FIREを考え始めると、どうしても資産の話は証券口座中心になります。
新NISA、投資信託、ETF、株式、債券、現金。いくら持っているのか、どのくらいの利回りを期待するのか、年間いくら取り崩せるのかを考えているうちに、いつの間にか「資産とは証券口座に表示される数字のこと」という感覚になりがちです。
ところが40代以降になると、少し事情が変わってきます。
自分が住んでいる住宅を所有している人もいれば、親の実家を将来相続する可能性がある人、すでに土地や空き家を持っている人、賃貸物件や駐車場から収入を得ている人もいるでしょう。
金融資産とは性格の違う「保有不動産」が、少しずつ人生の資産表へ入ってきます。
ここで難しいのが、その不動産をFIRE計画の中でどう評価するかです。
3,000万円で売れそうな住宅なら、金融資産と同じように「3,000万円のFIRE資産」と数えていいのでしょうか。
家賃収入のない自宅利用の不動産は何も生んでいないのか、誰も住んでいない実家も査定額が1,500万円なら、そのまま1,500万円の戦力として考えていいのでしょうか。
私は、この問題を「いくらで売れるか」だけで見ると、FIREでは少し見えにくくなると思っています。
不動産には、売却価格とは別に、持っている間の暮らしを軽くしてくれる働きがあります。
反対に、市場価格はそれなりにあっても、自分では使わず、貸さず、売らず、税金や管理費だけを払い続けている不動産もあります。
同じ「資産1,500万円」でも、FIRE生活への貢献度はかなり違うわけです。
そこで今回は、自宅として利用している住宅、賃貸物件、実家・相続不動産、空き家、土地などの保有不動産を、単なる資産価値ではなく、「FIRE生活に何を返してくれているのか」という視点から整理します。
ここでは、その働きを分かりやすく「生活利回り」と呼び、「売らずに持っている間、その不動産が自分の暮らしをどれだけ支えているか」を考えるための物差しにします。
不動産の時価が「価格」なら、生活利回りは「役割」。
この二つを分けると、保有不動産とFIREの関係がかなり違って見えてきます。
- FIREで保有不動産を見るなら「いくらするか」と「何をしているか」を分ける
- “生活利回り”とは何か|不動産から現金が入らなくてもリターンはあり得る
- 自宅として利用する不動産は「家賃を消す」ことでFIREに貢献する
- 賃貸物件は「家賃収入」より手残りと自由度で考える
- 実家・相続不動産・空き家は「査定額」だけでFIRE資産に入れない
- 土地・駐車場・セカンドハウスも「何のために持っているか」を明確にする
- FIRE必要資産に保有不動産をどう入れる?|3,000万円の不動産と3,000万円の金融資産は同じではない
- 保有・売却・賃貸化を考えるなら「生活利回りチェック」をしてみる
- 不動産の時価が高くても「生活利回り」が高いとは限らない
- 40代独身FIREでは、不動産が「安心」と「固定」を同時に生む
- FIRE後は「不動産を増やす」より、遊んでいる不動産を減らす方が効くこともある
- まとめ|不動産の「時価」は価格、“生活利回り”は役割を見る
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FIREで保有不動産を見るなら「いくらするか」と「何をしているか」を分ける
株式なら比較的話は単純です。100万円で買った株が120万円になれば20万円の値上がりで、配当を受け取ればそれもリターンになります。
普通預金なら利息、債券なら利子があり、「その資産が自分に何を返しているのか」をある程度数字で確認できます。
不動産の場合は、ここが一気に複雑になります。同じ2,000万円相当の不動産でも、自分が暮らしている住宅、毎月家賃が入る区分マンション、親が暮らしている実家、誰も使っていない空き家、更地の土地では、家計に果たしている役割がまったく違います。
だからまずは、「市場価格と生活上の仕事を分けて考える」必要があります。
| 保有不動産 | 主な価値 | FIRE生活での主な仕事 |
|---|---|---|
| 自宅として利用する住宅 | 売却価値・居住価値 | 家賃支出を抑え、住居を確保する |
| 賃貸物件 | 売却価値・収益価値 | 手取り家賃収入を生む |
| 実家・相続住宅 | 売却価値・利用可能性 | 将来住む、貸す、売る選択肢になる |
| 空き家 | 土地・建物の売却価値 | 使わなければ維持費だけ発生することもある |
| 駐車場・貸地 | 土地価値・収益価値 | 利用料・地代を生む可能性がある |
| セカンドハウス | 売却価値・利用価値 | 旅行・滞在費などを代替する場合がある |
こうして並べると、「不動産だから資産」・「現金収入がないから価値がない」という二択では整理できないことが分かります。
自分で暮らしている住宅から毎月8万円が銀行口座へ振り込まれることはありません。
しかし、その住宅がなければ同等の部屋を借りるために毎月8万円を払う必要があるとすれば、保有不動産を利用することで家計から出ていくお金を抑えているとも考えられます。
自己所有住宅が提供している住宅サービスを経済価値として捉える考え方は、経済統計にもあります。
内閣府の国民経済計算では、自己所有住宅について「帰属家賃」という考え方を使い、自分の家に住むことで受けている住宅サービスを推計しています。
もちろん、これは自分の銀行口座に家賃収入が入ったという意味ではありませんが、「自分で利用する不動産にも経済的なサービス価値がある」と考える参考にはなります。
FIREでは、この部分がかなり重要です。資産をいくら持っているかだけでなく、その資産によって「年間生活費がいくら小さくなっているか」まで見る。ここまで考えて初めて、不動産のFIRE上の役割が見えてきます。
“生活利回り”とは何か|不動産から現金が入らなくてもリターンはあり得る
投資用不動産なら、「表面利回り」・「実質利回り」といった数字があります。
しかし、自分で使う住宅や将来住む予定の実家には、通常は家賃収入がありません。そ
れでもFIREの生活設計という意味では、何も生んでいないとは限りません。
そこで考えたいのが、今回の「生活利回り」です。
いきなり%を計算するより、まずはその不動産が年間で生活にどのくらい貢献しているかを整理した方が分かりやすいでしょう。
大まかなイメージとしては、「家賃などの手取り収入」、「所有することで払わずに済んだ住居費」、「そこから税金・修繕・管理費」などの維持コストを差し引くという考え方です。
自分で利用している住宅なら家賃収入はありませんが、「同等の住宅を借りた場合に払うはずだった金額」があります。
賃貸物件なら家賃収入を使い、誰も使っていない空き家なら、収入も支出削減もない一方で、税金や管理費が発生する可能性があります。
さらに比較したい場合には、その年間の生活貢献額を、不動産を売却した場合に手元へ残ると考えられる金額で割るという見方もできます。
ただし、この数字は一般的な不動産投資の利回りではありません。
住宅ローン残高、売却費用、税金、将来の修繕、地域の状況によって数字は大きく変わるので、あくまで「この不動産を持ち続けることが自分のFIRE生活に何を返しているか」を整理するための個人的な物差しです。
むしろ重要なのは、細かい利率を計算することではありません。
現金を生んでいるのか。生活費を減らしているのか。将来の選択肢を残しているのか。それとも維持費だけを食べているのか。この四つを切り分けるだけでも、不動産の見え方はかなり変わります。
自宅として利用する不動産は「家賃を消す」ことでFIREに貢献する
たとえば、同程度の住宅を借りれば月8万円かかる地域で、自分が所有する住宅に住んでいるとします。
住宅ローンはすでに完済し、固定資産税、管理費、修繕への備え、保険などをならすと月3万円程度の負担になると仮定しましょう。
賃貸なら年間96万円、自分の住宅を利用する場合の年間コストが36万円なら、差額は60万円です。
この60万円が現金収入として増えたわけではありませんが、FIRE生活では「年間60万円を金融資産から捻出しなくても済む状態」を作っています。
4%ルールを単純な比較用の物差しとして使えば、年間60万円を金融資産から賄うために必要な元本は1,500万円です。年間96万円なら2,400万円、年間120万円なら3,000万円になります。
| 年間で減らせる住居費 | 4%で単純換算した金融資産額 |
|---|---|
| 36万円 | 900万円 |
| 60万円 | 1,500万円 |
| 96万円 | 2,400万円 |
| 120万円 | 3,000万円 |
もちろん、「年間60万円の住居費を減らせる住宅だから、その家の価値は1,500万円」という話ではありません。
4%ルールも将来の安全な取り崩しを保証するものではなく、この表はあくまで支出削減のインパクトを比較するための単純な目安です。
それでも、年間支出を60万円小さくできることがFIRE計画に与える影響はかなり大きいです。
投資信託の期待リターンを0.5%上げる方法には敏感でも、毎年数十万円の固定費を消してくれる保有資産は、案外雑に扱われています。
FIREでは生活費を資産から賄うのですから、いくら増えるかと同じくらい、いくら必要なくなるかも大切です。
ただし、ここで「自宅利用の不動産を買えばFIREが近づく」と単純化するのも危険です。
取得には大きな資金が必要で、そのお金を株式や投資信託で運用できた可能性もあります。
購入・売却費用、価格下落、大規模修繕、災害、固定資産税といったコストもあります。
結局FIREとの相性を決めるのは、不動産を所有しているという事実そのものではありません。
「その不動産に固定しているお金に対して、暮らしがどれくらい軽くなっているか」、ここを見る必要があります。
賃貸物件は「家賃収入」より手残りと自由度で考える
人に貸している賃貸物件なら、自宅利用の不動産より分かりやすそうです。
毎月10万円の家賃が入れば年間120万円の収入なので、FIRE後の給与代わりになるようにも見えます。
しかし、毎月10万円入ることと、年間120万円が自分の生活費として残ることは別です。
管理費、修繕費、保険、固定資産税、空室、入退去時の費用、設備交換などが発生し、借入があれば返済もあります。
建物が古くなれば、大規模修繕や賃料低下を考えなければならない場合もあります。
そのためFIREで見るべきなのは、満室時の家賃ではなく、「一年を通して最終的にいくら手元へ残ったか」です。
さらに、不動産は金融資産とは違うリスクを持っています。
一つの物件へまとまった資金が集中し、地域の人口動態、災害、周辺環境、建物の老朽化などの影響を強く受けます。
売りたい日に証券取引所でクリックして売却できるものでもありません。
一方で、株式市場とは違う形でキャッシュフローを作れるという強みもあります。
そのため、「家賃収入があるからFIRE向き」でも、「不動産は面倒だからFIREに不向き」でもなく、「手残り収入、物件に固定している資金、管理に使う時間、売却しやすさをまとめて評価する」方が現実的です。
ここでは、お金だけでなく時間も重要です。表面上は高い利回りでも、設備故障、入居者対応、管理会社とのやり取りなどが頻繁にあり、常に物件のことが頭から離れないなら、自由時間を買うはずのFIREとの相性はそれほど良くないかもしれません。
FIREで欲しいのは、最高利回りの資産だけではありません。自分を自由にしてくれる資産です。
実家・相続不動産・空き家は「査定額」だけでFIRE資産に入れない
40代独身になると、もう一つ避けて通りにくい不動産があります。「実家」です。
今は親が暮らしていても、将来相続する可能性があります。兄弟姉妹がいれば分割や共有の問題もありますし、一人で引き継ぐなら管理や処分も自分で考える必要があります。
実家には大きく3つの使い道があります。
- 将来自分が住む
- 誰かに貸す
- 売却して現金化する
このどれかが現実的であれば、実家には「将来の選択肢」という価値があります。
たとえばFIRE後に都市部の高い家賃をやめ、実家を生活拠点として利用できるなら、将来の住宅費を大きく減らせる可能性があります。
一方、「いつか考えよう」と放置し、誰も住まない、貸さない、売らない状態になると話は変わります。
総務省の2023年住宅・土地統計調査では、全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%に達しています。
もちろん、すべてが相続した実家ではありませんが、「家が存在することと、その家が誰かの生活に利用されていることは同じではない」と分かります。
誰も利用していない不動産でも、固定資産税や保険、最低限の管理は必要です。
庭木や雑草、雨漏り、防犯、近隣への配慮など、建物は使っていなくても時間とお金を要求してくることがあります。
査定額1,500万円だからといって、自分のFIRE資産へそのまま1,500万円を足すのは危険です。
売る予定がなく、貸すことも難しく、自分で利用する予定もないまま年間20万円の維持費だけ出ているなら、今のFIRE生活に対する貢献はむしろマイナスでしょう。
こうした不動産は、私は「休眠資産」と考えると分かりやすいと思っています。
価値がないわけではありません。まだ、仕事を与えられていない資産です。
土地・駐車場・セカンドハウスも「何のために持っているか」を明確にする
保有不動産は住宅だけではありません。相続した土地、駐車場、貸地、倉庫、地方の土地、セカンドハウスなどを持つ人もいるでしょう。
ここでも、「不動産を持っている」という一括りで見るより、その資産が自分の生活で何をしているかを確認した方が分かりやすくなります。
駅に近い土地を月極駐車場として貸し、安定した手取り収入を生んでいるなら、FIREのキャッシュフローを補う資産として機能しています。
一方、誰も利用しない土地を「いつか値上がりするかもしれない」と持ち続け、税金や草刈り代だけを払い続けているなら、少なくとも現在の生活利回りが高いとは言いにくいでしょう。
セカンドハウスについても同じです。家賃収入を生まなくても、毎年長期間利用してホテル代や滞在費をかなり代替しているなら、本人にとっては生活上の価値があります。
反対に年に数日しか使わないのに、管理費・修繕・税金が大きければ、それは投資というより「不動産という形をした消費」に近づきます。
それ自体が悪いわけではありません。旅行が好きな人が旅行へお金を使うように、自分が納得してセカンドハウスへお金を使うなら問題ありません。
危ないのは、趣味や消費として所有しているものを「これは資産形成だから」と説明し、自分でも本当のコストが見えなくなることです。
趣味なら趣味、収益資産なら収益資産、生活費を減らす住宅なら生活インフラ。
役割をはっきりさせるだけで、不動産はかなり管理しやすくなります。
FIRE必要資産に保有不動産をどう入れる?|3,000万円の不動産と3,000万円の金融資産は同じではない
仮にAさんとBさんがいて、どちらも純資産5,000万円だとします。
Aさんは金融資産5,000万円で、不動産は所有していない。
Bさんは金融資産2,000万円と、自宅として利用する不動産3,000万円を持っている。
純資産だけなら二人とも5,000万円ですが、FIRE開始後に年間240万円の生活費が必要なら、使えるお金の性格はまったく違います。
Aさんは5,000万円の金融資産から生活費を作れます。
Bさんは住宅を売らずに住み続けるなら、基本的に取り崩せる金融資産は2,000万円です。
その代わり、自宅利用によって家賃負担が小さくなり、Aさんより年間生活費が低い可能性があります。
つまりFIRE計画では、不動産を金融資産と同じように足すのではなく、「生活費側へ効かせる」という考え方が重要になります。
「3,000万円の住宅を持っているからFIRE資産3,000万円」とするより、その不動産を利用することで「年間生活費がいくら減っているか」を見る方が、現実に近いです。
たとえば賃貸生活なら年間300万円必要だった生活費が、自宅利用によって年間240万円まで下がるなら、FIRE計算へ直接効いてくるのは、不動産の時価3,000万円そのものより年間60万円の支出差です。
一方、将来その住宅を売却するなら話が変わります。売却時点で不動産は現金へ変わり、金融資産として資産寿命を支える可能性があります。
つまり不動産には、「保有中の生活価値」と「売却したときの現金化価値」という二つの顔があります。
ただし、この二つを同時にフルで数えないことが重要です。
「住宅3,000万円も資産に入れる。しかも家賃がかからないから必要資産も大きく減らす」と、都合の良い部分だけ二重計上するとFIRE計画を楽観的にしすぎます。不動産は便利ですが、分身はできません。
「住み続けるなら、生活費を小さくする仕事」・「売却すれば、現金を作る仕事」、自分のFIRE計画では、どちらの仕事をさせる予定なのかを決めておく必要があります。
▶ 不動産だけに偏らず、楽天証券で金融資産の長期分散も整えておく保有・売却・賃貸化を考えるなら「生活利回りチェック」をしてみる
では、自分が所有している不動産をどう点検すればいいのでしょうか。
いきなり「売るべき」・「残すべき」と決める必要はありません。
まず、その不動産が現在どんな仕事をしているか、今後どんな仕事をさせられるかを棚卸ししてみると分かりやすくなります。
| 確認すること | FIRE目線で見るポイント |
|---|---|
| 今いくらで売れそうか | 金融資産へ変えられる規模 |
| 年間いくら収入があるか | 家賃・駐車場代などの手取り収入 |
| 年間いくら支出を減らしているか | 自分で利用することで代替できている家賃など |
| 年間維持費はいくらか | 税金・管理・保険・修繕等の負担 |
| 今後大きな修繕が必要か | 建物・設備更新などの将来支出 |
| 現実的に売れるか | 立地・需要・共有名義・権利関係など |
| 貸せるか | 賃貸需要と管理負担 |
| 将来自分で利用する可能性があるか | 移住・介護・老後の住居等 |
| 持つことで自由が減っていないか | ローン・管理・地域への固定・心理的負担 |
| なくても生活は成立するか | その不動産への依存度 |
売却価格の目安を確認するときは、不動産会社の査定だけでなく、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」で実際の不動産取引価格や地価公示などを確認する方法もあります。
個別物件は立地や築年数、面積、状態によって条件が大きく違いますが、「自分の頭の中で想定している価格」と実際の市場が大きくズレていないかを見る材料にはなります。
ここまで整理すると、「不動産は残すべきか、売るべきか」という単純な二択から少し離れられます。
年間100万円の手残りを生む物件なら、保有を続ける理由があります。年間80万円の住居費を減らしてくれる住宅にも役割があります。将来自分が住む可能性が高い実家なら、将来の住居オプションとして価値があります。
一方で、収入がなく、利用予定もなく、将来使う可能性も低いのに毎年維持費だけが発生する不動産なら、感情面を含めても一度立ち止まって考える価値があります。
重要なのは、不動産を持っているかではなく、「その不動産が自分の人生で働いているか」です。
不動産の時価が高くても「生活利回り」が高いとは限らない
ここで、少し極端な例を考えてみます。東京都心に5,000万円のマンションを所有している人と、地方に1,500万円程度の住宅を所有している人がいるとします。
市場価格だけを見れば、前者の方が明らかに大きな資産ですが、FIRE生活という視点では、話はそれほど単純ではありません。
5,000万円のマンションに高い管理費や修繕積立金がかかり、本人には広すぎ、退職後もその場所へ住み続ける必要がない。
一方、1,500万円の住宅は本人の生活にちょうどよく、維持費も小さく、同等の住宅を借りれば月7万円程度かかる。
そうであれば、市場価格では前者、生活利回りでは後者の方が魅力的ということもあり得ます。
もちろん逆もあります。地方の住宅価格が安くても自動車が必須で、車両費、保険、ガソリン、修理費が増えるかもしれません。病院やスーパーが遠く、冬は除雪が必要で、古い住宅なら修繕費も膨らむ。将来売ろうと思っても買い手がなかなか見つからない可能性もあります。
すると住宅そのものは安くても、暮らし全体のコストは決して低くありません。
だから「FIREなら地方の安い家を買えばいい」という話でもないのです。
住居費だけでなく、交通、医療、買い物、維持管理、時間、将来の売却可能性まで含めて考える。
数字一つだけなら比較は簡単ですが、人生全体のコストは一つの数字だけではなかなか測れません。
40代独身FIREでは、不動産が「安心」と「固定」を同時に生む
40代独身と不動産の組み合わせには、家族世帯とは少し違う特徴があります。
まず、住宅の広さを比較的自由に決められます。子どもの部屋や学区を考える必要がないため、自分一人に必要なサイズまで小さくできれば、取得費だけでなく光熱費、管理費、修繕費も抑えやすくなります。これはFIREとの相性が良い部分です。
しかし一方で、住む場所を固定した結果も自分一人で受け止めることになります。
親の介護が必要になった、もっと便利な場所へ移りたくなった、地方や海外で暮らしてみたくなった、体調を崩して駅や病院の近くへ住みたくなった。40代から先は、現在の生活条件がそのままずっと続くとは限りません。
独身FIREの強みは、「身軽さ」です。不動産は、その身軽さの一部と引き換えに、居住の安定を提供してくれる資産でもあります。
だから、「老後のために住宅を確保すれば安心」と考えるだけでも、「FIREなら賃貸で身軽に暮らすべき」と決めつけるだけでも不十分です。
「住居の安定と移動の自由、自分はどちらをどの程度欲しいのか」、ここを考える必要があります。
また会社員を辞めると、住宅に関する信用環境も変わります。すでに借りている住宅ローンを返済し続けることと、退職後に新しく住宅ローンを組むこと、賃貸住宅の審査を受けることは別の問題です。
退職してから「やっぱり住宅を買いたい」、「もっと良い賃貸へ移りたい」と考えるより、会社員として信用を持っている段階で方向性を整理しておく価値はあります。
▶ FIREすると住宅ローンはどうなる?|退職前に考える住宅戦略と繰上返済の判断軸 / FIRE計画の羅針盤
ただし、これは「FIRE前に不動産を買うべき」という意味ではありません。
買うのか、借りるのか。今ある住宅を使うのか、将来実家を使うのか。それとも身軽なまま選択肢を残すのか。
FIRE前に住宅を決めるのではなく、「FIRE前に住宅の選択肢を整理しておく」、このくらいの距離感がちょうどいいと思います。
FIRE後は「不動産を増やす」より、遊んでいる不動産を減らす方が効くこともある
資産形成では、「次に何を買うか」へ目が向きやすくなります。
株式を増やす、債券を入れる、不動産を取得する、ゴールドを持つ。新しい資産を加えることには分かりやすい達成感があります。
しかし40代以降になると、逆の視点も必要になります。
「すでに持っている資産の中に、働いていないものはないか」です。
特に不動産は一件あたりの金額が大きいため、遊んでいる場合の影響も大きくなります。
誰も住んでいない実家、使っていない土地、ほとんど訪れないセカンドハウス、収益性が大きく落ちた賃貸物件。
それらを保有したまま「不動産資産○千万円」と安心していても、FIRE生活では現金を生まず、むしろ維持費だけが出ていく可能性があります。
しかし、売却すれば金融資産へ変えられます。貸せばキャッシュフローを作れる場合がありますし、自分で利用すれば家賃を小さくできます。家族が利用することで別の価値を生む場合もあるでしょう。
つまり不動産は、「使い方を変えることで仕事そのものを変えられる資産」です。
FIREで大切なのは、不動産を何件持っているかでも、不動産の合計査定額がいくらかでもありません。
「自分が保有している資産のうち、どれだけが今の人生のために働いているか」です。
資産形成の前半では、資産を増やすことが大きな課題です。
しかし資産形成の後半では、すでに持っている資産へ役割を割り振ることが重要になってきます。
増やす時代から、働かせる時代へ。不動産は、その変化が特に分かりやすい資産なのだと思います。
まとめ|不動産の「時価」は価格、“生活利回り”は役割を見る
FIREで保有不動産を考えるとき、私は「これは資産なのか」と二択で考えるより、その不動産が今どんな仕事をしているのかを見る方が役に立つと思っています。
自宅として利用している住宅なら、家賃という大きな固定費を減らしているかもしれません。
賃貸物件なら、手取りの家賃収入を生んでいるかもしれません。
実家なら、将来住む、貸す、売るという選択肢を残している可能性があります。
反対に、空き家や利用していない土地なら、まだ仕事を与えられていない休眠資産かもしれません。
セカンドハウスも、収益資産なのか、生活インフラなのか、趣味のための消費なのかによって意味が変わります。
不動産の時価は、「今日売ったら、いくらになりそうか」を教えてくれます。
今回考えた生活利回りは、「売らずに持っている今日、その不動産は自分の生活へ何を返しているか」を見るためのものです。
どちらか片方だけが正しいわけではありません。両方見る必要があります。
そしてFIRE計画では、もう一つ大事なことがあります。
自宅として利用する不動産3,000万円と、取り崩せる金融資産3,000万円は同じではありません。
不動産が生活費を減らしているなら、その効果は年間生活費の側へ反映させる。将来売却して金融資産へ変える予定なら、その段階で使える資産として考える。
資産価値と支出削減を、自分に都合よく二重に数えない。これだけでもFIRE計画はかなり現実的になります。
40代になると、新NISAや預金だけではなく、自分の住宅、実家、土地、相続予定の不動産など、さまざまなものが資産表へ載り始めます。
だからこそ、「いくら持っているか」だけでなく、「それぞれに何をさせるのか」まで考えておきたいところです。
株式には、長期的に資産を育てる仕事があります。現金には、突然の支出から生活を守る仕事があります。債券には、相場が悪い時期に時間を稼ぐ仕事があります。
そして不動産にも、住居費を減らす、収入を生む、生活拠点を確保する、将来の選択肢を残すという仕事があります。
FIREは、資産をたくさん並べるゲームではありません。
「自分が持っている資産に、自分の人生を支える仕事をきちんと割り振ること」です。
その意味では、値上がりもしない、配当もくれない小さな住宅が毎月の生活費を静かに減らし続けているなら、証券口座では見えない場所でかなり働いているのかもしれません。
逆に、立派な不動産でも、誰も使わず、収入もなく、管理費の請求書だけ毎年持ってくるなら――。
そろそろ一度、個別面談をしてあげてもいいかもしれません。
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・不動産はすぐに現金化できるとは限りません。保有不動産とは別に、現金・債券・ゴールドなどFIRE生活を守る流動性の高い資産をどう配置するか整理しています。
※本記事で使用している「生活利回り」「生活貢献額」「休眠資産」は、不動産鑑定や金融実務上の正式な用語ではなく、FIREにおける保有不動産の役割を整理するための表現です。一般的な不動産投資の表面利回り・実質利回り等とは異なります。
※4%ルールを用いた金額は、住居費削減の大きさを比較しやすくするための単純な参考例です。将来の運用収益や安全な取り崩し率を保証するものではありません。
※不動産には、価格下落、空室、災害、修繕、流動性、借入金利、税金などさまざまなリスクがあります。購入・保有・賃貸・売却の適否は、物件、地域、年齢、資産状況、借入条件、税務、将来の居住予定等によって異なります。本記事は特定の不動産取引や投資行動を推奨するものではありません。必要に応じて不動産会社、金融機関、税理士等の専門家にもご確認ください。



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