株で損したら株で取り返すべき?|FIRE民がハマる“損失を借金に変える”思考 / FIRE計画の羅針盤

青基調の実写風アイキャッチ。株の損失回収に苦しむメガネの中年男性が、負のスパイラルから光る糸につかまって這い上がる姿を描く。「株で損したら株で取り返すべき?」をテーマに、投資判断とリベンジトレードの危うさを表現した画像。 FIRE計画の羅針盤

株式投資をしていれば、損をすることはあります。
100万円で買った株が90万円になることもあれば、思い切って損切りした翌日に株価が反発して、「あと一日待てばよかった」と悔しくなることもあります。
個別株だけでなく、インデックス投資でも相場全体が大きく下がれば、評価額が100万円単位で減ることはあり得ます。

そんなとき、頭に浮かびやすい言葉があります。「この損は、株で取り返したい」。

気持ちとしては自然です。会社員として働き、給料から少しずつ貯めたお金を投資へ回してきたのに、数日や数週間で何カ月分もの貯蓄が消えれば、「このまま終わりにはしたくない」と思うでしょう。
FIREを目指している人なら、「せっかく自由に近づいていたのに、また遠ざかった」と感じることもあるはずです。

ただ、ここには投資判断を狂わせやすい小さな仕掛けがあります。
100万円が90万円になったとき、自己資金による現物投資であれば、市場に対して10万円の借金を負ったわけではありません。現在持っている金融資産が90万円になった、それが事実です。
ところが頭の中では、「10万円負けている」、「10万円取り返さなければ元に戻らない」と考え始めます。
すると、本来は過去に起きた出来事だった損失が、これから達成しなければならないノルマへ変わります。

この記事では、この状態を「損失を借金に変える思考」と呼びます。
もちろん、損失を無視すればいいという話ではありません。なぜ損をしたのかを振り返り、投資判断やリスク量に問題がなかったか検証することは大切です。
ただし、損失を「学ぶための過去」ではなく、「返さなければならない未来の借金」にした瞬間、次の投資は少し違うものになります。

株で10万円損したから、次は10万円儲けなければならない。早く取り返したいから投資額を増やす。値動きの大きな銘柄へ移る。もっと早く増やせそうな商品へ手を出す。
こうなると、次の投資は「これから有望だから買う」のではなく、「過去の自分を救済するために買う投資」へ変わります。

FIREを目指す人にとって、これはかなり重要な違いです。FIREの目的は、株で勝つことでも、投資成績を生涯プラスにすることでもありません。資産を作り、会社だけに依存しなくても生き方を選べる状態へ近づくことです。

では、株で損したとき、本当に取り返すべきものは何なのでしょうか。
結論から言えば、損失額そのものではなく、「損をする前と同じように、自分のルールで次の判断をできる状態を取り戻すこと」です。

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100万円が90万円になったとき、あなたは「10万円負けている」のか

100万円を投資し、90万円になったとします。含み損のまま保有している場合もあれば、90万円で売却して10万円の損失を確定させた場合もあるでしょう。
どちらにしても、頭の中には「マイナス10万円」という数字がかなり強く残ります。

その後に3万円儲かって93万円になっても、「まだ7万円負けている」と感じます。
さらに5万円増えて98万円になっても、「あと2万円」。ようやく100万円へ戻ったときに、「やっとゼロになった」と安心します。

しかし、90万円になった時点から考えれば、その後3万円増えたなら、それはその時点からはプラス3万円です。
それでも本人がマイナス7万円だと感じるのは、現在の90万円ではなく、過去の100万円を基準にしているからです。
ここで一つ、損失から元の金額へ戻るために必要な上昇率を確認しておきます。

損失率残った資産元に戻るために必要な上昇率
10%下落90%約11.1%
20%下落80%25%
30%下落70%約42.9%
40%下落60%約66.7%
50%下落50%100%
60%下落40%150%

50%下落した資産が元へ戻るには100%、つまり2倍になる必要があります。
これは数学なので、損失が大きくなるほど回復に必要な上昇率が大きくなること自体は間違いありません。

ただし、ここで勘違いしやすいことがあります。
「元に戻すには大きなリターンが必要」と「だから大きなリスクを取るべき」は、まったく別の話です。

30%損したから、次に買う株の期待リターンが42.9%へ上がるわけではありません。
50%損したから、明日から2倍株を見つけやすくなるわけでもありません。
損失が大きくなって変わるのは、あなたが元へ戻りたいと感じる強さであって、市場の期待値ではないのです。

ここで「大きく損したのだから、大きく取り返さなければ」と考えると、リターンの機会が増えたわけではないのに、自分が取るリスクだけが大きくなります。

FIREを目指すなら、見るべきなのは「元の100万円へ何日で戻れるか」ではありません。
「今残っている90万円を、これからどう扱えばFIRE計画全体の生存率を高められるか」です。

なぜ人は「損を取り返したい」と考えるのか

「損した分だけは取り返したい」と感じるのは、単なる意志の弱さではありません。
行動経済学では、人が結果を最終的な資産額だけでなく、ある基準点からの「利益」と「損失」として評価することが研究されてきました。

カーネマンとトヴェルスキーが1979年に発表したプロスペクト理論では、意思決定を説明する際に、最終的な資産水準そのものではなく、基準点から見た利得・損失を重視するモデルが示されています。
100万円から90万円になった人なら、「90万円を持っている」よりも「100万円から10万円減った」という変化が判断へ影響し得るわけです。

さらに興味深いのが、リチャード・セイラーとエリック・ジョンソンによる1990年の研究です。
この研究では、過去に損失を経験した後、「損益をゼロへ戻せる可能性」が含まれる選択肢が魅力的に見える現象が実験で示され、いわゆるブレークイーブン効果として論じられています。
株式投資そのものを対象にした研究ではありませんが、「さっき負けたから次で取り返したい」という感覚を考えるヒントになります。

個人投資家の実際の売買データでも、過去の取得価格が判断へ影響しているように見える研究があります。
Terrance Odeanは米国の割引証券会社の約1万口座を分析し、利益の出ている銘柄を損失の出ている銘柄よりも売却しやすい傾向、いわゆるディスポジション効果を確認しました。
1987~1993年の米国データを使った研究なので、現在の日本の投資家へそのまま当てはめるべきではありませんが、「買値から見て勝っているか負けているか」が売却判断へ影響する可能性を考える材料にはなります。

この心理は、FOMOにも少し似ています。FOMOでは、上がっている株を見て「自分だけ利益を取り逃している」と感じます。
一方、損失を取り返したいときには、「以前持っていた資産額より減っている」と感じます。
方向は逆でも、共通しているのは「目の前の投資対象そのものより、別の数字が意思決定を支配すること」です。

▶ FIREを目指す人ほどFOMOに弱い?|キオクシア急騰で焦る40代独身の投資心理と高値掴み対策 / FIRE計画の羅針盤

今回考えたいのは、まだ手にしていない利益ではありません。「すでに失ったお金に、これからの投資まで支配させる必要があるのか」という話です。

「株で取り返す」と考えた瞬間、次の投資目的が変わる

株で20万円損した人が、その後20万円儲けたとします。
数字だけを見れば、通算ではゼロです。だから「取り返した」と感じるでしょう。
しかし投資行動として見ると、前の20万円の損失と、その後の20万円の利益は別の取引です。
前の銘柄が損失を生み、次の銘柄が利益を生んだだけで、後者が前者の借金を返済したわけではありません。

ここを一つのストーリーへまとめると、次の投資に妙な使命が生まれます。
「今月5万円負けたから、来月5万円勝ちたい」、「個別株で30万円負けたから、IPOで30万円取り返したい」、「去年100万円減ったから、今年は100万円増やさなければならない」、こうして自分で作った損失残高が、投資のノルマになります。

ノルマになると、待つことが難しくなります。普段なら買わない銘柄でも、「早く戻せそう」に見えるだけで魅力的になりますし、普段なら10万円しか入れない場面でも、「10万円では取り返すのに時間がかかる」と感じます。

つまり、リベンジトレードの本当の怖さは、単に売買回数が増えることではありません。
「過去の損失が、次に取ってよいリスク量まで決め始めること」です。

「前回損した」という事実は、「次は大きく張る」という理由にはなりません。
前回の取引と次の取引の期待値は、本来分けて考える必要があります。
ここを分けられるかどうかが、「損失から学ぶ投資」と「損失を追いかける投資」の境目になります。

損切り・ナンピン・買い増し・リベンジトレードは同じではない

損失後に株を買えば、すべてリベンジトレードになるわけではありません。
株価が下がったあとに追加購入すること自体は、ごく普通の投資判断になり得ます。
企業業績や財務、事業環境を確認したうえで、投資理由が崩れておらず、現在価格では以前より期待リターンが高いと判断し、あらかじめ決めた資産配分の範囲内で買い増すなら、それは「取り返すための投資」とは別です。

反対に、企業の状況をほとんど見ず、「この銘柄で20万円やられたから、この銘柄で取り返したい」、「倍買えば平均取得単価が下がるから助かる」と考えているなら、同じ買い増しでも意味はかなり変わります。

行動判断の中心合理的になり得るケース危うくなりやすいケース
損切り現在の投資理由前提が崩れたため資金を移す恐怖だけでルールなく売る
ナンピン・買い増し現在価格と価値予定した資産配分内で追加する平均取得単価を下げること自体が目的になる
別銘柄への再投資今後の期待値より合理的な投資先へ移す早く取り返せそうな高リスク商品へ飛びつく
リベンジトレード過去の損失額―「負け分を取り返す」が売買理由になる

特に注意したいのが、「平均取得単価」です。1000円で買った株が700円へ下落し、同じ株数を買い増せば平均取得単価は下がります。「あと850円まで戻れば助かる」と考えれば、心理的にはかなり楽になるかもしれません。

でも、その会社の業績や将来価値は、あなたの平均取得単価を知りません。
市場参加者も、「この人は850円で助かるから、そこまで戻してあげよう」とは考えてくれません。

平均取得単価は、自分の損益管理では意味のある数字です。しかし、それだけでは将来価格の根拠にはなりません。
その意味では、「昔この株は1000円だったから、いずれ1000円へ戻るだろう」という期待も似ています。
下落後の株価回復を考えるなら、昔の価格ではなく、現在の業績や企業価値を見る必要があります。

▶ 下がった株は本当にいずれ戻るのか?|FIRE投資家がリターン・リバーサルに期待しすぎてはいけない理由 / FIRE計画の羅針盤

今回さらに一歩進めて確認したいのは、「戻ってほしい」という自分の都合を、「戻るはずだ」という投資根拠へ変換していないかです。

FIRE民はお金だけでなく「退職予定日」まで取り返そうとする

FIREを目指している人の場合、損失は単なる金額では終わりません。
10万円損すれば「積立1カ月分が消えた」と感じます。50万円なら「ボーナス分が飛んだ」。100万円なら「FIRE予定が何カ月延びたのだろう」と考えるかもしれません。ここが、FIRE投資特有のややこしいところです。

一般の投資家なら100万円の損失は100万円ですが、FIREを目指す人にとっては、「100万円 + 自由になるまでの時間」として感じられることがあります。

たとえば、FIRE目標5000万円に対して4500万円まで来ていた人が、相場下落で400万円減ったとします。
数字上は4100万円になっただけですが、本人には「あと500万円」だった距離が「あと900万円」へ伸びたように見えます。

すると、頭の中で別の計算が始まります。「この400万円だけでも早く戻したい」、「普通に積み立てていたら退職が遅れる」、「少しリスクを上げれば間に合うかもしれない」、これが危ない。
会社を辞めるために作っている資産なのに、「会社を早く辞めたいという焦りが、FIRE資産そのもののリスクを引き上げる」からです。

特にFIRE直前では、時間の意味が変わります。20代で投資期間が30年ある人と、数年後に退職を予定している40代・50代では、同じ30%の下落でも受け止め方は違います。
だから「あと3年でFIREする予定だったのに暴落した」というとき、本当に見直すべきなのは「3年以内に取り返す方法」ではありません。
「その下落を受けても退職計画が壊れない資産配分だったか」、ここを見るべきです。

FIRE直前の資産形成は、「もうすぐ自由」という期待が大きくなる一方、退職後に給与収入を失う可能性が近づく時期でもあります。

▶ FIRE直前5年は「退職レッドゾーン」|FIREを7段階で考える“もうすぐ自由”が一番危ない理由 / FIRE計画の羅針盤

FIRE予定日は、株式市場との契約ではありません。「55歳までに5000万円」と決めたからといって、市場が55歳の誕生日までに必要なリターンを返してくれるわけではありません。
相場が悪ければ少し働く期間を延ばす、支出を調整する、安全資産を使う、完全FIREではなくサイドFIREへ変えるなど、出口には複数の方法があります。

退職日を守るために投資リスクを上げるより、「退職日の方を柔軟にする」、FIREでは、この発想がかなり重要だと思います。

「取り返すために投資額を増やす」が危険な理由

損を早く取り返す方法として、最も分かりやすいのが投資額を増やすことです。
10万円投資して1万円損した。次は20万円入れれば、同じ10%上昇でも2万円増える。
それでも負けたら30万円、50万円と増やせば、勝ったときの回復も早くなる。

計算上はその通りです。ただし当然ながら、損失額も同じように増えます。
さらに重要なのは、「前回負けたという事実が、次の取引の勝率を高めるわけではない」ことです。

BarberとOdeanは、1991~1996年の米国の割引証券会社66,465世帯の取引データを分析し、最も頻繁に取引する層の年間リターンが11.4%だったのに対し、市場全体は17.9%、平均的な世帯では16.4%だったと報告しています。
現在の日本市場やすべての個人投資家へそのまま当てはめることはできませんが、「行動量を増やせば投資成績も上がる」とは限らないことを示す歴史的研究です。

損失後に信用取引まで使う場合は、さらに別のリスクが加わります。
日本取引所グループによると、信用取引は委託保証金を担保に証券会社から資金や株式を借りて行う仕組みで、一般的に委託保証金の約3倍までの売買が可能です。
一方で、損失が拡大すれば追加保証金が必要になる場合もあり、現物取引とはリスク構造が異なります。

ここで、「損失を借金に変える」という言葉が現実味を帯びてきます。
自己資金100万円が90万円になっただけなら、市場に10万円返す必要はありません。
しかし、「その10万円を取り返す」という理由で信用取引へ進み、さらに損失を拡大させれば、頭の中だけだった返済ノルマが、本当に追加資金を必要とする状況へ近づく可能性があります。

信用取引そのものを否定する話ではありません。制度を理解し、自分の資金管理の範囲で使う人もいるでしょう。
ただし、少なくとも、「前回損したから、今回はレバレッジを上げる」という理由だけは、かなり危ういです。
「損をした後ほど、投資額を変える理由に『前回負けたから』を使わない」、これだけでも、かなり多くのリベンジトレードを防げます。

過去の損益を一度消して考える「現在地テスト」

では、株で損をした後に何を基準に判断すればいいのでしょうか。
「冷静になりましょう」と言われても、それができれば苦労はしません。
そこで使いやすいのが、過去の取得価格や損失額をいったん脇へ置いて、「現在の資産から新しく投資判断をやり直す方法」、ここでは便宜上、「現在地テスト」と呼びます。

想像してみてください。昨日までの取引履歴がすべて消えたとします。
証券口座には90万円だけあります。以前100万円だったことも、10万円損したことも表示されていません。
今日初めて、その90万円を投資することになりました。そのとき、あなたは昨日損した株を買うでしょうか。
同じ金額を入れるでしょうか。それともインデックス投資へ戻すでしょうか。現金のまま待つでしょうか。

答えは人によって違っていいです。大切なのは、「10万円を取り返す」という条件を消しても、同じ判断になるかです。

現在地テストYESならNOなら
過去の買値を知らなくても、この株を今買いたいか現在も投資理由が残っている可能性がある「買値まで戻ってほしい」だけになっていないか確認する
前回の損失がゼロでも、同じ投資額を入れるか現在のリスク判断として説明しやすい回収のためにポジションを大きくしていないか確認する
FIRE予定年齢がなくても、この投資を選ぶか投資対象そのものに理由がある早期退職への焦りが混ざっている可能性がある
さらに下落しても、事前に想定した範囲で持てるかリスク量が計画内にある可能性が高い現在の資産に対してポジションが大きすぎないか見直す

この方法は、「損切りすべき」・「買い増すべき」という答えを出すものではありません。
投資判断を「過去から現在へ戻すための質問」です。

株主優待でも、含み益でも、長く保有した銘柄でも同じことが起こります。
「今日初めてこの銘柄を見るとして、それでも買うか」という問いは、取得価格や過去の経緯から一度離れるために役立ちます。

▶ 長期保有・優待廃止・売り時をどう考える?|株主優待で「もらえるから売れない」FIRE投資にならないために / FIRE計画の羅針盤

10万円を返してくれる株を探すのではなく、「今ある90万円にとって合理的な置き場所を探す」、ここへ戻れると、「取り返す」という言葉の力はかなり弱くなります。

大きく負けてからルールを作るのでは遅い

投資ルールというと、「○%下がったら損切り」、「PER○倍以下なら買う」、「決算前には売る」といった売買条件を思い浮かべるかもしれません。

でも、損失後に役立つのは、銘柄のルールだけではありません。
「負けたときの自分をどう扱うか」まで、平常時に決めておくことです。

大きく損した直後は、普段と同じ感覚でリスクを測れるとは限りません。
「次だけ」、「今回だけ」と例外を作りたくなることもあるでしょう。
だからこそ、損失が出てから感情の強い状態で考えるのではなく、何も起きていないときに自分のガードレールを用意しておきます。たとえば、こんな形です。

事前に決めておくこと何を防ぐためか
大きな損失直後は、新しい高リスク取引を急いで始めない損失回収の焦りを次の売買から切り離す
1銘柄・1テーマへ入れる金額に上限を設ける一度の判断ミスがFIRE資産全体へ広がるのを防ぐ
短期売買資金と長期積立資金を分ける負けた短期資金をNISA等から補充し続けるのを防ぐ
買った理由を価格以外の言葉でも残す「元値へ戻るまで持つ」だけの判断になるのを防ぐ
損失後に金額を増やすなら、その理由を書けるか確認する「早く取り返したい」以外の根拠を確認する

ここで重要なのは、「10%損したら必ず休む」といった万人共通の数字を作ることではありません。
長期インデックス投資と個別株、短期売買では性質が違います。
資産1000万円の人と5000万円の人、FIREまで10年ある人と1年の人でも、取れるリスクは違います。
だから自分に合った数字は自分で決める必要があります。

一方で、かなり共通して使える考え方があります。
「損をしたからといって、平常時に決めたリスク上限を上げない」ことです。
負けたときほど、ルールを緩めるのではなく、ルールが必要になります。
投資判断をどこまで自分だけで決め、どこからルールや客観的基準へ任せるかを整理したい場合は、この考え方ともつながります。

▶ 投資判断は我流で本当に大丈夫?|FIRE民が決めたい“責任分界点” / FIRE計画の羅針盤

そして、長期の資産形成資金まで「損失回収口座」にしないことも大切です。
新NISAで積み立てている資産は、昨日の個別株損失を回収するために存在しているわけではありません。
FIREまでの長い時間を使って、自分の人生の選択肢を増やすための資産です。

短期的な負けと長期の資産形成を同じゲームにしない。その境界線を作っておくだけでも、投資全体はかなり安定します。

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「取り返せなかった損」は、本当に一生の負けなのか

ここまで読むと、「では損した分は諦めろということ?」と感じる人もいるかもしれません。
もちろん、そういう意味ではありません。その後に市場が上昇し、資産額が以前の水準を超えることはあります。
給与から積立を続け、長い時間をかけて資産形成を続ければ、昔の損失が現在の資産額から見れば小さなものになることもあるでしょう。

ただ、それを「市場から取り返した」と考える必要はありません。
昔10万円損した。数年後に別の投資で20万円増えた。これは「10万円を返してもらい、さらに10万円勝った」のではなく、「昔の投資で10万円損し、その後の投資で20万円増えた」という二つの出来事です。

この違いは細かいようですが、投資メンタルにはかなり影響します。
すべての取引を人生通算の損益表へまとめてしまうと、どこまで行っても過去がついてきます。
今年50万円勝っても、昔100万円負けたから「まだマイナス50万円」。
さらに60万円増えて、ようやく「人生通算でプラス10万円」。
これでは、長期資産形成をしているはずなのに、いつまでも昔の取引と勝負していることになります。

でもFIREにとって重要なのは、「生涯株式投資成績がプラスか」ではありません。
必要な資産を作れるか。生活費を支えられるか。会社を辞めても慌てない安全資産があるか。そして、自分の時間を自分で選べるようになるか。ここです。

仮に昔の個別株で100万円失敗していたとしても、その後3000万円、4000万円と資産を作り、自分が望む働き方を選べるようになった人を、「まだ100万円負けている人」と呼ぶでしょうか。
少なくともFIREの視点では、そうではないはずです。損失は投資履歴の一部ですが、「未来の投資ノルマ」ではありません。

FIRE投資で大切なのは「取り返す力」より「壊れない力」

FIREでは、年利10%を取れる年もあれば、マイナス20%の年もあります。
資産形成中に暴落が来ることもありますし、個別株を持っていれば企業固有の失敗もあります。
つまり、「一度も負けない投資」を前提にFIRE計画を作ることはできません。

必要なのは、損失が出ても投資方針を壊さないこと。損失が出ても生活資金へ手を付けないこと。損失が出てもレバレッジを突然上げないこと。
そして、「損失が出てもFIREという人生計画そのものを投機へ変えないこと」です。

そう考えると、FIRE投資の強さは「損したら素早く取り返せる人」ではなく、「損しても次の判断を普通に続けられる人」にあるのかもしれません。
10万円の損を一週間で取り返した人より、10万円損しても投資計画を変えず、翌月もいつもの金額を積み立てた人の方が、FIREという長距離走では強い場合があります。

もちろん、積立を続ければ必ず報われるという意味ではありません。市場にはリスクがあります。
ただ、少なくとも自分でコントロールできるのは、相場の次の値動きではなく、「損失が出た後に自分の行動を変えすぎないこと」です。

FIREは一発勝負ではありません。10年、15年と資産形成を続け、その後も長期間資産と付き合っていく計画です。
一度の勝敗より、壊れずに続けられる仕組みの方が重要になります。

まとめ|株で損した後に取り返したいのは、お金より「判断力」

株で損をすると、取り返したくなります。100万円が90万円になれば、10万円減ったことは事実です。
FIREを目指しているなら、「積立何カ月分が消えた」、「退職予定が遠のいた」と感じることもあるでしょう。

ただ、その10万円は市場へ貸しているお金ではありません。市場から返してもらう予定の債権でもありません。
自己資金による現物投資で生じた損失なら、それは過去の投資判断の結果です。

ところが「10万円取り返さなければ」と考えた瞬間、損失は未来の義務へ変わります。
その義務を早く果たすために投資額を増やし、値動きの大きな銘柄へ移り、さらにレバレッジを使えば、最初は頭の中だけだった「損失の借金」が、本当にFIRE資産を傷つけるリスクへ変わっていきます。

だから株で損したとき、最初に考えたい問いは、「どうやって10万円取り返すか」ではありません。
「今ある90万円を、これからどう扱うのが合理的か」です。

  • 過去の買値を知らなくても、その株を買いたいか
  • 前回の損失がなかったとしても、同じ金額を投資するか
  • FIRE予定日がなくても、そのリスクを取りたいか

そこへ戻れば、投資はもう一度「損失回収ゲーム」ではなく、未来の選択肢を増やすための手段になります。

会社から自由になるために始めた投資で、過去の損失にまで縛られる必要はありません。
株で損した後に本当に取り返したいものは、10万円でも20万円でもない。
「損をする前と同じように、自分のルールで次の一手を選べる判断力」です。
その状態へ戻れれば、投資もFIRE計画も、また普通に前へ進めます。

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※本記事は、株式、投資信託、ETF、信用取引等について一般的な考え方を整理したものであり、特定の金融商品・銘柄について購入、売却、損切り、ナンピン、買い増し等を推奨するものではありません。
※株式、投資信託、ETF等には価格変動および元本割れのリスクがあります。信用取引には現物取引とは異なるリスクがあり、損失が拡大する場合があります。利用する場合は、日本取引所グループおよび各証券会社の最新の制度・取引条件をご確認ください。
※本文で紹介したプロスペクト理論、ブレークイーブン効果、ディスポジション効果、個人投資家の売買頻度に関する研究は、特定の実験や時期、国、証券口座データ等を対象とした研究です。現在の日本の個人投資家全員へ同じ傾向・結果が当てはまることを示すものではなく、投資行動を考えるための補助材料として紹介しています。

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