円安で資産が増えてもFIREできない?|「円換算マジック」に注意 / FIRE計画の羅針盤

円換算マジックを見抜き、杖を振るってFIRE購買力の本質に気づくスーパー魔術師風のメガネおじさんを描いた、青基調の実写風アイキャッチ画像 FIRE計画の羅針盤

FIREを目指して投資を続けていると、ある日突然、資産形成がものすごく順調になったように見えることがあります。

毎月同じように新NISAで積み立てているだけなのに、オルカンやS&P500連動型の投資信託がぐんぐん上がる。
4,000万円だった金融資産が4,300万円になった。4,500万円が5,000万円を突破した。
あと1,000万円でFIRE」と思っていたのに、気がつけば目標額が目の前まで来ている。

株高ならもちろん嬉しいですが、その資産増加の一部が「円安によって生まれた円換算額の上昇」だったら、少しだけ見方を変えた方がいいかもしれません。

例えば、海外資産そのものの価値がほとんど変わっていなくても、1ドルを何円で換算するかが変われば、日本円で表示される評価額は動きます。

円安になれば円換算額は増えやすい。すると証券口座を開いた私たちの目には、「資産が増えた」と表示されます。
それ自体は間違いではありません。その時点で円に換えれば、以前より多くの円を受け取れるという意味では、本当に資産価値は増えています。

ただし、FIREを考えるならもう一つ確認したいです。

その増えた円で、将来どれだけ生活を買えるのか

円安は海外資産の円換算額を押し上げる一方で、輸入品やエネルギーなどを通じて日本の物価へ影響することがあります。
日本銀行も2026年7月の展望レポートで、円安はグローバル企業の収益にプラスとなる一方、輸入物価の上昇などを通じて家計の実質所得を下押しする面があると整理しています。

つまり、「資産側にも円安」、「生活費側にも円安」、この二つが同時に動く。
それなのに資産残高だけを見て、「5,000万円になった。FIRE達成!」と判断して大丈夫なのでしょうか。

そこでこの記事では、円安によって外貨資産の円換算額が膨らみ、実際の生活上の豊かさ以上にFIREへ近づいたように感じる現象を、便宜上、「円換算マジック」と呼ぶことにします。
そして今回もう一つ重視するのが、「FIRE購買力」、つまり、「自分の金融資産によって、現在または将来の生活をどれだけ維持できるか」を見るための考え方です。

FIREのゴールは、本当に「5,000万円」・「7,000万円」・「1億円」という数字なのでしょうか。
それとも、「自分の生活を十分長く買えるだけの購買力を持つこと」なのでしょうか。
円安で資産が増えている今だからこそ、FIREのゴールメーターを少し疑ってみます。

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  1. オルカンやS&P500は、なぜ円安で増えて見えるのか
  2. 円安で増えた50万円は「偽物の利益」ではない。それでも注意が必要な理由
  3. FIREでは「資産額」より「何年分の生活費か」で見ると景色が変わる
  4. 「新NISAが円安で儲かる」は正確ではない
  5. 円建て投資信託でも「円だけ持っている」とは限らない
  6. 円安で外貨資産が増えることは、むしろFIREの防波堤になる場合もある
  7. 何にお金を使うかで、円安のダメージは全然違う
  8. 「資産5000万円」をFIREゴールにすると為替に振り回される
  9. FIRE購買力は「年間生活費倍率」でざっくり把握できる
  10. 円安で目標資産へ届いたときほど「退職即決」をしない
  11. FIRE直後の「円高+株安」は意外と嫌な組み合わせ
  12. オルカンやS&P500を「円安だから売る」は別の話
  13. 為替ヘッジをすれば解決する?――これも単純ではない
  14. FIRE民の資産管理は「残高メーター1本」から卒業する
  15. 「あと1000万円でFIRE」を「あと生活費○年分」へ変えてみる
  16. 「円換算マジック」にハマっていないか5分で確認する
  17. 円高になって資産が減っても「FIREが遠ざかった」とは限らない
  18. FIRE目標額は毎年「生活費側」から更新する
  19. FIRE資産の本当のゴールは「日本円○○万円」ではない
  20. まとめ|FIREで見るべきなのは「何円持っているか」より「何年分の生活を持っているか」
  21. こちらの記事もあわせてどうぞ

オルカンやS&P500は、なぜ円安で増えて見えるのか

まず仕組みを簡単に整理します。海外株へ投資する為替ヘッジなしの投資信託は、海外企業そのものの株価だけでなく、為替相場の影響も受けます。
例えば米国株へ投資している場合、最終的に日本人投資家が見る基準価額は、米ドル建て資産を円へ換算した価値の影響を受けます。
非常に単純化すると、「海外資産の現地通貨での価値 × 為替レート」の両方が効いてくるイメージです。

三菱UFJアセットマネジメントも、eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)の基準価額について、米国株の値動きと米ドル/円の変動の双方が主な変動要因であり、円安は基準価額の上昇要因になると説明しています。
オルカンについても同様に、原則として為替ヘッジを行わず、現地通貨建て資産を保有するため、円高が基準価額の下落要因、円安が上昇要因になります。
ただしオルカンは米国だけではなく、日本を含む複数国へ投資するため、米ドルだけではなく複数の通貨の影響を受けます。

例えば、分かりやすく極端な仮定を置いてみます。
海外資産を1万ドル分持っていて、その資産価格自体はまったく変わっていないとします。
1ドル100円なら、円換算額は100万円。1ドル120円なら120万円。1ドル150円なら150万円。
資産価格がドルでは1ドルも増えていなくても、日本円では評価額が増えます。

海外資産仮定する為替円換算額
1万ドル1ドル100円100万円
1万ドル1ドル120円120万円
1万ドル1ドル150円150万円

これは説明のための仮定であり、将来の為替を予測するものではありません。
しかし、「円安で海外資産が増える」と言われる仕組みはこの中にあります。

そして重要なのは、「150万円になった50万円分が偽物というわけではない」ことです。
ここは誤解しない方がいいです。円へ交換すれば、本当に150万円になります。
問題は、「150万円になったから、自分の生活上の豊かさまで1.5倍になったと考えていいのか」ということです。

円安で増えた50万円は「偽物の利益」ではない。それでも注意が必要な理由

円換算マジック」と言うと、「じゃあ円安で増えた利益は幻なの?」と思うかもしれません。
そんなことはありません。為替差によって円換算額が増えたことも、投資成果の一部です。

海外資産を保有していたからこそ、日本円の価値が相対的に低下した局面で円換算価値が上がった。これはまさに外貨資産を持っていた効果の一つです。
むしろ日本で暮らす人が金融資産をすべて円だけで持つ場合、円そのものの購買力低下に資産側から備えにくくなる可能性があります。

それではなぜ「円換算マジック」に注意する必要があるのか。
理由は、「資産を測っている物差しそのものも円だから」です。

日本円で5,000万円。日本円で1億円。この数字は分かりやすい。
しかし円の購買力が変化すれば、同じ5,000万円で買えるモノやサービスも変わります。
つまり、「資産の価値と、資産を測る単位の価値が同時に動いている」わけです。

これがFIREでは厄介です。会社員なら、物価が上がっても将来的に給与が増える可能性があります。
FIRE後は給与収入が大きく減る、あるいはなくなる。
そのため、「資産額がいくらあるか」と同時に、「年間生活費がいくら必要になるか」を見ることが非常に重要になります。

FIREでは「資産額」より「何年分の生活費か」で見ると景色が変わる

ここで、同じ資産額を別の単位で見てみます。
金融資産5,000万円。年間生活費250万円。この人には単純計算で、「生活費20年分」の資産があります。
もちろん実際には投資収益、税金、年金、社会保険、インフレなどがありますから、「20年間で資産がゼロになる」という意味ではありません。ここでは単純な比較指標です。

では円安や物価上昇などを背景に、年間生活費が300万円になったらどうでしょう。
5,000万円÷300万円ですから、約16.7年分。
資産額は1円も減っていないのに、生活を買える年数は20年から約16.7年へ減っています。
逆に外貨資産の円換算額が5,500万円へ増えていても、年間生活費が330万円まで増えていたら、同じく約16.7年分です。

金融資産年間生活費単純な生活費倍率
5,000万円250万円20.0年分
5,000万円300万円約16.7年分
5,500万円300万円約18.3年分
5,500万円330万円約16.7年分

資産額が10%増えても、生活費も10%増えれば、FIRE購買力はほとんど変わらない」です。
資産残高を見れば、「500万円増えた!」と嬉しい。でも生活費倍率を見れば、「意外とゴールは近づいていない」ことがあります。

もちろん日本の物価が為替と同じ割合で動くわけではありません。
1ドル100円から150円になったから、日本の生活費が50%上がるわけではない。
企業の価格設定、輸入比率、原材料価格、賃金、政府政策など、多くの要因が絡みます。
だから、「円安率 = 生活費上昇率」という計算はしてはいけません。

それでも日本銀行が現在も円安から輸入物価・家計実質所得への経路を重要なリスクとして見ているように、為替と生活費が完全に無関係でもありません。
FIRE民なら、証券口座の増加率だけでなく、自分の生活費の増加率も一緒に見るだけでも「円換算マジック」への耐性はかなり上がります。

「新NISAが円安で儲かる」は正確ではない

ネット上では、「円安 NISA」、「円安 新NISA」、「円安 オルカン」、「円安 S&P500」といった言葉をよく見かけます。
ここで一つ言葉を整理しておきます。NISAそのものが円安で儲かるわけではありません。
NISAは税制上の口座、つまり器です。重要なのはその中で何を保有しているか。
日本株を保有している。円預金に近い資産を持っている。米国株へ投資している。オルカンを持っている。為替ヘッジありの外国債券を持っている。中身によって為替の影響は違います。
金融庁も、海外資産型の投資信託について、外貨建て資産を組み入れることで資産価格そのものの値動きに加え、基本的に為替変動の影響を受けると説明しています。

つまり正確には、「新NISAで為替ヘッジなしの海外資産を持っている場合、円安が円換算評価額を押し上げることがある」です。
この区別は地味ですが重要です。「NISAだから円安に強い」と思ってしまうと、制度と資産配分をごちゃ混ぜにしてしまいます。

円建て投資信託でも「円だけ持っている」とは限らない

オルカンもS&P500型投資信託も、日本の証券会社で買えば基準価額は円で表示されています。
すると、「円で買っているのだから円資産なのでは?」と感じる人もいるでしょう。
しかし、表示通貨が円だから、実質的な為替リスクがないわけではありません。

例えばeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)は、実質組入外貨建資産について原則として為替ヘッジを行わない運用です。
米国株市場が休場して株価が動いていなくても、為替が動けば基準価額が変動することがあります。

つまり、口座の画面には「」と書いてある。しかし「中身は外国企業の株式」ということが普通にあります。
FIRE資産を考えるときは、口座画面の通貨だけではなく、「その資産が経済的には何に投資しているのか」を見る方が大切です。
これは「円安に賭けろ」という話ではありません。自分が実際にどんなリスクを持っているかを理解する話です。

円安で外貨資産が増えることは、むしろFIREの防波堤になる場合もある

ここまで読むと、「じゃあ円安で増えた外貨資産は喜んじゃダメなの?」となりそうですが、逆です。喜んでいいです。
外貨資産を持っていることが、円の購買力低下に対する一つの防波堤になることがあります。

例えば海外で生産された商品が高くなり、日本円の相対的な価値が低下したとき、外貨建て資産の円換算額も増えていれば、生活費側の負担増を資産側がある程度補う。これはむしろ分散投資の価値です。

円安で資産が増えても無意味」ではありません。
そうではなく、「円安で資産が増えた効果を、額面だけで過大評価しない」ことが重要です。
この違いはかなり大きいです。外貨資産を持たず円だけで生活していれば、資産5,000万円は5,000万円のまま。
一方で輸入物価などを通じて生活費が上がる。外貨資産を持っている人なら、生活費が上がる一方で、資産側の円換算額も増える可能性があります。
つまり円安局面で、外貨資産の上昇は「棚ぼた」だけではなく、「購買力低下への補償」という意味も持つ。
ここまで理解すると、「円換算マジック」は少し違って見えます。
マジックだから偽物なのではありません。「見えている資産増加の意味を正しく読むための注意喚起」なのです。

何にお金を使うかで、円安のダメージは全然違う

FIRE購買力を考えるなら、年間生活費だけでも少し粗いです。
なぜなら、「どんな生活をする予定なのか」によって為替の影響が違うからです。

例えばFIRE後、国内の持ち家で暮らす、近所で買い物する、旅行も国内中心という人。
一方、毎年数カ月海外旅行する、海外ブランドや輸入品をよく買う、海外移住も検討しているという人。
同じ年間300万円の生活費でも、為替への感応度は違います。

FIRE後の支出為替の影響のイメージ
国内家賃・国内サービス中心為替の直接影響は比較的小さいが、物価経由の影響はあり得る
輸入食品・海外製品円安の影響を受けやすい場合がある
ガソリン・エネルギー関連国際市況と為替双方の影響を受け得る
海外旅行円安の影響を比較的直接受けやすい
海外長期滞在・移住支出通貨そのものとの関係が重要になる

これを少し投資っぽく言えば、「将来の支出と資産の通貨をある程度対応させる」という考え方です。
将来ほぼすべて円で使う人と、ドルやユーロで多く使う人では、同じ資産配分が最適とは限りません。
FIRE資産とは、「何円持つかではなく、何を買うための資産なのか」まで考えると一段深くなります。

「資産5000万円」をFIREゴールにすると為替に振り回される

FIREの話では、「資産5,000万円でFIRE」、「7,000万円なら安心」、「1億円でFAT FIRE」のように、金額で区切ることが多いです。
分かりやすいです。私自身も必要資産を考えるとき、円で表します。

でも為替変動の大きな局面では、この数字だけ追っていると妙なことが起きます。
円安。海外資産上昇。5,000万円達成。「ついにFIRE!」。
その半年後。円高。海外株価は変わっていないのに円換算評価額が4,500万円。「FIREできなくなった!」。こうなります。

でも本当に、半年間であなたの人生設計は500万円分も壊れたのでしょうか。
為替換算で数字が動いただけの部分もあります。逆に、円安で5,000万円へ届いた瞬間に、自分の経済的自由が突然完成したわけでもありません。

つまり、FIREゴールを一つの円建て数字だけで管理すると、為替がゴールテープを前後へ動かしてしまう。
そこで私は、FIRE資産を少なくとも二つのメーターで見る方がいいと思っています。
円建て総資産」、そして、「年間生活費倍率」です。
5,000万円」だけでなく、「現在の実生活費の20年分」。こちらも見る。
この二本立てなら、為替で円換算資産が大きく動いても、「生活を買える能力はどのくらい変わったか」を確認できます。

FIRE購買力は「年間生活費倍率」でざっくり把握できる

今回の「FIRE購買力」は、難しい指数にする必要はありません。
私はまず、「金融資産 ÷ 年間生活費」で十分だと思います。

5,000万円÷250万円=20。5,500万円÷275万円=20。
資産は500万円増えています。でも年間生活費も25万円増えています。すると生活費倍率は変わりません。
これを見るだけでも、「500万円増えた!」という感覚から、「購買力はほぼ横ばいか」へ認識を修正できます。
逆に、5,500万円になり、生活費が250万円のままなら22年分。これは明確にFIRE購買力が上がっています。

つまり円安で資産が増えたかどうかより、「資産増加率と、自分の生活費上昇率のどちらが大きいか」を見る方がFIREには実用的です。

円安で目標資産へ届いたときほど「退職即決」をしない

4,800万円。あと200万円。そこから円安と株高が重なって一気に5,300万円。
目標だった5,000万円を超えた。会社を辞めよう。気持ちは分かります。

ただ、FIRE開始はかなり大きな意思決定です。短期間の為替変動で目標額を超えた場合には、「その資産額が少し逆回転してもFIRE計画は成立するか」を一度確認した方が安全です。

例えば説明用に、海外資産の円換算額が10%下がったら。年間生活費が10%上がったら。株式市場が同時に20%下落したら。このようなストレスをかけてみる。
これは「円高になる」と予想する作業ではありません。「予想を外しても生きられるか確認する作業」です。
FIREに必要なのは為替予想能力ではなく、「為替を外しても壊れない計画」だと思います。

FIRE中に暴落が来たらどうなる?|40代独身のリアルと生存戦略 / FIRE計画の羅針盤

株価下落とFIRE直後の取り崩しが重なるリスクはこちらで整理しています。
外貨資産が多い場合は、そこへ為替変動も加わる可能性があります。

FIRE直後の「円高+株安」は意外と嫌な組み合わせ

海外株を中心にFIRE資産を作っている人には、少し嫌なパターンがあります。
円高」、そして「海外株安」、この二つが同時に来るケースです。

株価そのものが下がる。さらに円換算時の為替も逆風になる。
日本円で見た資産額はかなり大きく減る可能性があります。
しかもFIRE直後なら、生活費を得るために資産を売却する必要もある。
これが取り崩し初期と重なると心理的にはかなり厳しいです。

ただし、ここでも単純に、「だから海外株は危険」とはなりません。
反対に円安局面では外貨資産がクッションになることもあります。

重要なのは、「FIRE直後に必要な生活費まで、すべて値動きする外貨資産へ依存しない」という考え方です。

FIREを目指す人は現金いくら持つべきか?|キャッシュ比率の最適解 / FIRE計画の羅針盤

一定の現金を持つ意味は、暴落への備えだけではありません。
為替や株価が不利なタイミングで無理に資産を売らずに済む時間を作る役割もあります。

オルカンやS&P500を「円安だから売る」は別の話

ここまで円換算マジックを説明すると、「じゃあ円安でオルカンが上がっているうちに売った方がいい?」という疑問が出てきます。
その結論は出ません。為替が次に円高になるのか、さらに円安になるのかを正確に予測することは難しいからです。

株価そのものも動きます。円安だから売却する。円高になったから買い戻す。
これを繰り返せば、長期投資ではなく為替タイミング投資に近くなります。
金融庁も資産形成では、価格変動リスクを踏まえつつ、長期・積立・分散という考え方を基本として案内しています。
今回言いたいのは、「売買しろではなく、評価額の読み方を変えよう」ということです。
円安で増えた。嬉しい。でも、「これでFIRE必要資産が完全に完成した」とは即断しない。
これくらいの距離感がちょうどいいと思います。

為替ヘッジをすれば解決する?――これも単純ではない

それなら、「為替ヘッジありの商品を買えば円換算マジックを避けられるのでは?」と思うかもしれません。
確かに為替ヘッジは、為替変動の影響を抑える手段の一つです。
しかし、為替ヘッジにはコストが発生する場合があり、特に金利差が大きい局面ではその影響も考える必要があります。
また外国株へ投資する目的そのものが、海外経済への分散や円以外の資産を持つことにある人なら、為替変動を完全に消すことが必ずしも望ましいとは限りません。

だから、「FIRE民は為替ヘッジありにすべき」とも、「絶対に為替ヘッジなしでいい」とも言えません。
資産全体の構成、年齢、FIREまでの年数、生活費の通貨などによって考え方が変わります。
ここも「円安だから今すぐ商品を変える」という短期判断にはしない方がいいと思います。

FIRE民の資産管理は「残高メーター1本」から卒業する

ここまでの話をまとめると、FIRE直前の資産管理では、証券口座の「総資産」だけを見るのでは少し足りません。
私は少なくとも、次の5つを一緒に見るとかなり強くなると思います。

見るもの何が分かるか
円建て総金融資産現在の名目資産額
直近12カ月の実生活費現在の生活に実際いくら必要か
生活費倍率資産が生活費何年分あるか
資産配分株式・現金・債券など、何のリスクを持っているか
海外資産比率・為替影響円高・円安でどの程度評価額が動きやすいか

証券口座が6,000万円と表示している。それだけなら、「すごい!」で終わります。
そこへ、年間生活費300万円。生活費20年分。株式80%。その多くが海外資産。現金は生活費2年分。
このような情報まで付けば、「自分のFIRE資産がどのような構造で6,000万円になっているのか」が分かります。FIREでは、この構造の方が大切です。

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「あと1000万円でFIRE」を「あと生活費○年分」へ変えてみる

FIREを目指していると、「あと1,000万円」という考え方をしがちです。
現在5,000万円。目標6,000万円。だからあと1,000万円。分かりやすい。
でもここにもう一つ、「あと何年分の生活費が必要なのか」を追加すると、かなり景色が変わります。

年間生活費240万円の人なら、1,000万円は約4.2年分。年間400万円の人なら2.5年分です。
つまり同じ1,000万円でも、その人の生活によって意味が全然違う。
そして物価が上がれば、その意味も変わります。これが資産目標を購買力で考えるということです。

目標資産を達成してもFIREできない理由|生活費インフレと取り崩し恐怖に負けない独身おじさんの逃げ切り計算 / FIRE計画の羅針盤

資産目標へ届いたのにFIREできない心理や生活費インフレはこちらで詳しく扱っています。
今回の記事では、その目標資産自体が為替で膨らんで見えるケースを考えています。

「円換算マジック」にハマっていないか5分で確認する

難しい計算をする必要はありません。FIREを目指していて海外資産を多く持っているなら、年に一度くらい次の確認をするだけでも十分だと思います。

確認すること問いかけ
総資産1年前から何%増えたか
投資元本増えた分のうち、積立による増加はいくらか
海外株価保有資産そのものはどの程度上昇したか
為替円換算額を押し上げた・下げた影響が大きくないか
生活費直近12カ月の実支出はいくらになったか
生活費倍率資産は年間生活費の何年分あるか
FIRE直後資金相場・為替が悪くても当面生活できる現金があるか

ここで重要なのは、「為替要因を1円単位で分解しようとしないこと」です。
投資信託は複数通貨や多くの企業を持っていますし、企業業績そのものも為替の影響を受けます。
完璧な分解はかなり難しい。目的は投資分析の専門家になることではありません。

資産が20%増えた。でも同時に大幅な円安だったな」と分かるだけでも十分です。
そのうえで、「生活費倍率も改善しているなら、本当にFIREへ近づいている」、ここを確認します。

円高になって資産が減っても「FIREが遠ざかった」とは限らない

今回の話は逆方向にも使えます。円高になった。オルカンやS&P500型投資信託の円換算評価額が下がった。6,000万円が5,500万円になった。
ものすごく損したように見える。でも同時に、円の対外的な購買力は高まっています。

海外旅行費。輸入商品。海外サービス。こうしたものには追い風になる可能性があります。
国内物価が即座に下がるわけではありませんが、少なくとも、「円換算資産が減った = 自分の生活購買力が同じ割合だけ失われた」とも限りません。

つまり「円換算マジック」は、「円安で資産が増えたときだけ警戒する話ではない」のです。
円高で資産が減ったときにも、「円表示だけで悲観しすぎない」という逆の使い方ができます。

為替は、資産残高の見え方と、生活を買う通貨の価値を同時に動かす。
だから円の数字だけで喜んだり落ち込んだりしない。長期FIREには、このくらいの距離感が必要です。

FIRE目標額は毎年「生活費側」から更新する

FIRE必要資産の見直しというと、相場が上がった。だから目標額へ近づいた。このような資産側からの確認になりがちです。
でも私は、年に一度だけでも逆方向から計算し直した方がいいと思います。

今年実際にいくらで生活したのか」、ここから始めます。
去年240万円。今年252万円。来年はいくらになりそうか。その支出は一時的なのか。恒常的な値上がりなのか。
FIRE後にはなくなる会社員支出が含まれているか。FIRE後に増える旅行や趣味費はいくらか。
こうして年間生活費を更新し、そのうえで必要資産を考える。

FIREに必要なのは、古い生活費に現在の資産額を当てはめることではありません。
現在の生活価格に現在の資産を当てはめること」です。円安でも円高でも、こちらの方が計画として強いです。

FIRE資産の本当のゴールは「日本円○○万円」ではない

ここまで考えると、「FIREに必要な資産はいくら?」という質問への答えも少し変わります。
5,000万円。7,000万円。1億円。こうした数字は便利です。でも、それ自体がゴールではありません。

本当のゴールは、「自分の望む生活を、働き続けなくても十分長く維持できる資産を持つこと」です。
その生活費が年間200万円なら必要資産は変わる。年間500万円なら変わる。海外旅行を毎年するなら変わる。地方で暮らすなら変わる。円安になれば変わる。物価が上がれば変わる。年金見込みが変わっても変わる。
つまりFIRE必要資産は、一生固定された数字ではありません。

FIREは「節約力」より「満足力」で決まる?|少ないお金でも幸せな人が強い理由 / FIRE計画の羅針盤

自分がいくらあれば満足して生活できるかが違えば、FIRE購買力の意味も変わります。
そして今回追加したいのが、「通貨によっても見え方が変わる」ということです。

円安で資産が増えた。それは嬉しい。でも、その円で買える生活も確認する。これだけでFIRE計画はかなり現実的になります。

まとめ|FIREで見るべきなのは「何円持っているか」より「何年分の生活を持っているか」

円安になると、オルカンやS&P500など、為替ヘッジなしで海外資産へ投資する商品の円換算評価額は押し上げられることがあります。

証券口座を開けば、4,000万円。4,500万円。5,000万円。資産がどんどん増えていく。
もちろん嬉しいことです。円安による評価額上昇も、本物の資産価値です。
そして外貨資産を持っていることは、円の購買力低下に対する一つの分散にもなり得ます。
だから、「円安で増えた資産は全部幻」という話ではありません。

ただし、「円換算額が500万円増えたことと、自分が500万円分豊かになったことは必ずしも同じではない」、ここに注意したい。

円安は輸入物価などを通じ、家計の実質所得や物価へ影響する可能性があります。
海外旅行や輸入品など、円安の影響をより直接受ける生活をする人なら、なおさらです。

だからFIRE民は、「資産額だけではなく生活費も見る」ことが必要です。
5,000万円ある。それだけで終わらず、年間生活費250万円。だから20年分。
翌年、資産が5,500万円へ増えた。でも年間生活費も275万円になった。なら20年分のまま。このように見る。
これが今回考えた「FIRE購買力」です。そして、証券口座の円表示だけを見てFIREへ近づいたように感じる現象が、「円換算マジック」です。

マジックといっても、数字が嘘なのではありません。「数字の意味を読み違えないための言葉」です。
FIRE直前なら特に、円安で目標額を突破した。だから明日辞表を書く。ではなく、一度だけ確認する。
円高へ振れても成立するか。生活費が上がっても成立するか。株価が下がっても成立するか。当面の現金はあるか。
そして、「その資産は現在の生活費の何年分なのか」、ここまで問題なければ、為替が多少動いてもFIRE計画はかなり頑丈になります。

FIREのゴールは、「資産5,000万円」という表示を見ることではありません。
その資産によって、自分が望む生活を十分長く買える状態になること」です。

円安でも。円高でも。株高でも。暴落でも。完璧に予想できなくても生活が続く。
そこまで来て初めて、「FIREは為替相場から少し自由になる」のだと思います。

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※本記事における「円換算マジック」「FIRE購買力」は、為替変動による円換算資産額と実際の生活費・購買力の関係を整理するため、本記事で便宜的に用いている表現です。金融・経済上の正式な用語や指標ではありません。
※為替相場の変動が投資信託等の基準価額へ与える影響は、投資対象、為替ヘッジの有無、組入通貨、株価変動等によって異なります。本記事は「円安なら外貨資産が必ず上昇する」「円高なら必ず下落する」ことを意味するものではありません。
※為替変動が国内物価へ与える影響は、輸入比率、原材料価格、企業の価格転嫁、需給、賃金、政策等によって異なります。本記事中の為替・生活費等の数値例は考え方を説明するための仮定であり、将来の為替相場、物価、投資収益等を予測するものではありません。
※本記事は特定の為替水準を前提とした売買、為替ヘッジ、外貨資産への投資、オルカン、S&P500連動型商品等の購入・売却を推奨するものではありません。
※投資には元本割れのリスクがあります。新NISA、投資信託、株式、債券等を利用する場合は、価格変動リスク、為替リスク、手数料、税制、資産配分、家計状況等をご確認のうえ、ご自身の判断で行ってください。

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