長生きは、めでたいことのはずです。
90歳まで元気に生きられた。100歳になっても自分の足で歩いている。普通なら喜ばしい話でしょう。
ところが、お金の話になると突然、長生きは「リスク」と呼ばれます。
長生きリスク。老後資金不足。資産寿命。人生100年時代。老後2,000万円問題。
「何歳まで生きるか分からないから、お金をできるだけ残しておきましょう」、そんな情報を何度も見ていると、FIREを目指して一生懸命資産を作った人ほど、今度は別の問題にぶつかります。
「怖くて使えない」問題です。
5,000万円まで貯めた。でも100歳まで生きたらどうしよう。
6,000万円になった。でも老人ホームに入るかもしれない。
7,000万円になった。でも医療費や介護費が増えるかもしれない。
1億円になった。でもインフレが続いたら分からない。
こうして安全余裕を積み上げているうちに、60歳、70歳、80歳と年齢まで積み上がっていく。
そして人生の最後になって、「結局ほとんど使わなかった」となったら、それは完璧な資産管理だったのでしょうか。
もちろん、長生きリスクは現実にあります。
寿命は誰にも分かりませんし、長く生きれば生活費も必要です。
医療や介護にまとまったお金が必要になる可能性もあります。
投資資産なら相場の下落もあるし、インフレによって生活費が上がることもあります。
だから、「老後資金なんて全部使ってしまえ」という話ではありません。
それはそれで危険です。考えたいのは、もう少し別のことです。
- 長生きして資産が足りなくなるリスク
- 長生きを恐れるあまり資産を使わないまま人生が終わるリスク
FIREでは、この両方を考えた方がいいのではないでしょうか。
資産を作るところまでは、数字で管理しやすい。毎月積み立てる。支出を減らす。新NISAを使う。5,000万円を目指す。
ところが資産を使う段階になると、急に正解がなくなります。
- いつから使えばいいのか
- 年間いくら使っていいのか
- 何歳まで残せばいいのか
- 最後にいくら残れば成功なのか
FIREの本番は、資産形成よりむしろここからなのかもしれません。
長生きリスクとは「平均寿命より長く生きること」ではない
まず「長生きリスク」を整理します。
一般に老後のお金についていう長生きリスクとは、「想定していたより長く生きることで、生活を支える資金が不足するリスク」と考えれば分かりやすいでしょう。
例えば、65歳で3,000万円ある。90歳まで25年間使う。という計画を立てた。
ところが100歳まで生きた。さらに10年間の生活費が必要になります。
だから「何歳まで生きるか分からない」という寿命の不確実性は、老後資金計画の大きな問題です。
平均寿命は「その年齢で死ぬ」という数字ではない
ここでよく誤解されるのが「平均寿命」です。
厚生労働省の2025年簡易生命表によると、日本人の平均寿命は男性81.35歳、女性87.33歳です。
では、「男性なら81歳までのお金を準備すればいい」のでしょうか。当然、違います。
平均寿命は0歳時点の平均余命です。「すでに65歳まで生きた人には、そこから先の平均余命があります」。
2025年生命表では、65歳時点の平均余命は男性19.68年、女性24.52年。
単純に足せば男性は約84.7歳、女性は約89.5歳まで平均的に生存する計算になります。
しかも平均は「終了時刻」ではありません。同じ生命表では、出生者が90歳まで生存する割合は男性26.7%、女性50.8%。95歳まででも男性9.9%、女性26.4%となっています。
さらに、出生者のちょうど半数が生存すると期待される年齢である「寿命中位数」は男性84.13歳、女性90.17歳で、平均寿命より高くなっています。
つまり老後資金について、「平均寿命まで持てばOK」という設計はさすがに危ない。
ここまでは「長生きリスクを考えましょう」という定説の方が正しいと思います。
本当の問題は「何歳まで生きるか決められない」こと
寿命について厄介なのは、90歳まで生きること自体ではありません。
「自分が何歳まで生きるのか、事前には分からないこと」です。
75歳かもしれない。85歳かもしれない。95歳かもしれない。100歳を超えるかもしれない。
この不確実性があるから、資産の取り崩しは難しくなります。
例えば、「85歳で資産ゼロ」を目標にすれば、86歳から困るかもしれない。
一方、「絶対100歳まで資産を減らさない」と決めれば、75歳で亡くなったとき大量の資産を使わず残す可能性があります。
つまり、「長生きリスクには正解となる死亡年齢が存在しない」のです。
だからFIRE後の資産設計は、「90歳まで生きると予想する」よりも、「何歳まで生きてもある程度対応できる仕組みを作る」という発想の方が使いやすい。ここが今回の出発点です。
長生きリスクを恐れすぎると「お金を使えないリスク」が生まれる
長生きリスクは、「お金が先になくなる危険」として語られます。でも反対方向にもリスクがあります。
私は便宜的に、「使える時期を逃すリスク」と考えています。
意味は単純です。「お金は、生きていればいつでも同じ価値で使えるわけではない」というリスクです。
60歳の100万円と90歳の100万円は、同じ100万円でも使い方が違う
例えば旅行。60歳なら、飛行機に乗る。海外へ行く。山を歩く。温泉を巡る。長距離を移動する。
さまざまな使い方ができるでしょう。90歳でも旅行できる人はいます。でも全員ではありません。
趣味も同じです。車。スポーツ。登山。キャンプ。食べ歩き。ライブ。旅行。これらは必ずしも何歳でも同じように楽しめるわけではない。
もちろん年齢を重ねてから楽しめることもあります。
ただ、「今使わなくても80歳になったら同じように使える」とは限りません。
ここで「健康寿命」という別の数字が出てきます。
厚生労働省によると、2022年の健康寿命、つまり「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」は男性72.57年、女性75.45年でした。平均寿命との差は男性で約9年、女性で約12年あります。
もちろんこれは人口全体の統計値であり、「男性は72歳から旅行できません」という意味ではありません。
個人差は非常に大きい。ただし、「資産を使える能力にも時間制限がある」ということを考える材料にはなります。
お金そのものには賞味期限がなくても、「お金を使って楽しめる身体には時間がある」わけです。
老後資金を守ることが目的になると、資産形成が終わらない
FIREを目指していた頃は、「5,000万円になったら自由になろう」と思っていた。
5,000万円になる。でも減るのが怖い。そこで、「6,000万円まで働こう」となる。
6,000万円になる。今度は、「100歳まで生きるなら7,000万円必要かもしれない」となる。
7,000万円になる。するとインフレが怖くなる。
こうして資産形成の目的が、「自由になるため」から、「資産残高を減らさないため」へ静かに変わっていく、これではゴールがありません。
▶ 目標資産を達成してもFIREできない理由|生活費インフレと取り崩し恐怖に負けない独身おじさんの逃げ切り計算 / FIRE計画の羅針盤
今回さらに考えたいのは、「会社を辞めたその後」です。
FIREに成功しても、「資産を減らしてはいけない」と思い続けたら、結局自由になったお金を使えません。
資産残高が減ることは、必ずしも失敗ではない
「資産残高が減ることは、必ずしも失敗ではない」、これは資産形成期の感覚から最も切り替えにくいところだと思います。
会社員時代は、3,000万円、3,100万円、3,300万円、3,500万円と増えていくことが成功です。
だからFIRE後にも、「前年差+○万円」を見る癖が残る。
すると年間200万円使って資産が、5,000万円から4,800万円になっただけで、「200万円も減った…」となります。
でも、その200万円で一年生活したのであれば、当然でしょう。
資産は勝手に蒸発したわけではありません。住居費になった。食費になった。旅行になった。趣味になった。時間になった。仕事をしなくて済んだ一年になった。つまり、「金融資産が人生へ変換された」とも言えます。
FIRE後まで資産額の右肩上がりだけを成功指標にすると、「資産を使う」という本来予定していた行動まで失敗扱いしてしまいます。これはかなり変な話です。
「死ぬまで資産を残す」と「資産を使い切る」は二択ではない
では、「死ぬときゼロ円が正解!」なのでしょうか。私はそうも思いません。
最後の1万円を使った翌日に死ぬような資産計画など作れません。
医療、介護、住み替え、住宅修繕、物価上昇など、晩年ほど大きな支出が発生する可能性もあります。
家族へ残したい人もいる。寄付したい人もいる。相続させたい資産がある人もいる。
だから「資産ゼロで死ぬ」こと自体をKPIにする必要もないでしょう。
重要なのは、「資産を残すことを自分で選んだのか」、「怖くて使えなかった結果、残っただけなのか」という違いだと思います。
「残したいお金」と「使えなかったお金」は別物
例えば5,000万円残して亡くなった人が二人いるとします。
Aさんは、「甥や姪へ残したい」、「寄付したい」、「家族へ住宅を残したい」と考え、意図して5,000万円残した。
Bさんは、旅行したかった。趣味にも使いたかった。会社も早く辞めたかった。でも100歳まで生きるのが怖くて何もできず、結果的に5,000万円残った。
同じ5,000万円でも意味はまったく違います。Aさんのお金は、本人の目的どおり使われた資産です。
Bさんのお金は、言い方は悪いですが、「使い道を決められないまま残った資産」かもしれません。
FIREで目指したいのは「残高ゼロ」ではなく、「お金の役割を自分で決めること」なのだと思います。
老後資金は「全部守るお金」ではなくなる
資産形成期は、できるだけ資産を増やす。これは合理的です。
でもリタイア後まで同じ考え方を永久に続ける必要はありません。
金融庁も高齢社会における資産形成・管理の議論で、資産寿命の延伸だけでなく、高齢期には「資産の計画的な取り崩し」を行うことの重要性を示しています。
つまり公的な議論でも、「貯める → 一生守る」ではなく、「形成する → 管理する → 必要に応じて取り崩す」という流れで考えています。
FIREなら、この「取り崩す」が通常の老後より早く始まるだけです。
FIREの長生きリスクは「一つの巨大な資産額」ではなく時間帯に分けて考える
では実際にどう考えればいいのでしょう。私はFIRE後の資産を、「一生分のお金」という巨大な一つの塊として見るから怖くなるのだと思います。
5,000万円。この数字だけを見る。すると、「100歳まで持つのか?」と考えてしまう。
代わりに、人生をいくつかの時間帯へ分けます。
例えば50歳でFIREするなら、50~64歳。65~79歳。80歳以降。同じ人生でも、お金の役割がかなり違います。
第一段階は「年金までの橋」
50歳でFIREする人なら、公的年金の原則的な受給開始年齢である65歳まで15年間あります。
日本年金機構によると、老齢基礎年金は受給資格期間などの要件を満たせば原則65歳から受給でき、厚生年金加入期間がある場合には老齢厚生年金が上乗せされます。繰上げ・繰下げの制度もあります。
つまりFIRE後の収支は、「FIRE直後から65歳まで」と「公的年金が始まった後」で同じではありません。
例えば年間生活費240万円、公的年金等から年間150万円入る人なら、65歳以降に金融資産から補う必要があるのは単純計算では年間90万円になります。
もちろん実際には税金、社会保険料、物価、年金額、運用収益などを考える必要があります。
ここで伝えたいのは数字ではありません。「死ぬまで毎年240万円を金融資産だけから出すと考える必要はない人も多い」ということです。
前の記事でも触れましたが、40代・50代FIREでは公的年金までの期間を「橋渡しする資金」として考えると、長生きリスクが少し具体的になります。
▶ 「投資は早く始めるほど有利」の定説に抗う|40代会社員には若者にないFIREの武器がある / FIRE計画の羅針盤
40代会社員には、公的年金までの距離、退職給付、現在資産など、若者とは違うFIRE設計の材料があります。
第二段階は「元気に使える時期」
年金開始後も元気なら、旅行。趣味。外食。移動。友人との交流。習い事。さまざまなことにお金を使えます。
私はこの時期のお金を、単なる生活費とは別に見てもいいと思います。
「人生を楽しむために使う資産」、これを最初から計画へ入れる。
老後資金というと、住居費、食費、光熱費、医療費などの「必要経費」ばかり考えがちです。
でもFIREした目的が、「請求書を払うために生き延びること」だったわけではないはずです。
自由になった時間で何かしたかった。だから余裕資金があるなら、「元気なうちに使う枠」を予定として作っておく。
旅行を年2回。趣味に年間30万円。家電を買い替える。人と会う。快適な住環境へ使う。
こうした支出まで、「老後資金が減るから無駄」と処理してしまうと、何のためのFIREなのか分からなくなります。
第三段階は「晩年の守り」
一方、80代、90代まで生きれば、別のお金が重要になる可能性があります。
医療。介護。住み替え。家事支援。施設。認知・判断能力低下への備え。
金融庁の高齢社会に関する議論でも、高齢期には心身の衰えや認知・判断能力の低下を見据え、資産の計画的な取り崩しや資産管理を考える必要性が示されています。
だから、「若いうちに全部使う」でもない。「死ぬまで全部残す」でもない。
「時間帯によって資産の役割を変える」、私はこんな整理が分かりやすいと思います。
| 資産の役割 | 主な目的 | 考え方 |
|---|---|---|
| 橋渡し資金 | FIRE開始から年金など次の収入源までの生活 | 必要時期が近いので、流動性や価格変動リスクにも配慮する |
| 生活基盤資金 | 住居費、食費、光熱費など継続的な支出 | 年金などの継続収入と不足分を組み合わせて考える |
| 楽しむ資金 | 旅行、趣味、経験、快適性など | 健康や行動力がある時期に使うこと自体を目的にする |
| 晩年の予備資金 | 医療、介護、住み替え、大きな臨時支出 | 使わなければ残ることを許容する安全余裕 |
| 残したい資産 | 相続、贈与、寄付など | 「余ったから残る」ではなく意図して金額を決める |
全部を「老後資金」という一つの袋へ突っ込むより、ずっと使いやすくなります。
▶ FIRE後の取り崩しまで見据えて資産配分を整理するなら、楽天証券で投資信託や新NISAを確認する長生きリスクへの備えは「100歳まで現金を積むこと」ではない
「長生きが怖い」、それなら100歳までの生活費を全部現金で用意すれば安心でしょうか。
例えば年間250万円。65歳から100歳まで35年。単純計算で8,750万円。
さらに医療・介護予備費、物価上昇、住宅修繕となれば、「やっぱり1億円以上必要だ」という話にもなります。
しかし、この計算には大きな問題があります。
「35年間、収入も運用も何もない前提になっている」という点です。
実際の老後には公的年金がある人もいます。投資資産が運用され続けることもあります。
生活費も一定ではありません。FIRE後に少し働く可能性もある。
そして何より、35年間の支出を初日に全部現金で用意しなければならないわけではありません。
長生きリスクには「収入が一生続く仕組み」を組み合わせる
長生きリスクへの対応で重要なのは、「資産額だけではなくキャッシュフロー」です。
「公的年金」はその代表です。老齢基礎年金・老齢厚生年金は原則65歳から受給でき、一定の条件の下では60~65歳の繰上げ、66~75歳の繰下げという選択肢があります。
繰下げが誰にでも最適という意味ではありません。
健康状態、税・社会保険、資産状況、家族構成などによって判断は変わります。
ただ、「100歳まで生きたら金融資産だけで全部払う」ではなく、「老後の継続収入+金融資産」として考える。
これだけでも長生きリスクの形は変わります。
取り崩しても残高が一直線にゼロへ向かうとは限らない
もう一つ忘れやすいのが「運用」です。
FIREした瞬間、全資産を現金化して、あとは毎年一定額を取り崩すという方法だけではありません。
リスク許容度や必要資金の時期に応じて、一部を長期資産として保有し続ける方法もあります。
だから資産取り崩しは、5,000万円→4,800万円→4,600万円→4,400万円と必ず一直線に減るわけではありません。
相場が上がれば増える年もある。下がれば大きく減る年もある。
だからこそ取り崩し率や現金比率を考える必要があります。
▶ FIRE中に暴落が来たらどうなる?|40代独身のリアルと生存戦略 / FIRE計画の羅針盤
FIRE直後の暴落では、安値で大量に資産を売ることが大きな問題になります。長生きリスクだけでなく「取り崩す順番のリスク」も考えておく必要があります。
▶ FIREを目指す人は現金いくら持つべきか?|キャッシュ比率の最適解 / FIRE計画の羅針盤
現金はリターンを最大化する資産ではありませんが、暴落時に投資資産を売らずに済む時間を作る役割があります。
100歳は「計画」ではなく「ストレステスト」に使えばいい
私は100歳まで生きるケースを考えること自体は良いと思います。
ただし、「100歳まで絶対に資産を減らしてはいけない」という目標にする必要はないです。
例えば、85歳。90歳。95歳。100歳。それぞれまで生きた場合、どの程度資産が残りそうか。
- 年金で最低生活費をどこまで賄えるか
- 投資収益が低かった場合はどうなるか
- 物価が上昇した場合はどうなるか
- 介護費用が発生したらどうするか
こういう「ストレステスト」として100歳を使う。
そうすれば、「100歳になる前提で今を全部我慢する」必要はなくなります。
安全性を確認するための100歳と、人生を100歳まで凍結する100歳は、まったく違います。
独身FIREだからこそ「最後に何を残すか」を決めておく
独身者のFIREでは、「最後に何を残すか」がかなり重要なテーマになります。
もちろん独身でも、親、兄弟姉妹、甥姪などへ残したい人はいる。遺贈や寄付を考える人もいる。
だから、「独身なら全部使い切ればいい」とは言えません。
ただ、配偶者や子どもへ大きな資産を残すことが最優先ではない人なら、「資産形成の出口を自分で決められる余地が大きい」のも確かでしょう。
ここで一度、自分に聞いてみる価値があります。「自分は最終的にいくら残したいのか?」。
答えが、「できれば5,000万円残したい」なら、それは立派な目的です。
でも、「特に誰かへ残したいわけではない。ただ減るのが怖い」なら、少し話が違います。
相続予定がないなら「最後の資産最大化」を目的にする必要はない
資産形成の世界では、資産1億円、2億円、3億円と大きい方が成功に見えます。
しかし人生の最終日に、Aさんの資産1億円、Bさんの資産1,000万円だったとしても、AさんがBさんより人生で10倍成功したとは限りません。
Bさんは、50代でFIREした。旅行した。趣味を楽しんだ。快適な家に住んだ。友人との時間に使った。必要な医療・介護にも使った。その結果1,000万円残った。
Aさんは、使うのが怖くて何もできなかった。その結果1億円残ったなら、評価は簡単ではありません。
金融資産残高という指標は、「人生最後の日まで上昇させる必要のある株価」ではありません。
むしろFIREなら、「資産を時間へ変えるために貯めた」はずです。だったら、適切に減らすことも計画の一部です。
「最後にいくら残したいか」を決めると使いやすくなる
例えば、晩年の予備資金として1,000万円。相続・寄付用に500万円。これだけは残したいと意図的に決める。
するとそれ以外の資産は、「人生のために使ってよい候補」になります。
金額は人によって違います。500万円でいい人もいれば、3,000万円必要な人もいるでしょう。
重要なのは金額ではなく、「全部を何となく守るのではなく、残す理由をつけること」です。
理由のない現金は使えません。理由のある予備資金は守れる。理由のある楽しみ資金は使える。
資産へ仕事を割り当てると、取り崩しが少し楽になります。
FIRE後に「使っていいお金」を作る具体的な考え方
ここまでかなり思想的な話をしてきました。最後は実務に落とします。
資産を減らすのが怖い人ほど、「残高だけを見ない」ことが重要だと思います。
まず「最低限守りたい生活」を作る
最初に考えるのは、「贅沢しなくても維持したい生活」です。
住居、食費、光熱費、通信費、保険・社会保障関係、基本的な医療など年間いくら必要なのか。
そして65歳以降なら、公的年金などの継続収入でどの程度カバーできるのかを確認します。
仮に、最低生活費240万円。年金等180万円。なら、不足は年間60万円。
この「不足額」が、長生きした場合に金融資産が担う基本的な仕事になります。
もちろん実際には税・社会保険、物価変動などを織り込む必要がありますが、「生活費全額ではなく不足分を見る」だけでもかなり違います。
次に「健康なうちに使いたいお金」を別枠にする
例えば60~75歳まで、毎年30万円を旅行へ。毎年20万円を趣味へなどと決める。
これは生活費ではなく、「人生予算」です。私はこの考え方が重要だと思います。
老後資産から旅行代100万円を出すと、「100万円減った」と感じる。
でも最初から、「60代で旅行へ500万円使う」という予算なら、「予定どおり使った」になります。
同じ500万円でも心理が全然違う。資産形成時代には積立設定が便利だった。
だったら資産取り崩し時代には、「使う設定」を作ってもいいわけです。
最後に「使わなくてもいい予備費」を置く
医療、介護、住み替え、住宅修繕など、ここには大きな不確実性があります。だから予備費は必要です。
そして大事なのは、「このお金は使わないまま死んでも失敗ではない」と最初から決めておくことです。
保険と同じです。火災保険を30年間使わなかったから、「保険料が無駄だった」とは必ずしも言いません。
火事が起きなかったのだから良かった。晩年の予備資金も似ています。
必要になれば使う、必要にならなければ残る、これは「使えなかった資産」ではなく、「安心を買った資産」です。
この違いは非常に大きいと思います。
年1回だけ「資産寿命」を点検する
毎日、「あと何年生きられる?」と計算していたらFIREどころではありません。
年1回程度、現在資産、年間生活費、年金見込額、投資資産、現金、物価、健康状態、住居を確認する。
そして、90歳、95歳、100歳など複数ケースで、「生活が破綻しそうか」を見る。
問題がなければ、その一年は使う。悪化していれば少し支出を調整する。
取り崩しは一度決めたら40年間固定する必要もありません。
「人生が変われば、使い方も変えればいい」、こう考えると、「今ここで100万円使ったら100歳の自分が破産するかも」という極端な恐怖から離れやすくなります。
FIRE後のお金は「残高」より三つの数字を見る
私は最後に、この三つを見ればいいと思います。
| 見る数字 | 意味 |
|---|---|
| 最低生活を守れる資産・収入 | 長生きしても生活が破綻しにくい土台 |
| 健康な時期に使う予算 | 資産を人生へ変換するためのお金 |
| 晩年に残しておく予備資金 | 医療・介護・住み替えなどへの安全余裕 |
総資産5,000万円という一つの数字だけを見るより、「守る・使う・残す」に分ける。
この方がFIRE後のお金はずっと扱いやすくなります。
▶ 資産を増やすべきか守るべきか?|40代独身の投資バランスの考え方 / FIRE計画の羅針盤
FIREが近づくと、資産最大化から「何のために持つ資産か」へ考え方を切り替える必要があります。
▶ FIRE後に生きがいなんて必要ない?|「何かしなければ」に追われる40代独身の“生きがい病” / FIRE計画の羅針盤
FIRE後の人生に大きな目的を求める必要はありません。
資産と同じように、人生まで最大化し続けなくてもいいはずです。
まとめ|長生きに備える。でも、長生きするために今を全部捨てない
長生きリスクは本当にあります。自分が何歳まで生きるかは分かりません。
2025年の生命表でも、65歳時点の平均余命は男性19.68年、女性24.52年。90歳まで生存する人も決して珍しくありません。
だから、平均寿命までのお金しか準備しない。資産を急速に使い切る。医療や介護への余裕を一切持たない。こうした設計は危険です。
でも逆方向にも危険があります。100歳まで生きるかもしれない。だから60歳で使わない。65歳でも使わない。70歳でも使わない。75歳になっても減らしたくない。80歳になって、「もう旅行はしんどい」となる。
そして最後には、「使うために作った資産を、守るためだけに人生を使った」となる。
それもまたFIREの成功とは言い切れないでしょう。
長生きリスクへの答えは、「100歳まで絶対に資産を減らさないこと」ではないと思います。
- 公的年金などの継続収入を確認する
- FIREから年金までを橋渡しする資金を作る
- 生活を守る資産を持つ
- 医療・介護などの予備資金を置く
- 長期資産は必要に応じて運用を続ける
そしてその安全網を作ったうえで、「健康な今に使うお金も確保する」、この両方です。
FIREで最も難しいのは、5,000万円を作ることでも、1億円を作ることでもないのかもしれません。
資産形成期には、「増やせば正解」という分かりやすいルールがあります。
でもFIRE後には、「増やす・守る・使う・残す」という四つを同時に考えなければなりません。
そして人は、「使う」だけが猛烈に苦手だったりします。
何十年も、「節約しろ」、「投資しろ」、「老後に備えろ」、「資産を増やせ」と言われてきた人ほど、突然、「では今日から楽しく使ってください」と言われても無理があります。
だからこそ、FIRE前から出口を考えておいた方がいい。
「いくら貯めるか」だけではなく、「いつから使うか」、「何に使うか」、「いくら残すか」まで考える。
そして一つだけ覚えておきたいのは、「資産が減ったからといって、人生まで貧しくなったとは限らない」ということです。
200万円使って資産が減った。でも、その200万円で一年働かずに暮らせた。
旅行できた。好きなものを食べた。快適に暮らした。安心して治療を受けた。誰かに何かを残した。
それなら資産は消えたのではありません。役目を果たしたのです。
長生きに備えることは大切です。でもFIREの目的は、100歳の自分だけを守るために、60歳の自分をずっと我慢させることではない。
「60歳の自分にも、80歳の自分にも、100歳まで生きた自分にも、なるべく公平に資産を配る」、そんな発想の方が、長生きリスクとの付き合い方としてちょうどいいのではないでしょうか。
そして最後の日に資産が減っていたとしても、「その分だけ人生に交換できていたのなら、それは資産形成の失敗ではない」、むしろ、それこそがお金を貯めた理由だったはずです。
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▶ FIREの4%ルールは安全なのか?|40代独身が知るべき取り崩しの現実 / FIRE計画の羅針盤
・FIRE後に「年間いくら取り崩せるのか」という具体的な取り崩し率を考えたい人はこちらです。
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・資産目標へ到達したのに、減ることが怖くてFIREへ踏み出せない心理を整理しています。
▶ FIRE中に暴落が来たらどうなる?|40代独身のリアルと生存戦略 / FIRE計画の羅針盤
・長生きリスクだけでなく、FIRE序盤の暴落で資産を取り崩す「順番のリスク」への備えを考えます。
▶ FIREを目指す人は現金いくら持つべきか?|キャッシュ比率の最適解 / FIRE計画の羅針盤
・暴落時にも慌てて投資資産を売らないための現金の役割を整理しています。
▶ 「投資は早く始めるほど有利」の定説に抗う|40代会社員には若者にないFIREの武器がある / FIRE計画の羅針盤
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▶ 資産を増やすべきか守るべきか?|40代独身の投資バランスの考え方 / FIRE計画の羅針盤
・資産形成後半では「もっと増やす」以外の役割を資産に持たせることが重要になります。
※本記事はFIRE、早期退職、特定の資産取り崩し方法、金融商品等を推奨・保証するものではありません。必要な老後資金は、年齢、資産額、収入、生活費、住居、健康状態、家族構成、公的年金、税・社会保険制度などによって大きく異なります。
※投資には元本割れのリスクがあります。株式、投資信託、債券等を利用しながら資産を取り崩す場合は、価格変動、インフレ、手数料、税制、ご自身のリスク許容度等をご確認のうえ、ご自身の判断で行ってください。
※平均寿命、平均余命、健康寿命等は集団について算出された統計値であり、個人の寿命や将来の健康状態を予測するものではありません。公的年金制度や受給額も将来変更される可能性がありますので、具体的な老後・FIRE計画では日本年金機構等の最新情報とご自身の年金記録をご確認ください。



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