投資を始めた理由は人それぞれですが、老後への不安を減らしたい、会社の給料だけに依存したくない、預金だけでは資産が増えないので新NISAを使って将来へ備えたい、といった目的から資産形成を始めた人は多いでしょう。
FIREを目指している人なら、その先にはさらに具体的な目的があったはずです。
会社を辞めても生活できるだけの資産を作りたい。嫌な仕事を無理に続けなくてもいい状態になりたい。お金のためだけに働く人生から降りたい。投資は、そのための手段だったはずです。
資産500万円や1,000万円の頃なら、やることは比較的分かりやすいものです。
生活防衛資金を確保しながら余剰資金を積み立て、長期・分散投資を続ける。
2,000万円、3,000万円と資産が増えても、まだ「増やす」という目的はそれほど揺らぎません。
ところが4,000万円、5,000万円、6,000万円とFIREに必要な資産が見えてくると、少し奇妙なことが起きます。
ともとは会社から自由になるために投資をしていたはずなのに、「あと500万円だけ増やしてから」、「今辞めると複利がもったいない」、「もう1年働けばかなり積み増せる」、「暴落したときのために、あと1,000万円あった方が安心」と、いつの間にか「資産を増やすことそのものが次の目的」になっていきます。
5,000万円を目指していた人が5,000万円へ到達すると6,000万円を目指し、6,000万円になれば7,000万円が欲しくなる。7,000万円まで来れば、今度はインフレや将来の増税が心配になり、8,000万円、1億円とゴールが遠ざかっていく。
そして最後には、「自由になるために資産形成を始めたのに、資産形成を続けるために会社へ残っている」という、なかなか見事な逆転現象が起こります。
もちろん、FIREに必要な資産額は固定ではありません。
生活費や物価、税金、社会保険、住宅費などが変われば、合理的な理由で必要資産を見直すことはあります。
しかし今回考えたいのは、それとは別の問題です。
経済的には次の段階へ移れるだけの資産を作ったのに、長年続けてきた「もっと増やす」という習慣だけが止まらず、本来その資産で手に入れたかった自由や時間まで先送りしてしまう。
この状態を便宜上、「資産形成のオーバーラン」と呼ぶことにします。
投資はいつまで続けるべきなのか。積立投資は何歳まで続ければいいのか。FIREしたら投資をやめるべきなのか。
そして何より、「資産を増やすことをいつまで人生の最優先事項にするのか」。
今回は「投資の始め方」ではなく、意外と難しい「資産形成の終わり方」について考えます。
- 「投資はいつまで?」には2つの質問が混ざっている
- 長期・積立投資が成功するほど「やめどき」が難しくなる
- 「資産形成のオーバーラン」とは何なのか
- 合理的にFIREラインを変えることと「何となくもっと欲しい」は違う
- 「もう少しあれば安心」には終点がない
- 投資の目的は途中で変えていい
- FIRE民ほど「給料から投資できる安心」に依存しやすい
- 「今年いくら投資できたか」が自己評価になっていないか
- FIRE直前なら「追加投資ゼロ」でも成立するか確認してみる
- 投資は何歳まで続ける?|年齢より「お金の仕事」で考える
- FIRE後も投資は続く。ただし「増やす」が主役ではなくなる
- 「増やす・守る・使う」は切り替えではなく比率の変化
- 資産形成がうまくいくほど「使う能力」が育たない
- 「複利がもったいない」を突き詰めると何も使えなくなる
- 「資産を減らしてはいけない」という思い込み
- オルカンを「持ち続ける」と「増やし続ける」は別の話
- 新NISAの満額投資が「新しいノルマ」になっていないか
- 資産形成オーバーランか確認する5つの質問
- 資産形成の終了条件を先に作っておく
- FIRE直前は「資産最大化」から「自由最大化」へ
- FIREできるのに働き続けること自体は何も悪くない
- 「使える時期」には賞味期限がある
- 「使うこと」もルール化すると楽になる
- 資産額以外にも「FIREの成果」を持つ
- 円換算資産の増加も「もっと」を加速させる
- FIRE後に資産が増え続けても、それはそれでいい
- 資産形成の卒業試験は「使えるか」なのかもしれない
- まとめ
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「投資はいつまで?」には2つの質問が混ざっている
「投資はいつまで続ければいいのでしょうか?」、この疑問を考えるとき、最初に二つの話を分けておいた方が分かりやすいと思います。
- 投資そのものをいつまで続けるのか
- 資産を増やすことを最優先にする時期をいつまで続けるのか
この二つは似ていますが、実は全く違います。
例えば45歳でFIREしたからといって、その翌日に保有しているオルカンやS&P500を全部売却し、金融資産を100%預金にする必要はありません。
むしろ45歳でFIREして90歳まで生きるなら、その後の運用期間は45年あります。
インフレによる購買力低下や資産寿命を考えれば、FIRE後にも株式や債券などを使った資産運用を続けることには十分な意味があります。
つまり、「FIRE = 投資終了」ではありません。
今回考えたいのは、FIREした後まで「資産最大化ゲーム」を続ける必要があるのかという問題です。
例えば会社員時代、毎月20万円を投資信託へ積み立てていたとします。
FIRE可能な資産へ到達した後も株式を保有し続けることと、「毎月20万円追加投資しなければ不安」、「毎年資産最高額を更新しなければ失敗」と考え続けることは別です。
だから今回のテーマは「投資から引退するべきか」ではありません。
「資産形成モードから、いつ卒業するか」、ここがポイントです。
長期・積立投資が成功するほど「やめどき」が難しくなる
長期投資では、相場が少し下がっただけで全部売却したり、半年利益が出なかったから積立を中止したりするより、一定のルールを決めて長期間続けた方が資産形成しやすくなります。
そのため投資を始めると、多くの人が少しずつ「続ける技術」を身につけます。
毎月決まった日に投資信託を買う。相場が下がっても慌てない。ボーナスが入れば追加投資する。生活費を抑え、余ったお金は証券口座へ回す。新NISAの年間投資枠もできるだけ使う。
10年、15年と続ければ、これはもはや投資判断というより生活習慣になります。
給料が入る。生活費を払う。残ったお金を投資する。翌月も同じことをする。そして資産が増える。
非常に優秀な仕組みです。ところが、目標だったFIRE資産へ到達した日にも、この仕組みは当然止まりません。
5,000万円になった翌月も積立設定はいつも通り発注されます。
証券会社は、「そろそろ十分じゃないですか?」とは聞いてくれません。
つまり長期投資で重要だった「途中でやめない習慣」が、ゴールへ近づいた後には、今度は「必要以上に続けてしまう習慣」へ変わる可能性があります。
資産形成に成功した人ほど、自分で終了条件を作らなければならない。少し皮肉な話です。
「資産形成のオーバーラン」とは何なのか
資産形成のオーバーランとは、「本来の目的を実現できるだけの資産を作った後も、資産を増やすこと自体が目的となり、自由の行使やお金を使う時期を必要以上に先送りしてしまう状態」を指します。
ここで重要なのは、「資産が増え続けること自体を悪いと言っているわけではない」という点です。
FIRE後も株式を保有し、市場が上昇した結果として6,000万円が7,000万円へ増える。それは大歓迎です。
投資を趣味として楽しみ、企業分析を続けたい人が投資を続けるのも何の問題もありません。
資産形成のオーバーランになるのは、「資産を増やすために、その資産で本来手に入れたかったものを使わなくなる」ときです。
例えば会社を辞める自由を買うために投資してきたのに、「あと500万円増やしたい」という理由だけで嫌な会社へさらに数年残る。
FIRE後に旅行するためのお金を貯めてきたのに、資産残高が減るのが怖くて旅行を毎年延期する。
自由な時間を作るために資産形成したのに、休日まで副業と投資情報のチェックだけで終わる。
こうなると投資は、人生を自由にする道具から、人生の行動を縛るルールへ少しずつ変わっています。そこがオーバーランの境目だと思います。
合理的にFIREラインを変えることと「何となくもっと欲しい」は違う
FIRE必要資産は固定ではありません。年間生活費が240万円から270万円へ増えた。住宅費が上がった。社会保険料を想定より多く払うことになった。こうした場合にFIRE必要資産を見直すのは合理的です。
現実が変わったので、ゴールを更新した。これはオーバーランではありません。
一方、生活費は変わっていない。住宅・年金・税金も確認した。ストレスケースまで試算して問題ない。
それでも、「5,000万円では何となく不安だから6,000万円」となる。
6,000万円へ到達すると、「やっぱり7,000万円」になる。
7,000万円になれば、「将来金融所得課税が変わったら怖いので1億円」となる。
この場合は、本当に必要資産を再計算しているのではなく、「不安の大きさに合わせてゴールを逃がしているだけ」かもしれません。
▶ FIRE必要資産は固定額ではない|税金・物価・金利で動く「FIREライン」の正体 / FIRE計画の羅針盤
「本当に必要額が増えた」のか、「何となくもっと欲しい」のかを分けられると、資産形成のオーバーランにも気づきやすくなります。
「もう少しあれば安心」には終点がない
資産形成を始めるとき、不安はかなり優秀なエンジンになります。
老後が不安だから貯める。会社に何かあったときのために資産を作る。無職になっても生活できる状態を作る。
こうした不安があるからこそ、支出を見直し、投資を続けられる人も多いでしょう。
問題は、不安には明確な終了条件がないことです。
資産500万円なら1,000万円あれば安心だと思う。1,000万円になると3,000万円欲しくなる。3,000万円になると5,000万円。5,000万円になると、「30%暴落すれば3,500万円になる」と考える。
1億円あっても、「半分になったら5,000万円しかない」と考えることはできます。
つまり、「貧乏になりたくない」という目標だけでは、資産形成のゴールを決められません。
未来の株価も物価も税制も寿命も正確には分からない以上、100%安全な資産額は存在しないからです。
不安はアクセルとしては優秀です。しかし、いつアクセルを緩めればいいかは教えてくれません。
だから資産形成を始めたときの強い動機を、一生そのまま使い続ける必要もないのだと思います。
投資の目的は途中で変えていい
投資の目的は、一生同じである必要はありません。
むしろ人生の段階が変われば、投資に求める役割も変わって当然です。
| 段階 | 資産に求める仕事 | 投資の主な目的 |
|---|---|---|
| 資産形成初期 | 元本を大きくする | 将来の選択肢を増やす |
| FIRE準備期 | 会社への経済的依存を減らす | 経済的自立へ近づく |
| FIRE直前期 | 必要資産を確保し、大きな失敗を避ける | 自由を実行できる状態を作る |
| FIRE開始後 | 生活費を支えながら資産を維持する | 自由な生活を長く続ける |
| その後 | 資産を生活・経験・安心へ変換する | 貯めた意味を人生で回収する |
30代では「老後不安を減らすため」。40代では「会社に依存しなくていい状態を作るため」。
FIRE直前なら「退職直後の暴落にも耐えながら生活できる状態を作るため」。
FIRE後なら「自由な生活を長期間維持するため」。目的は変わっていい。
むしろ、20年前と同じ理由で、20年前と同じように資産を増やし続ける方が不自然とも言えます。
投資商品をリバランスするように、「投資目的もリバランスする」、この感覚が必要なのではないかと思います。
FIRE民ほど「給料から投資できる安心」に依存しやすい
FIRE直前になると、会社員という立場が急に魅力的に見えてくることがあります。
毎月給料が入る。ボーナスもある。社会保険にも加入している。そして何より、給与から毎月追加投資できます。
資産1,000万円の頃なら年間200万円の追加投資は非常に大きな意味を持ちます。
ところが資産6,000万円になると、市場が1年間で5%動くだけでも300万円です。
自分が必死に年間200万円入金するよりも、資産全体の値動きの方が大きくなることさえあります。
それでも、「毎年200万円投資できなくなるのが怖い」と感じる。これは少し面白い状態です。
FIREとは本来、給与から資産を買い続けなくても生活できる状態を作るためにやってきたはずです。
それなのに、「資産形成のために給与が必要」と感じ続けるなら、経済的には会社から自立していても、心理的にはまだ給料から自立できていないのかもしれません。
FIRE直前に確認したいのは、「今後いくら追加投資できるか」ではなく、「追加投資しなくても成立するか」ということです。ここまで来ると、資産形成期とは見ている方向が逆になります。
「今年いくら投資できたか」が自己評価になっていないか
資産形成を長年続けると、「今年は240万円投資できた」、「新NISAの年間枠を全部使った」、「資産が前年より600万円増えた」といった数字が、一種の成績表になります。
これは資産形成期には非常に有効です。自分の努力を可視化しやすいからです。
ただしFIREが近づくと、同じ指標だけで人生を評価することには少し注意が必要になります。
例えば新NISAの年間投資枠を最大限使うために、以前から行きたかった旅行を何年も延期している人がいたとします。
制度上は投資枠を使い切った方が効率的かもしれません。
でも、NISA枠を使い切ることと、自分の人生を豊かにすることは同義ではありません。
非課税枠は便利な制度ですが、毎年必ず埋めなければならない義務ではありません。
制度は人生のために使うものです。人生を制度へ合わせる必要はありません。
資産形成のオーバーランは、このあたりから始まることがあります。
FIRE直前なら「追加投資ゼロ」でも成立するか確認してみる
資産形成の終了条件を考えるうえで、かなり分かりやすい質問があります。
「明日から追加投資をゼロにしても、FIRE計画は成立するか?」です。
例えば現在6,500万円。年間生活費250万円。住宅費も税・社会保険も確認済み。FIREラインもストレスケースまで試算した。それでも毎年200万円を追加投資しないと不安。
この場合、その不安がどこから来ているのかを考えてみる価値があります。
会社員時代は、自分が働いて金融資産を育てます。
しかしFIRE後は、今まで作ってきた金融資産にも働いてもらいます。
- 資産形成期は、自分が資産を育てる時期
- FIRE後は、育てた資産に生活を支えてもらう時期
投資そのものは続いても、主役が変わります。だから追加投資額が減ることは、資産形成の失敗ではありません。
むしろFIREが予定通り機能している証拠とも言えます。
投資は何歳まで続ける?|年齢より「お金の仕事」で考える
「投資は何歳まで続けるべきですか」という疑問もあります。
60歳で終わりなのか。65歳なのか。70歳なのか。私は、年齢だけでは決めにくいと思います。
45歳でも翌年FIREする人と、65歳まで働く人では、金融資産に求める役割が違います。
70歳でも、公的年金だけで生活費の大部分を賄える人と、金融資産から毎年多く取り崩す人では、必要な資産運用が違います。
だから、「投資を何歳まで続けるか」ではなく、「今このお金にどんな仕事をさせたいか」で考える方が分かりやすいです。
来年使う生活費。10年後に使うお金。30年後にも残しておきたい資産。これらを全部同じ投資期間として考える必要はありません。
▶ FIRE直前は株式比率を下げるべき?|「年齢とともに守りに入る」の定説を疑う / FIRE計画の羅針盤
「何歳だから株式何%」ではなく、FIREまでの距離と取り崩し期間から資産配分を考えることが重要です。
投資の目的が変われば、ポートフォリオに求める仕事も変わります。
FIRE後も投資は続く。ただし「増やす」が主役ではなくなる
40代FIREなら、退職した後も何十年と投資を続ける可能性があります。
これは別に矛盾ではありません。FIREすることと、投資をやめることは違います。
ただしFIRE前とFIRE後で、同じ指標を使い続ける必要もありません。
会社員時代なら、金融資産はいくら増えたか。年間投資額はいくらだったか。評価益はいくらか。こうした数字が重要でしょう。
ところがFIRE後は、年間生活費を無理なく支えられたか。暴落時にも慌てずに済んだか。資産配分が大きく崩れていないか。自分がやりたかったことにちゃんとお金を使えたか。こうした指標の方が重要になるかもしれません。
FIRE前は、「資産を増やすこと」が大きな目的です。
FIRE後は、「資産を使いながら自由を維持すること」が大きな目的になります。
この目的変更ができず、いつまでも資産増加額だけを成績表にしていると、オーバーランしやすくなります。
「増やす・守る・使う」は切り替えではなく比率の変化
資産形成は、「若いうちは増やす」、「退職したら守る」、「最後に使う」という三段階で考えたくなります。
しかし実際には、もう少し重なっています。FIRE後も株式を保有して長期的な成長を狙う一方、暴落時に備えて現金を持つ。そして毎年の生活費や旅行、趣味には資産を使う。
つまり、「増やす・守る・使うを同時に行いながら、人生の段階に合わせて重心を変えていく」イメージです。
- 資産形成初期なら「増やす」が圧倒的に中心でもいい
- FIREが近づけば、「守る」の比重が少し大きくなる
- FIRE後には、「使う」も正式な役割として加わる
資産形成のオーバーランが起こるのは、この重心がいつまで経っても「増やす」だけに偏ったままだからです。
だからFIREへ近づいても、投資を突然終了する必要はありません。
少しずつ資産の仕事を変えていけばいい。その方が現実的です。
資産形成がうまくいくほど「使う能力」が育たない
資産形成を続ける過程では、収入を増やす。固定費を削る。無駄遣いを減らす。余剰資金を投資する。長期保有する。こうした能力が鍛えられます。
ところが10年、20年とこの生活を続けると、「お金を使わない能力」だけが異常に上達することがあります。
旅行に50万円使おうとすると、「この50万円を年利5%で20年運用すれば……」と考える。
趣味に20万円使えば、「将来はもっと大きな金額になる」と考える。
計算自体は間違っていません。しかし人生には、逆方向の時間価値もあります。
45歳でできること。55歳でできること。75歳になってもできること。全部が同じではありません。
お金には複利がありますが、時間にも「賞味期限」があります。
資産形成のオーバーランで失う最大のものは、投資利益ではなく、もしかするとこの「今しか使えない時間」なのかもしれません。
「複利がもったいない」を突き詰めると何も使えなくなる
投資をしていると、複利の力は非常に魅力的に見えます。
100万円を今使わずに運用すれば、将来もっと大きな金額になる可能性がある。
その通りです。ただし、その計算を人生のすべてに当てはめれば、理論上は何も買えなくなります。
50万円の旅行も将来100万円かもしれない。20万円の趣味も将来40万円かもしれない。5,000円の食事も将来……。
最後はコンビニコーヒーまでDCF法で査定し始めます。
資産形成期には、「将来価値」を考えることが重要です。
でもFIREが近づいたら、「現在価値」も考えなければなりません。
45歳で使う50万円と、75歳で使う100万円は、同じ満足を生むとは限りません。金額だけでは比較できないからです。投資の数学は人生を考えるうえで強力な道具ですが、人生そのものではありません。
「資産を減らしてはいけない」という思い込み
資産形成中は、資産4,000万円。翌年4,500万円。翌年5,200万円。数字が増えていくことに慣れます。
そのためFIRE後に、6,500万円。翌年6,300万円となると、「200万円も減った」と感じるかもしれません。
でも、その200万円で1年間生活したのであれば、それは本当に投資の失敗なのでしょうか。
「20年間貯めてきた資産が、本来の目的通り生活費を払ってくれた」、そう考えることもできます。
資産は美術館へ展示するために作ったものではありません。
一生残高を眺めて、「私は6,500万円持っていました」と言うためだけのものでもありません。
FIREを目指したのであれば、少なくともその一部には、「自分の生活を支えるために使われるという仕事」があったはずです。
だから、資産が減ることと資産形成に失敗することは同じではありません。
この感覚を持てるかどうかは、FIRE後にかなり大きな差になると思います。
オルカンを「持ち続ける」と「増やし続ける」は別の話
例えばオルカンを中心に資産形成してきた人がいるとします。
FIRE後もオルカンを保有する。これは普通にあり得ます。
世界株式へ分散投資しながら長期的な成長を期待することには理由があります。
しかし、「毎月20万円オルカンを買い続けないと不安」となれば、少し話が違います。
保有を続ける理由と、追加購入を続ける理由は別だからです。
今後さらにいくら資産を増やす必要があるのか。そもそも追加投資が必要なのか。ここを一度確認した方がいい。
▶ オルカン1本でいいのか?|“それで十分な人・足りなくなる人”の違いを現実ベースで徹底整理 / FIRE計画の羅針盤
新NISAの満額投資が「新しいノルマ」になっていないか
資産形成オーバーランの分かりやすい例が、新NISAかもしれません。
新NISAは非常に使いやすい非課税制度です。だから利用できる人が活用することには大きなメリットがあります。
ただし、年間投資枠を使い切ること自体を人生の目標にする必要はありません。
例えばFIRE直前で必要資産も十分あり、本当は仕事を減らしたい。
それでも、「来年もNISAを満額埋めるには給与が必要だから働こう」となる。
もちろん本人が働きたいなら問題ありません。しかし本当は退職したいのに、非課税枠を埋めるためだけに会社へ残るのであれば、「手段と目的が逆転していないか」を一度考えてみてもいいでしょう。
NISAは自由を増やすための制度です。NISA枠へ人生を捧げる制度ではありません。
▶ FIREまでの距離に合わせて積立額や資産配分を見直すなら、楽天証券で新NISAや投資信託を確認する資産形成オーバーランか確認する5つの質問
では、自分が慎重にFIRE準備を続けているだけなのか、それとも「もっと増やす」が目的化しているのか。
その境目を一つの数字で決めることはできません。ただ、次の問いはかなり役立つと思います。
| 質問 | 確認したいこと |
|---|---|
| ①あと1,000万円増えたら、生活は具体的に何が変わるか | 目的のある1,000万円なのか、数字を増やしたいだけなのか |
| ②明日から追加投資ゼロでもFIRE計画は成立するか | 成立するのに入金をやめられない理由は何か |
| ③会社をあと1年続ける理由を金額で説明できるか | 合理的な必要額なのか、「何となく不安」なのか |
| ④今しかできないことを資産形成のために先送りしていないか | お金と時間の交換が逆転していないか |
| ⑤資産が減ると、それだけで「失敗」と感じるか | 資産を使うことそのものへ抵抗がないか |
特に私は、「あと1,000万円増えたら、自分の生活は何が変わるのか」という質問が大切だと思います。
例えば、年間旅行費を50万円増やしたい。住宅購入費として必要。取り崩し率をもう少し低くしたい。大型支出に備えたい。こうした答えがあるなら、その1,000万円には意味があります。
一方、「数字が増えると安心する」だけなら、その安心を作るために必要な数年間の会社員生活と、本当に交換したいのかを考えてもいいでしょう。
資産形成の終了条件を先に作っておく
FIRE直前になってから「いつまで増やせばいいのか」を考えると、不安に引っ張られやすくなります。
だから資産形成中から、「どの条件まで来たら、増やすこと最優先を終了するのか」を決めておくのも有効です。
例えば、基本FIREラインを上回る。ストレスケースでも大きく破綻しない。FIRE直後の生活資金を用意する。退職後の税・社会保険を確認する。大型支出は別枠で考える。
この条件まで揃えば、それ以上の資産増加は、「必要条件ではなくボーナス」と考える。
6,000万円必要で現在6,600万円なら、6,700万円へ増えればもちろん嬉しい。
でも、6,700万円にならなければ会社を辞められないわけではない。この違いは大きいです。
FIREラインを「もっと増やすための次の目標」として使うのではなく、「資産形成モードを終了してもよい条件」として使うわけです。
FIRE直前は「資産最大化」から「自由最大化」へ
FIREのために資産形成してきた人が本当に欲しかったのは、おそらく金融資産そのものではなく、「選択肢」です。
会社を辞める。働く時間を減らす。嫌な仕事を断る。住む場所を変える。長く休む。何もしない。そうした選択肢を買うために、資産を積み上げてきた。
だからFIREラインへ十分近づいた後は、「資産最大化」から、「自由最大化」へ目的を変える時期が来ます。
ここが、FIRE準備の最後に待っている難しいところだと思います。
貯めることに成功した人ほど、使うことが怖い。会社を辞められる資産を作った人ほど、辞める決断が難しい。
投資は数字のゲームですが、FIREは最後に必ず「意思決定のゲーム」になります。
▶ FIRE直前5年は「退職レッドゾーン」|FIREを7段階で考える“もうすぐ自由”が一番危ない理由 / FIRE計画の羅針盤
FIRE直前は暴落リスクだけでなく、「あと1年働けばもっと増える」という誘惑も最大になりやすい時期です。
資産形成オーバーランが起こりやすい局面でもあります。
FIREできるのに働き続けること自体は何も悪くない
資産6,000万円。FIRE可能。それでも会社が楽しいから働く。これは全く問題ありません。
1億円まで働きたい。仕事が好き。家族へ資産を残したい。大きな家を買いたい。寄付をしたい。こうした目的があるなら、さらに資産を増やすことにも明確な意味があります。
今回問題にしているのは、「FIREしないこと」ではありません。
本当は会社を辞めたいと思っているのに、「もっと資産があればという理由だけが無限に増え続けること」です。
働く自由もFIREの自由です。辞める自由もFIREの自由です。自分が選んで働いているなら、それはFIREと矛盾しません。
しかし自分では辞めたいと思っているのに、証券口座の数字だけが退職を許してくれないのであれば、資産形成の目的を一度見直す価値があります。
「使える時期」には賞味期限がある
お金そのものには明確な賞味期限はありません。しかし、お金を使ってできることには時期があります。
40代で長期旅行すること。60代で同じ旅行をすること。80代で同じ旅行をすること。費用が同じでも、同じ経験になるとは限りません。
旅行だけではありません。新しいことを始める。勉強する。住む場所を変える。人に会う。長期間休む。何もしない。その人にとって価値の高い時期があります。
だから、「あと1年働けば300万円増える」という計算だけでは、本当は十分ではありません。
- その1年間で失う自由時間には、どれくらいの価値があるのか
- 45歳から46歳になる1年間と、65歳から66歳になる1年間は、自分にとって同じなのか
FIREが近づいた人ほど、この「時間側の損益計算」も必要になります。
資産形成のオーバーランで本当に失うのは、投資利益ではなく、「人生の使用期限を持つ機会」なのかもしれません。
「使うこと」もルール化すると楽になる
投資を長期間続けられた理由の一つは、「自動化」です。
毎月決まった金額を積み立てる。相場を見て判断しない。先に投資して、残りで生活する。ルール化したから続けやすかった。
それなら、「資産を使うことも少しルール化」してしまえばいいと思います。
例えば、年間旅行予算を最初から確保する。趣味に使う金額を生活費とは別枠にする。
FIREラインを一定以上上回っている間は、超過分の一部を経験へ回す。
豪遊する必要はありません。重要なのは、「お金を使うたびに『資産を減らしてしまった』と罪悪感を持たなくてもいい仕組み」を作ることです。
「投資はルール化して成功したなら、資産活用もルール化する」、これは意外と相性の良い方法だと思います。
資産額以外にも「FIREの成果」を持つ
資産形成期なら、金融資産5,000万円。前年+600万円。年間投資額240万円。こうした数字で進捗を測ることができます。
でもFIREを目指した本当の理由が自由なら、それ以外にも成果があります。
会社への経済的依存度。自由に使える時間。嫌な仕事を断れる余裕。生活費に対する資産余力。FIRE後にやりたかったことの実行率。こうしたものも、FIREの立派な成果です。
例えば金融資産6,000万円から6,500万円へ増えた。でもそのために嫌な会社へ1年間残った。
これを必ずしも、「+500万円の成功」とだけ評価する必要はありません。
反対に6,000万円から5,900万円へ減った。でも1年間自由に暮らし、やりたかったことを実行した。
これも単純に、「-100万円の失敗」ではありません。
FIREの目的は証券口座の数字を最大化することではなく、「その数字によって人生の選択肢を増やすこと」だからです。
円換算資産の増加も「もっと」を加速させる
海外株式や海外資産を多く持っている場合、円安によって円換算の資産額が急速に増えることがあります。
6,000万円だった資産が6,500万円。さらに7,000万円。
数字だけを見れば、「この勢いなら8,000万円まで待った方がいいのでは」と思いやすくなります。
しかし、円換算資産の増加と、FIRE後に使える生活購買力の増加は同じとは限りません。
▶ 円安で資産が増えてもFIREできない?|「円換算マジック」に注意 / FIRE計画の羅針盤
証券口座の数字だけを追いかけると、資産形成オーバーランにも陥りやすくなります。
残高そのものだけでなく、その資産が自分の生活をどれくらい支えられるのかを見ることも大切です。
FIRE後に資産が増え続けても、それはそれでいい
資産形成のオーバーランをやめるというと、「じゃあFIRE後は資産を計画的に減らさなければならないのか」と思うかもしれません。
そんな必要もありません。例えば6,000万円でFIREし、年間240万円を生活費として使った。しかし株式市場が好調で、年末資産は6,300万円になった。翌年は相場が悪く5,800万円。その次は6,200万円。普通にあり得ます。
これでいいのです。FIRE後の資産は、毎年必ず増やす必要もなければ、計画通り一直線に減らす必要もありません。
自分の生活を支えながら、長期間持続すれば役割を果たしています。
▶ FIREの4%ルールは安全なのか?|40代独身が知るべき取り崩しの現実 / FIRE計画の羅針盤
資産形成の卒業試験は「使えるか」なのかもしれない
投資を始めるのは、それほど難しくありません。証券口座を作り、投資信託を買う。
続けることは少し難しい。暴落があっても積み立てる。そして資産を作るには、長い時間がかかります。
でも最後に、もう一つ難しい課題が残ります。「貯めた資産を、自分のために使えるか」です。
稼ぐ。貯める。増やす。守る。使う。この最後の「使う」まで進んで、資産形成はようやく一周するのではないでしょうか。
FIREを目指している人は、「いくら貯めればいいのか」について何度も考えます。
でも、「貯め終わったら何に使うのか」については、意外と考えていないことがあります。
ここを資産形成中から考えておけば、ゴールを過ぎてもいつまでも全力疾走する必要はなくなります。
資産形成のオーバーランを防ぐ一番の方法は、もしかすると「終わった後に何をしたいのか」を先に決めておくことなのかもしれません。
まとめ
「投資はいつまで続けるべきなのか」、私の答えは、「投資そのものには明確な終了年齢はないが、資産を増やすことを人生の最優先にする期間には終わりがあっていい」です。
40代でFIREするなら、その後も株式や債券などを使った資産運用は何十年と続くでしょう。
FIRE後も投資を続けること自体には、十分な意味があります。
ただし資産形成期と同じように、毎月もっと入金し、資産残高を毎年更新し、「去年より増えたか」だけを成功の基準にし続ける必要はありません。
FIREに必要な資産を作れたなら、「増やすための投資」から「自由を維持するための投資」へ、そして「人生のために使う資産」へ目的を更新する。その時期が来ます。
資産形成のオーバーランで怖いのは、資産を増やしすぎることではありません。
「資産を増やすことに夢中になり、その資産で買うはずだった時間を使わないまま失ってしまうこと」です。
5,000万円が6,000万円になることには大きな価値があります。でも45歳が46歳になるのも、同じ1年間です。
お金は後から増やせる可能性があります。過ぎた時間は買い戻せません。
だからFIREが近づいてきたら、「あといくら増やせるか」だけでなく、「この資産で、いつから自由を使い始めるのか」も考える。
投資は人生を豊かにするための非常に強力な道具です。
でも道具を磨くことだけが目的になれば、本来その道具で作りたかったものは完成しません。
資産形成を終えるということは、投資をやめることではありません。
「資産を増やすために生きる段階から、資産を人生のために働かせる段階へ移ること」、そこまでできて初めて、FIREの「Financial Independence」は証券口座の数字ではなく、本当に使える自由へ変わるのだと思います。
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※本記事で使用する「資産形成のオーバーラン」は、本来の資産形成目的を達成できる状態になった後も、資産を増やすこと自体が目的化する状態を説明するため、本記事で便宜的に用いている表現であり、正式な金融用語ではありません。
※本記事はFIRE・早期退職、積立投資の中止、金融商品の売却、資産の取り崩し等を推奨するものではありません。必要資産や適切な資産運用は、年齢、収入、支出、家族構成、住宅、年金、運用期間、リスク許容度等によって異なります。
※新NISAその他の税制・投資制度は今後変更される場合があります。制度を利用する際は最新の公的情報や金融機関の案内をご確認ください。
※株式、投資信託、債券その他の金融商品には、価格変動、元本割れ、為替変動、金利変動等のリスクがあります。投資・資産運用に関する判断は、ご自身の資産状況や投資目的等を踏まえて行ってください。


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