FIREを目指して資産形成を続けていると、ある時期から少し変な悩みが出てきます。
資産1,000万円の頃は、「もっと増やしたい」だけだった。
3,000万円、4,000万円と増えてくると、「ここまで来て暴落したら嫌だ」が混ざり始める。
そして目標だった5,000万円、6,000万円が見えてくると、「FIRE直前なんだから、そろそろ株式比率を下げた方がいいのでは?」という疑問が出てきます。
これはかなり真っ当な疑問です。一般的な資産運用では、若いうちは株式を多く持ち、年齢が上がるにつれて債券や現金など値動きの比較的小さい資産を増やす考え方があります。
有名なのが、「100-年齢」あるいは、「120-年齢」を株式比率の目安にする方法です。
例えば「120-年齢」なら、40歳で株式80%、50歳で70%、60歳で60%という具合です。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券も、これは資産配分を決める簡便な考え方の一つであり、年齢とともに低リスク資産へ移していく方法だと紹介しています。
同時に、個人のリスク許容度を反映した万能なルールではないとも説明しています。
理屈は分かりやすい。若ければ暴落しても給料を稼ぎながら回復を待てる。
年齢が上がれば退職が近づき、給与収入がなくなる。だから徐々に株式を減らして守る。
普通の定年退職なら、かなり合理的です。ところが私は一つ引っかかります。
45歳でFIREする人にも、65歳で定年退職する人と同じ「年齢とともに守る」ルールを当てはめていいのでしょうか。
45歳でFIREして90歳まで生きれば、資産を45年間維持する必要があります。
65歳からなら25年間です。しかも45歳FIREでは、公的年金の受給開始まで長い。
資産を守らなければならない一方で、まだ数十年間、資産を成長させる必要もある。
つまりFIRE直前の資産配分は、「もう退職するから株を減らす」だけでは片づきません。
守りに入る必要がある時期なのに、普通の定年退職より長期間、成長資産を必要とする。今回はこの矛盾を考えます。
結論を先に言えば、「FIRE直前だから株式比率を下げる」という考え方には合理性があります。
ただし、「年齢が上がるほど一方向に株式を減らせばよい」とは限りません。
FIRE民が見るべきなのは年齢そのものより、「あと何年で給与収入を失うのか」、「いつから資産を取り崩すのか」、「暴落しても何年間株を売らずに生活できるのか」、「その後何十年間、資産を維持する必要があるのか」です。
これを、一般的なグライドパスと区別するため、便宜上、「FIRE版グライドパス」として考えてみます。
- 「年齢とともに株式比率を下げる」はなぜ定説になっているのか
- 同じ45歳でも「65歳まで働く人」と「来年FIREする人」は全く違う
- FIRE直前で本当に怖いのは「平均リターン」よりリターンの順番
- 「だから年齢とともに株を減らし続ける」で本当にいいのか
- FIRE版グライドパスは「一直線」ではないかもしれない
- FIRE直前に下げるべきなのは「株式比率」ではなく「失敗確率」かもしれない
- 株式比率を決める7つの軸|年齢はその一つにすぎない
- FIRE直前の株式比率は「暴落したら何を売るか」から逆算すると分かりやすい
- FIRE直前に株式比率を下げるなら「相場予想」ではなく計画でやる
- オルカンやS&P500を長期保有する人ほど「中身」より比率を見る
- 「株式比率を下げすぎるリスク」も忘れない
- 45歳FIREなら「45歳の株式比率」ではなく「45年間の資産設計」を考える
- FIRE直前で株式比率を下げなくてもいい人もいる
- 「100-年齢」「120-年齢」は捨てるのではなく、出発点として使う
- FIRE資産配分は「退職日」で完成させなくていい
- FIRE直前に確認したい「株式比率より大事なこと」
- まとめ
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「年齢とともに株式比率を下げる」はなぜ定説になっているのか
まず、一般的な考え方そのものはかなり合理的です。
人が持っている資産は、証券口座に表示される金融資産だけではありません。
会社員には、「これから働いて得られる給与収入」があります。
40歳の会社員なら、60歳や65歳まで働くことを前提にすれば、まだ何年も給与が入ってくる可能性があります。
株価が下落しても生活費を株式から取り崩す必要はなく、むしろ給料から追加投資することすらできます。
一方、退職すればこの給与というキャッシュフローがなくなります。
だから退職が近づくにつれて、株式中心の「増やす資産」から、債券や現金を含む「使う資産」へ、少しずつ重心を移す。これがグライドパスの基本的な考え方です。
実際、代表的なターゲット・デート・ファンドでも似た設計が採用されています。
Vanguardの代表的なグライドパスは、若い時期には株式約90%から始まり、退職予定年齢の65歳時点で約50%、その後さらに株式比率を落とし、72歳前後で約30%へ到達する設計です。
つまり「退職日になった瞬間に安全運転へ切り替える」のではなく、長期間かけて徐々に資産配分を変えています。
| 時期のイメージ | 一般的な考え方 | 株式の役割 | 債券・現金等の役割 |
|---|---|---|---|
| 若い現役期 | 成長重視 | 長期的な資産成長 | 値動きの緩和 |
| 退職が近づく | 徐々に守りを増やす | 成長力を残す | 退職直後の下落への備え |
| 退職直後 | 取り崩しを意識 | 長期成長 | 生活費・価格変動対策 |
| 退職後 | 収入・支出・寿命に合わせる | インフレや長寿への対応 | 資産変動の抑制 |
この方向性自体を、「古い考えだから無視しよう」と言うつもりはありません。
むしろFIRE直前ほど、この考え方は重要になります。
問題は、「年齢をそのままFIRE民にも使っていいのか」です。
同じ45歳でも「65歳まで働く人」と「来年FIREする人」は全く違う
45歳のAさんとBさんがいるとします。二人とも金融資産5,000万円。年間生活費も250万円。
同じ年齢。同じ資産。同じ支出。しかしAさんは65歳まで働く予定。Bさんは46歳でFIRE予定です。
この二人に、「45歳だから株式比率は○%」と同じ答えを出してよいでしょうか。
私はかなり疑問です。Aさんにはまだ約20年間、給与収入があります。
暴落が起きても、生活費を金融資産から取り崩す必要は基本的にありません。むしろ株価が安ければ積み立てを続けられる。
一方、Bさんは翌年から給与収入がなくなり、生活費を自分の資産から出す可能性があります。
同じ45歳でも、「金融資産に求められている仕事が違う」のです。
| 条件 | 45歳・65歳まで働く人 | 45歳・翌年FIREする人 |
|---|---|---|
| 給与収入 | 今後も長く続く想定 | まもなく終了 |
| 資産取り崩し | まだ先 | 目前 |
| 暴落後の回復待ち | 給与で生活しながら待ちやすい | 生活費との競合が起きる |
| 退職後の運用期間 | 相対的に短い | 非常に長くなり得る |
| 重要なリスク | 資産成長不足など | 退職直後の下落+長期成長不足 |
だからFIREの資産配分では、「何歳か」より「FIREまで何年か」を強く意識した方が合理的です。
言い換えるなら、年齢ではなく「退職までの距離」で考える。
40歳でもFIREまで1年なら、ポートフォリオはすでに「退職直前」です。
55歳でもFIREまで10年あり、その間給与収入を得る予定なら、まだ長い資産形成期間があります。
年齢だけでは、この違いを表現できません。
FIRE直前で本当に怖いのは「平均リターン」よりリターンの順番
では、なぜFIRE直前に株式比率を見直す意味があるのでしょうか。
最大の理由の一つが、「シーケンス・オブ・リターン・リスク」です。
日本語なら、「リターンの順序のリスク」と考えると分かりやすいです。
例えば、同じ投資リターンでも、最初に上昇して最後に暴落する場合と、最初に暴落して後から上昇する場合では、資産を取り崩している人の結果が変わります。
説明のため、金融資産5,000万円から毎年200万円を取り崩す非常に単純な例を考えます。
税金、手数料、物価変動などは無視します。
| 年 | ケースA | ケースB |
|---|---|---|
| 1年目リターン | +20% | -20% |
| 2年目リターン | +10% | +10% |
| 3年目リターン | -20% | +20% |
| 3年後残高の概算 | 約4,744万円 | 約4,576万円 |
3年間に経験したリターンはどちらも、+20%、+10%、-20%。ただし順番が違います。
それだけで最終残高が変わる。なぜなら、最初に資産が大きく減った状態で生活費まで取り崩すと、その後の値上がりを受ける元本が小さくなるからです。
積み立て中なら暴落は必ずしも悪いだけではありません。安く買えるからです。
でも取り崩し中の暴落は性格が違います。
「安くなった資産を売って生活費へ変えなければならない」可能性があるからです。
Morningstarの退職研究でも、退職後の早い時期、特に最初の数年間の運用成績が悪いケースほど資産枯渇リスクが高まりやすいことが確認されています。
逆に最初の数年間を比較的良好に乗り切れたケースでは、その後の持続可能性が高まりやすいという結果です。
だから、「FIRE直前は株式比率を下げるべきという話には、ちゃんと根拠があります。問題はここからです。
「だから年齢とともに株を減らし続ける」で本当にいいのか
普通の老後なら、退職する。年を取る。運用期間が短くなる。だから株式比率をさらに下げる。直感的には自然です。
でもFIREは少し変です。45歳でFIREした場合、50歳になったから株式を減らす。60歳になったからさらに減らす。70歳になったからもっと減らす。これを機械的に続けたらどうなるでしょう。
FIRE開始から20年以上が経過してようやく65歳です。そこからさらに老後が続く。
つまり、FIRE民は退職した時点で運用が終わるのではなく、むしろ「取り崩しながら運用する超長期戦」が始まるわけです。
株式には大きな価格変動があります。でも長期間資産を維持するには、成長力も必要です。
特にインフレが続けば、現金だけでは同じ金額で買えるモノやサービスが減っていきます。
債券にも金利リスクやインフレリスクがあり、「株ではない = 絶対安全」でもありません。
Vanguardのターゲット・デート運用が退職後も株式をゼロにせず、最終的にも一定の株式比率を残している理由の一つも、退職後にも長期間の資産成長が必要だからです。
ここにFIRE特有の難しさがあります。退職直後は守りたいが、退職期間が長すぎるので、成長力も捨てられない。
だから、「FIREが近い = 株式を減らす」までは分かる。でも、「FIREした = その後も年齢とともに株式を減らし続ける」まで自動的にはつながらない。ここを分けた方がいいと思います。
FIRE版グライドパスは「一直線」ではないかもしれない
一般的なグライドパスは、株式比率が高いところから徐々に下がっていく。飛行機が滑走路へ向かうような形です。
でもFIREの場合は、「FIRE直前に守りを厚くする」→「FIRE直後の危険な時期を乗り切る」→「その後も数十年間運用する」という特殊な時間軸になります。
そこで海外の退職研究には、退職直前から退職直後に株式比率を低めにし、その後一定条件のもとで株式比率が再び高まる「rising equity glide path」という考え方もあります。
Michael Kitcesらの研究では、退職直前に債券などを増やし、退職初期にその安全資産を使うことで、結果的に株式比率が後から高くなるような「V字型」に近い資産配分が、特に厳しいリターン順序に対する防御策になり得るという議論があります。これは「bond tent」と呼ばれる考え方とも関連します。
もちろん、「FIRE後は株式比率を上げればいい」という万能ルールではありません。
研究には前提がありますし、実際の税制、年金、支出、相場、リスク許容度は人によって違います。
ただ、ここから分かることがあります。「資産配分は必ずしも『年を取ったら株を減らす』という一方向でなければならないわけではない」ということです。これだけでも、かなり重要です。
| フェーズ | ポートフォリオで考えたいこと |
|---|---|
| FIREまで遠い資産形成期 | 長い運用期間と給与収入を活かしつつ、自分のリスク許容度に応じて成長資産を持つ |
| FIRE直前期 | 暴落によって退職時期そのものが大きくずれるリスクを意識する |
| FIRE開始直後 | 安値で株式を強制売却しない仕組みを考える |
| FIRE安定期 | 残りの運用期間、年金、生活費、資産残高を見ながら長期成長とのバランスを考える |
私はこの考え方を、「FIRE版グライドパス」として持っておく価値があると思います。
重要なのはV字にすることではなく、「FIREの前後で、株式に求める役割そのものが変わる」と理解することです。
▶ FIRE直前5年は「退職レッドゾーン」|FIREを7段階で考える“もうすぐ自由”が一番危ない理由 / FIRE計画の羅針盤
資産額が大きくなり、退職日も近づくほど、一度の暴落が人生計画へ与える影響は大きくなります。
FIRE直前に下げるべきなのは「株式比率」ではなく「失敗確率」かもしれない
FIRE直前に株式比率を70%から60%へ下げる。それ自体が目的ではありません。
本当の目的は、「予定しているFIREが一度の相場下落で破綻する可能性を下げること」です。
だから株式比率だけ見ても答えは出ません。例えば同じ株式80%でも、Aさんは生活費5年分に相当する現金・低変動資産を別に持っている。Bさんは現金がほとんどなく、翌月から株式を売って生活する。この二人のリスクは同じではありません。
逆に株式50%でも、年間生活費が非常に大きく、資産に対する取り崩し率が高ければ安全とは限らない。
つまりFIRE直前に見るべきなのは、「株式比率という一つの数字ではなく、ポートフォリオ全体が生活費をどう支えるか」です。
ここはかなり大事です。「株式80%だから危険」、「株式50%なら安全」と単純化すると、FIREで最も重要な「資産と支出の関係」が抜けてしまいます。
株式比率を決める7つの軸|年齢はその一つにすぎない
では、FIREを目指す40代は何を見ればいいのか。
「あなたの最適株式比率は63%です」などと一発で出せる公式はありません。
しかし、少なくとも次のような要素を並べると、自分が株式をどの程度持てる人なのかはかなり見えてきます。
| 確認する軸 | 株式比率を高めやすい方向 | 守りを厚くしたくなる方向 |
|---|---|---|
| FIREまでの年数 | まだ長い | 1~数年以内 |
| 資産に対する生活費 | 小さい | 大きい |
| 現金・債券等の余力 | 十分ある | ほとんどない |
| 年金・その他収入 | 将来の安定収入が大きい | 資産依存度が高い |
| 支出の柔軟性 | 暴落時に減らせる | 固定費が大きく減らしにくい |
| 再収入の選択肢 | 働く等の選択肢を残せる | 資産だけで生活する前提が強い |
| 価格変動への耐性 | 大幅下落でも運用継続できる | 含み損で眠れなくなる |
ここで面白いのが、「リスク許容度とリスク許容量は別」という点です。
株価が30%下がっても平気。これは心理的なリスク許容度です。
でもFIRE翌年から毎月資産を売らなければ生活できない。これは経済的なリスク許容量が小さい。
本人がどれだけ強気でも、「生活上、大きなリスクを取れない」場合があります。
逆に慎重な人でも、資産が非常に大きく年間支出が小さければ、経済的にはかなり大きな価格変動に耐えられることもあります。
だから、「私は暴落に強いから株100%でいい」とも、「45歳だから株75%」とも単純には決められません。
FIREの株式比率は、「自分の性格と家計の両方」で決める必要があります。
FIRE直前の株式比率は「暴落したら何を売るか」から逆算すると分かりやすい
資産配分の話は、どうしても抽象的になります。
そこで私は、「明日30%の株価下落が起きたら、生活費をどこから出すか」と考える方が分かりやすいと思っています。
暴落した。それでも給与がある。なら会社員の間は給与で生活できます。FIRE直前なら、まだ株を売らずに済む。
ではFIRE翌月に暴落したら。生活費はどこから出すのか。
普通預金。定期預金。個人向け国債。債券。株式。配当。年金。その他の収入。どれなのか。ここが決まっている人は強い。
反対に、「資産5,000万円あるから何とかなるでしょう」だけでは少し危ない。
FIREでは総資産額より、「次の生活費をどの資産から出すのか」まで決める必要があります。
▶ FIREを目指す人は現金いくら持つべきか?|キャッシュ比率の最適解 / FIRE計画の羅針盤
FIRE前後の現金は、単なる「投資していないお金」ではありません。株価が悪い時期に売却を急がずに済む時間を買う役割があります。
▶ 債券投資は必要か?|株式との違いとFIREにおける最適な役割 / FIRE計画の羅針盤
株式比率を下げる場合、その受け皿として何を持つかも重要です。
債券を「株より安全だから」だけで考えず、FIRE資産の中でどの役割を持たせるかも整理する必要があります。
FIRE直前に株式比率を下げるなら「相場予想」ではなく計画でやる
株価が史上最高値。AI株が上がりすぎている。景気後退が来そう。だから株を売る。
これは、「資産配分の調整」というより、「相場予想」に近くなります。
今回考えているのは別です。例えば、「FIRE5年前から毎年ポートフォリオを確認する」、「FIRE開始時点で、暴落しても生活費のために株をすぐ売らなくて済む構造を作る」、「株価が上がったからではなく、FIREまでの距離が縮まったから資産配分を変える」という考え方です。
これなら、今日が天井なのか。来年暴落するのか。AIバブルなのか。円高になるのか。これらを当てる必要がありません。
むしろ、「予想できないからこそ、事前に資産配分を決める」、これがグライドパスの強みです。
資産形成期には、毎月の積み立て先の一部を現金・債券側へ変える。ボーナスなど新規資金で安全資産を増やす。株高で目標比率を大幅に超えたらリバランスする。
こうした方法なら、いきなり大量の株式を売却しなくても資産配分を徐々に変えられる場合があります。
ただし、課税口座での売却には税金が生じる場合がありますし、新NISAの売却後の非課税保有限度額の扱いなど制度面も確認する必要があります。
だから、「FIRE直前だから全部売る」ではなく、「退職までの数年間を使ってポートフォリオを退職仕様へ変える」くらいが考え方としては自然です。
▶ FIRE直前の株式比率や資産配分を見直すなら、楽天証券で新NISAや投資信託を確認するオルカンやS&P500を長期保有する人ほど「中身」より比率を見る
FIREを目指す人には、オルカン。S&P500。全世界株式。米国株インデックス。こうした低コストの株式インデックスを中心に資産形成している人も多いでしょう。
ここで、「オルカンを売るべき?」、「S&P500を減らすべき?」と商品名から考え始めると、少し話がズレます。
今回の問題は、その商品が良いか悪いかではありません。
良い株式ファンドでも、ポートフォリオの100%を占める場合と50%を占める場合では、生活への影響が違います。
例えば、オルカン4,000万円+現金1,000万円。オルカン4,000万円+債券1,000万円。オルカン5,000万円だけ。総資産は似ていても、FIRE開始直後の暴落への耐え方は違います。
だからFIRE直前には、「何を持っているか」だけでなく「何%持っているか」へ視点を移すことが必要になります。
▶ オルカン1本でいいのか?|“それで十分な人・足りなくなる人”の違いを現実ベースで徹底整理 / FIRE計画の羅針盤
「株式比率を下げすぎるリスク」も忘れない
FIRE直前になると暴落が怖くなる。これは自然です。
しかし恐怖だけで安全資産を増やしすぎると、別の問題が出ます。
例えば45歳から90歳まで45年間。これをほぼ現金だけで過ごそうとすれば、インフレによる購買力低下をかなり長期間受ける可能性があります。
さらにFIRE必要資産そのものが大きくなります。株式には値動きがありますが、期待リターンを放棄するほど、同じ生活費を支えるために必要な元本は大きくなります。
だから、「暴落しないポートフォリオ」を作ることがFIREの目的ではありません。
FIREで必要なのは、「暴落しても生活が壊れにくく、同時に数十年後まで資産が残る可能性を持たせること」です。
守りすぎても駄目。攻めすぎても駄目。ここがFIRE資産配分の面倒なところであり、面白いところでもあります。
45歳FIREなら「45歳の株式比率」ではなく「45年間の資産設計」を考える
年齢ベースの資産配分には、便利なところがあります。45歳なら何%。55歳なら何%。考えなくても答えが出ます。でもFIREでは、「現在の年齢だけ見ていると、その後の運用期間が抜け落ちる」ことがあります。
45歳でFIREする人なら、考えるべきなのは、「45歳だから株式何%?」より、「ここから40~50年、この資産をどう働かせるか?」です。
これだけで視点が変わります。FIRE開始直後に使うお金。10年後にも使うお金。20年後にも使うお金。老後に使うお金。全部同じ時間軸ではありません。
- 来年使う予定のお金まで株式で大きく変動させる必要はあるのか
- 逆に30年後に使うお金まで現金で眠らせる必要があるのか
こう考えると、「ポートフォリオは一つの資産ではなく、時間の違う生活費をまとめて持っている」ようにも見えてきます。
この視点を持つと、「年齢が何歳だから株何%」より、自分の生活に近い資産配分を考えやすくなります。
FIRE直前で株式比率を下げなくてもいい人もいる
ここまで読むと、「結局、FIRE直前は株式比率を下げた方がいいの?」と思うでしょう。
答えは、人によります。例えば、金融資産が生活費に対して十分大きい。暴落しても生活費を長期間別資産から出せる。公的年金以外にも安定収入がある。支出を柔軟に下げられる。FIRE後も必要なら収入を得る選択肢がある。大幅下落しても狼狽売りしない。こういう人なら、高めの株式比率を維持できる可能性があります。
逆に、FIRE必要資産ぎりぎりで退職する。年間取り崩し額が大きい。現金余力が少ない。固定費が高い。退職後の収入をまったく想定していない。株価下落時にも同額を取り崩す必要がある。含み損に強いストレスを感じる。こういう人なら、同じ年齢、同じ資産額でも、守りを厚くする意味は大きくなります。
つまり、株式比率の正解は資産額そのものより、「資産に対してどれだけ生活を要求するか」で変わる。これがFIREらしい答えだと思います。
「100-年齢」「120-年齢」は捨てるのではなく、出発点として使う
では、「100-年齢」、「120-年齢」は役に立たないのでしょうか。
そんなことはありません。むしろ、「最初に自分の資産配分を考えるための物差し」としてはかなり便利です。
問題なのは、それを答えにしてしまうことです。
45歳だから、120-45=75%。だから株式75%。これで終了。
ではなく、「一般的な目安なら75%くらいになる。でも私は1年後にFIREする。現金は少ない。年間支出は資産に対して大きい。なら自分はもう少し守りを厚くした方がいいかもしれない」、あるいは、「私は45歳だけどFIRE後の支出が非常に小さく、資産余力も大きい。長期運用期間も45年ある。なら年齢だけで機械的に株を減らす必要はないかもしれない」と考える。こういう使い方です。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券も、「120-年齢」などはあくまでシンプルな考え方の一つであり、個々のリスク許容度と必ずしも一致しないと説明しています。
「目安はスタート地点で、ゴールではない」、FIRE民なら、特にそう考えたいところです。
FIRE資産配分は「退職日」で完成させなくていい
もう一つ、個人的にかなり重要だと思うのが、「FIREする日までに、完璧なポートフォリオを完成させなければと思わなくてもいい」ということです。
FIRE後も人生は続きます。年金受給が始まる。生活費が変わる。家を買うかもしれない。親のことがあるかもしれない。健康状態も変わる。資産額も変わる。
そして、自分が実際にFIRE生活を送って初めて、「思ったよりお金を使わない」、「意外と旅行費がかかる」、「この株式比率では怖すぎる」、「逆に現金を持ちすぎていた」と分かることもあります。
だからFIRE版グライドパスは、FIRE前に一度決めて終わりではありません。
年に一度程度、資産額、年間生活費、株式比率、現金・債券、取り崩し率、年金見込み、今後の大型支出を確認して、必要なら少しずつ調整する。その方が現実的です。
FIREとは会社を辞めた瞬間に完成する金融商品ではなく、「数十年間続く資産運用と生活のセット」です。
FIRE直前に確認したい「株式比率より大事なこと」
最後に、FIRE直前なら株式比率そのものより、次の状態を確認します。
| 確認項目 | 考えること |
|---|---|
| 株価が大きく下落したら | 予定していたFIRE日を維持できるか |
| FIRE直後に暴落したら | 生活費のために株式をすぐ売る必要があるか |
| 生活費が上がったら | 年間取り崩し額を維持できるか |
| 株価低迷が数年続いたら | 支出を調整できるか |
| 現金・債券等 | 自分の中で明確な役割を持っているか |
| 株式比率 | 上昇相場の結果、意図せず高くなっていないか |
| 心理面 | 30~40%下落しても計画を投げ出さないか |
| 長期運用 | 20年、30年先の成長力まで捨てていないか |
この表を見て、「これなら暴落しても何とかなる」と思えるなら、株式比率そのものに神経質になる必要はないかもしれません。
逆に、「FIRE翌月から株を売らないと家賃を払えない」となれば、株式比率が60%なのか70%なのか以前に、もう少し生活資金の構造を考えた方がいいです。
FIREでは、「ポートフォリオの美しい比率より、悪い相場でも生活を続けられること」の方が重要です。
▶ FIRE中に暴落が来たらどうなる?|40代独身のリアルと生存戦略 / FIRE計画の羅針盤
株式比率を考える目的の一つは、暴落時にもFIRE生活を維持することです。
▶ FIREの4%ルールは安全なのか?|40代独身が知るべき取り崩しの現実 / FIRE計画の羅針盤
株式比率と同じくらい重要なのが「資産から年間いくら取り崩すか」です。
早期リタイアでは運用期間が長くなりやすいため、取り崩し率もセットで考える必要があります。
まとめ
「年齢とともに株式比率を下げる」。この考え方にはちゃんと理由があります。
若いうちは給与収入があり、暴落しても回復を待ちやすい。
退職が近づけば給与というキャッシュフローを失い、資産から生活費を取り崩すようになる。
だから退職前に株式の値動きを少し抑える。合理的です。
ただし40代FIREでは、普通の定年退職と一つ大きな違いがあります。
「退職が早い」ことです。45歳でFIREすれば、資産運用期間は40年、50年に及ぶ可能性があります。
つまり、「退職直後の暴落には弱くなるのに、超長期の成長力も必要になる」、ここがFIREの資産配分を難しくします。
だから、45歳だから株式75%、50歳だから70%、55歳だから65%と年齢だけで機械的に下げるより、「FIREまであと何年か」、「いつから資産を取り崩すのか」、「暴落しても株式を売らずに生活できるのか」、「年間生活費は資産の何%なのか」、「その後何十年間、資産を維持する必要があるのか」を見る。
そして必要なら、「FIRE直前に守りを厚くする。FIRE直後の危険な時期を乗り切る」、「その後も長期成長力を残す」、これが私の考える、「FIRE版グライドパス」です。
FIRE直前に株式比率を下げることが正しい人もいる。下げない方が合理的な人もいる。
大切なのは、「年齢が上がったから株を減らす」のではなく、「自分の生活を守るために必要なリスク量へ調整する」ことです。
FIREで欲しいのは、株式比率50%という美しい数字ではありません。
暴落が来ても、円高が来ても、インフレが来ても、相場予想を外しても、会社へ泣きながら戻らなくても済む可能性を高めるポートフォリオです。
そして同時に、30年後、40年後にも自分を養ってくれるだけの成長力を残す。
「守る」と「増やす」を二者択一にしない。FIRE直前こそ、その両方を初めて本気で考える時期なのだと思います。
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▶ FIRE直前5年は「退職レッドゾーン」|FIREを7段階で考える“もうすぐ自由”が一番危ない理由 / FIRE計画の羅針盤
・FIRE直前は資産額が最大級になる一方、一度の暴落によって退職時期そのものが動きやすい時期です。資産配分を見直す理由を「時期」の側から考えたい方はこちらへ。
▶ FIRE中に暴落が来たらどうなる?|40代独身のリアルと生存戦略 / FIRE計画の羅針盤
・FIRE開始後に株価が大きく下がったとき、取り崩しと資産寿命がどう関係するのかを整理しています。
▶ FIREを目指す人は現金いくら持つべきか?|キャッシュ比率の最適解 / FIRE計画の羅針盤
・株式比率を下げるとき、その反対側に何を持つかも重要です。FIREにおける現金の役割はこちらで整理しています。
▶ 債券投資は必要か?|株式との違いとFIREにおける最適な役割 / FIRE計画の羅針盤
・「株を減らして債券を増やせば安全」と単純化せず、債券がFIREポートフォリオで何を担うのかを考えています。
▶ オルカン1本でいいのか?|“それで十分な人・足りなくなる人”の違いを現実ベースで徹底整理 / FIRE計画の羅針盤
・オルカンそのものではなく、資産全体に占める株式の役割を考えたい方はこちらへ。
▶ FIREの4%ルールは安全なのか?|40代独身が知るべき取り崩しの現実 / FIRE計画の羅針盤
・FIRE後の資産寿命は株式比率だけでは決まりません。資産から年間いくら使うかという「取り崩し側」の問題はこちらで整理しています。
※本記事で用いる「FIRE版グライドパス」は、一般的なグライドパスの考え方を早期リタイアの時間軸に当てはめて整理するため、本記事で便宜的に使用している表現です。特定の運用手法や資産配分を指す正式な金融用語ではありません。
※「100-年齢」「120-年齢」等は資産配分を考えるための簡便な目安の一つであり、特定の株式比率がすべての投資家に適していることを意味しません。適切な資産配分は、資産額、収入、支出、年齢、運用期間、年金、リスク許容度等によって異なります。
※本記事で示した資産残高、リターン、取り崩し等の数値例は考え方を説明するための単純化した試算です。税金、手数料、インフレ、為替変動等を考慮しておらず、将来の投資成果を示すものではありません。
※本記事はFIREや早期リタイア、退職、特定の株式比率への変更、投資商品の売買を推奨・保証するものではありません。働き方や退職の判断は、収入、資産状況、健康状態、職場環境、家族構成等によって大きく異なります。
※投資には元本割れのリスクがあります。新NISA、投資信託、株式、債券等を利用する場合は、価格変動リスク、為替リスク、金利リスク、手数料、税制、家計状況等をご確認のうえ、ご自身の判断で行ってください。



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