン」|FIREを7段階で考える“もうすぐ自由”が一番危ない理由 / FIRE計画の羅針盤
FIREが近づくほど、給与・昇進・退職金など「もう少し残れば得」という誘惑も増えます。
今回の出世問題は、このFIRE直前期の判断ともつながっています。
出世しないことにもコストはある
ここまで出世の面倒な部分をかなり書きました。でも公平に見るなら、出世しないこともコストはあります。
昇給機会を逃す。賞与差が広がる。退職給付に差が出る。会社によっては役職定年までの給与カーブが変わる。後輩が上司になる。仕事の裁量が増えない。組織再編時にポジションが弱くなる。市場価値の面でも管理経験がないことが不利になる職種もあります。
さらに、FIRE計画そのものにも影響します。「出世したくないから年収は今のままでいい」と決めた結果、FIREまで7年だったものが10年になる可能性もある。その追加3年間をどう評価するか。これも出世ROIです。
つまり、「出世には自由時間のコスト」があり、「出世しないことにはFIRE到達速度のコスト」がある。
だから二択を精神論にしない。「やる気があるから出世する」、「自由を大事にするから出世しない」ではなく、「自分にとってどちらのコストが小さいか」を比較します。
「昇進を断る」は簡単なFIREテクニックではない
「FIREを目指すなら、管理職を打診されたら断りましょう」という話ではありません。
会社によって昇進制度は違いますし、役割変更が本人の希望だけで完全に選択できるとは限りません。
昇進を断ることで、その後の配置、評価、給与、キャリアに影響する可能性もあります。
また、本人としては「管理職を断っただけ」のつもりでも、会社側から見れば今後任せられる職務範囲が変わる場合もあります。
だから実際に昇進を辞退したい場合には、「自社の人事制度や就業規則を確認し、必要に応じて上司や人事と相談する」のが現実的です。
特に、「FIREするつもりなので偉くなりたくありません」まで会社へ説明する必要は普通ありません。
本人の事情に応じて、働き方、適性、希望する職務、現在の業務状況など、適切な範囲で相談すればいいでしょう。
FIRE戦略は、会社との関係を不必要に悪化させることではありません。
「使える会社員メリットを使いながら、自分の自由度を高めること」だからです。
実は「一回だけ出世する」という中間戦略もある
出世か、出世拒否か。この二択にする必要もありません。
例えば係長から課長になると給与が大きく上がるが、その先の部長では責任増に対して給与差が小さい会社なら、「課長までは受けるが、部長は狙わない」という選択もあります。
あるいは、FIRE目標まであと8年なので、今の昇進は受ける。5年後にさらに上を打診されたら、その時点で再計算する。これでもいい。
出世を人生の階段だと思うと、「登り始めたら最後まで登らなければ」という感覚になります。
でもFIRE民なら、「役職を期間限定の商品として使う」という発想があってもいい。
給与が増える期間は使う。経験も得る。資産も増やす。でもその役職を自分のアイデンティティにはしない。
会社を辞めた瞬間、「元課長」・「元部長」という肩書に執着しない。この距離感は、FIREとの相性がかなりいいと思います。
FIREできる資産があるほど、出世を冷静に判断できる
ここでFIRE資産の別の価値が出てきます。
十分な金融資産がない状態で、「昇進を断ったら将来の給料が下がる」と言われれば怖い。
住宅ローン。教育費。老後資金。会社の給与に大きく依存していれば、出世は半ば必須ルートになります。
一方、金融資産が増え、「最悪、この会社を辞めてもすぐには困らない」という状態になれば、昇進そのものを少し冷静に見られます。
やりたいなら受ける。割に合うなら受ける。面白そうなら受ける。
でも、「会社に残るために出世しなければならない」という強制力は弱くなる。
▶ 40代会社員の「辞められる力」が価値になる時代|FIREできる人が強くなる日本の未来 / FIRE計画の羅針盤
FIRE資産は実際に退職するためだけのものではありません。
会社から提示された選択肢を「断れる状態」を作ることにも価値があります。
出世の本当の自由とは、出世しない自由ではなく、「出世する・しないを自分で選べる状態」なのかもしれません。
40代会社員が昇進前に確認したい「出世ROIチェック表」
実際に昇進の話が来たら、次のように一度整理してみるといいと思います。
| 確認項目 | チェックする内容 |
|---|---|
| 基本給 | 昇進すると月額いくら変わるか |
| 役職手当 | 月額・年額でいくら増えるか |
| 賞与 | 評価係数・基本給上昇でどれだけ変わるか |
| 残業代 | 支給条件や実際の総額はどう変わるか |
| 年間手取り | 資産形成へ実際に回せる金額はいくら増えるか |
| 退職金 | 役職・等級・最終給与等が影響するか |
| 企業年金等 | 給与・等級が掛金や給付へ影響するか |
| FIREまでの年数 | その役職を何年間続ける予定か |
| 勤務時間 | 会議・管理業務・休日対応がどれだけ増えるか |
| 責任 | 人事評価・予算・トラブル対応等がどこまで増えるか |
| 転勤・異動 | 生活拠点やFIRE計画を崩す可能性があるか |
| 持ち運べる経験 | 退職後にも使えるスキルや経験が得られるか |
| 辞めやすさ | 昇進後も予定した時期に会社を離れられそうか |
全部○である必要はありません。むしろ、自分は何を重視するのかが分かれば十分です。
お金が最優先なら手取り増を強く見る。自由時間が最優先なら拘束時間を見る。将来少し働くつもりなら持ち運べる経験を見る。予定どおり完全FIREしたいなら、残存会社員年数と退出しやすさを見る。これが自分専用の出世ROIです。
「出世したくない」と思ったときに、本当に嫌なのは何なのか
最後に、数字ではない部分も考えたいと思います。
「出世したくない」と思ったとき、本当に嫌なのは出世そのものなのでしょうか。
給料が上がるのは嬉しい。裁量が増えるのも悪くない。でも、人事評価が嫌。部下のトラブルが嫌。経営層との会議が嫌。転勤が嫌。休日まで連絡が来るのが嫌。
このように分解すると、「役職そのものではなく、役職に付随する特定の条件が嫌」という場合があります。
逆に、「責任は増えてもいい。でも給与差が小さすぎる」なら問題は仕事内容ではなく報酬です。ここを分けると、自分の判断がかなり見えます。
管理職になりたくない人が怠け者とは限りません。昇進したい人が会社人間とも限りません。
会社から提示された交換条件を見て、「自分にとって高いか安いかを判断しているだけ」かもしれません。
そしてFIREを目指している人には、他の会社員にはない基準があります。
「この選択は、自分の自由を近づけるのか、遠ざけるのか」、ここが重要です。
まとめ|出世は「偉くなること」ではなく、FIREまでの投資案件として考える
「出世したくない」と思う40代会社員が、必ず損をしているわけではありません。
反対に、「FIREするから出世なんてどうでもいい」と最初から切り捨てるのも、少しもったいない。
昇進によって、給与が増える。賞与が増える。退職金や企業年金へプラスになる。持ち運べる経験が増える。
その増えたお金を資産形成へ回せば、FIREまでの距離が短くなることもあります。
一方で、拘束時間が増える。責任が増える。転勤リスクが増える。仕事が私生活へ侵入する。会社への依存が深まる。そして、FIRE直前なのに「せっかくここまで出世したから」と辞められなくなる。そんなコストもあります。
だから見るべきなのは、出世したか、しなかったかではありません。
その昇進によって、「何を追加でもらい、何を追加で差し出すのか」、これが「出世ROI」です。
そして40代FIRE民なら、もう一つ必ず入れたい数字があります。「FIREまでの残存会社員年数」です。
年間100万円増えても、あと2年しか働かないなら200万円です。年間50万円でも、あと15年働くなら750万円です。
さらに退職金、企業年金、時間、ストレス、転勤、将来の選択肢まで含めれば、答えは人によって変わります。
だから、「管理職になりたくない40代は負け組」でもなければ、「出世なんてコスパが悪いから全部断れ」でもありません。
FIREを目指す人にとって、会社の役職は人生の最終目的ではありません。
使えるなら使う。割に合えば受ける。資産形成を加速できるなら利用する。経験を得たいなら挑戦する。
でも、自分の時間や自由に対して高すぎる値札が付いているなら、別の選択肢も考える。
会社が提示してくる「昇進」という商品を、「ありがたがるのでも、毛嫌いするのでもなく、一度査定する」、それくらいの距離感でいいのだと思います。
FIRE資産を作る意味は、会社を辞めることだけではありません。
「出世しないと将来が怖いという状態から離れ、出世するかどうかさえ自分で選べるようになる」、そこまで来れば、「出世したくないのは損なのか?」という問いへの答えも変わります。
損か得かを決めるのは、肩書ではありません。
「その役職が、自分の残りの会社員人生と、その先の自由に何をもたらすか」、それを計算して決めればいいのです。
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・FIREが近づくほど、「もう少し働けば給料も退職金も増える」という誘惑も強くなります。今回の昇進判断を、FIRE直前期全体から考えたい方はこちらへ。
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・昇進で社内価値が上がるほど、人生の資産が一社へ集中する場合もあります。役職経験を「持ち運べる資産」と「会社固有資産」に分けて考えると、出世ROIがさらに見えやすくなります。
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・金融資産が増えるほど、「出世しなければ困る」から「割に合うなら出世する」へ立場を変えられます。FIRE資産が生む選択肢について考えた記事です。
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・管理職経験を将来の人的資本として積むべきか、それともFIREが近いなら時間を優先するのか。40代以降のキャリア投資を考える際に相性のよいテーマです。
▶ 定年まで働いてから自由になるのは本当に得?|FIRE民が考える「時間の先送りリスク」 / FIRE計画の羅針盤
・昇進によって給与を増やす一方、自由時間をどこまで会社へ追加投入するのか。お金だけでは見えない「時間の価値」から考えたい方はこちらへ。
※本記事における「出世ROI」「出世の手取り時給」「残存会社員年数」は、昇進によって得られる経済的メリットと時間・責任等の負担を整理するため、本記事で便宜的に用いている表現です。人事・労務・金融上の正式な指標ではありません。
※本記事は、昇進の辞退、管理職への就任、退職、転職、FIRE・早期リタイア等を一律に推奨するものではありません。役職、配置、昇進辞退の取扱い、賃金、時間外手当、退職金、企業年金等は勤務先の就業規則、賃金規程、人事制度、個別の労働条件等によって異なります。
※会社における「管理職」という呼称と、労働基準法第41条第2号の「管理監督者」は必ずしも一致しません。実際の時間外手当等の取扱いについて疑問がある場合は、勤務先の規程を確認し、必要に応じて人事・労務担当者、労働局、労働基準監督署、弁護士、社会保険労務士等の専門家へご確認ください。
※本文中の給与・手取り・勤務時間等の例は考え方を説明するための仮定であり、特定の会社や役職における一般的な待遇を示すものではありません。
※投資には元本割れのリスクがあります。昇進等によって増加した収入を新NISA、投資信託、株式、債券等で運用する場合は、制度内容、リスク、手数料、税制、家計状況等をご確認のうえ、ご自身の判断で行ってください。



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