FIREを考え始めると、まだ会社員なのに退職後の自分をかなり具体的に想像するようになります。
朝は目覚まし時計をかけずに起きる。満員電車には乗らない。平日の空いている時間に買い物へ行き、昼から散歩して、読みたかった本を読む。たまには長期旅行へ行き、嫌な上司にも無意味な会議にも二度と付き合わない。こう書くだけで、なかなか魅力的です。
一方で、FIREについて調べていると逆方向の話も出てきます。
「退職したら暇になる」、「社会とのつながりがなくなる」、「生きがいを失う」、「思っていたほど幸せではなかった」。そんな話を読むと、今度は退職後の自分がソファで一人ぼんやりしている姿まで想像してしまいます。
すると、FIREする前から頭の中には二人の未来の自分が生まれます。
一人は、会社から解放されて毎日を自由に楽しむ自分。もう一人は、やることを失って「会社員の方が良かったかもしれない」と後悔している自分です。
しかし、ここで一つ根本的な疑問があります。現在の自分は、まだ経験したことのないFIRE後の自分が何を感じるのか、本当に正確に予測できるのでしょうか。
今回は「FIREは幸せなのか」という答えそのものを決めるのではなく、その一段手前を考えます。
退職後の幸せを、退職前の40代会社員はどのくらい予測できるのか。そして予測には限界があるとすれば、どうやってFIREを決めればいいのか。ここを掘っていくと、意外とFIREの見え方が変わります。
- FIRE後の資産は計算できても「幸福度」は計算しにくい
- 「会社を辞めたら最高」は、なぜ当たりそうで外れるのか
- 「退職した瞬間の気持ち」と「3年後の日常」は別物
- FIREが特に難しいのは、仕事が「一つの機能」ではないから
- FIRE後に「思ったほど幸せじゃない」は失敗なのか
- 比べるべきは「理想のFIRE」ではなく「辞めなかった人生」
- 「期待外れ」と「間違った選択」は同じではない
- 45歳の自分は、65歳の自分をどれくらい知っているのか
- 現在の会社員が、未来のFIRE民へ予定を押し付けていないか
- 「FIRE後に何をする?」への答えは、暫定版でいい
- FIRE前に予測すべきなのは「幸福」一つではない
- 「予測精度」より「修正可能性」を高める
- FIRE前にできるのは「未来を当てること」ではなく、小さく試すこと
- FIRE前の「模擬生活」で見るべきは楽しさだけではない
- 「FIRE幸福度」を一点予想しない
- 資産の余裕は「未来の自分が気を変える余裕」でもある
- 「もっと貯めれば未来が分かる」わけではない
- 40代独身は、未来の自由度を残しやすい
- 「社会とのつながり」は退職前に必要量を決めなくていい
- 「予定のない日」が怖いかどうかも、実際には変わる
- FIRE前に作るのは「幸せな未来」ではなく「変更できる未来」
- FIRE後の幸せを正確に当てられなくても、FIREは決められる
- FIRE後の幸せは「完成品」ではなく、生活しながら作っていくもの
- まとめ|未来の自分を分かったつもりにならなくていい
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FIRE後の資産は計算できても「幸福度」は計算しにくい
FIREには、計算できるものがたくさんあります。
現在の金融資産、年間生活費、年間貯蓄額、想定する退職年齢、年金見込み額、運用利回り。
もちろん将来には不確実性がありますが、少なくとも数字を置いてシミュレーションすることはできます。
ところが、退職後の幸福はそう簡単ではありません。
「会社を辞めれば今より30%幸せになる」と電卓で計算することはできませんし、「週3回趣味をすれば幸福度85点」と決めることもできません。
退職後の時間、人間関係、健康、資産への不安、生活リズム、自由への慣れなど、いろいろなものが同時に変化するからです。
それでも人間は未来を想像します。「この会社を辞めたら最高だろうな」、「毎日休みになったら逆につらいだろうな」、「FIREしたら旅行三昧できる」、「仕事がなくなったら社会から取り残される」、こうして未来の出来事が自分の感情へどのような影響を与えるかを予測することを、心理学では「感情予測(affective forecasting)」と呼びます。
この感情予測の研究では、人は未来の感情をまったく予測できないわけではないものの、出来事による感情の強さや、それがどれくらい続くかを見誤る場合があることが報告されています。
Daniel GilbertやTimothy Wilsonらによる一連の研究では、こうした予測のズレが詳しく検討されてきました。
FIREは、この「未来の感情を予測する」という作業をかなり大きなスケールで行う意思決定なのです。
「会社を辞めたら最高」は、なぜ当たりそうで外れるのか
例えば、今の仕事が相当つらい人を考えてみます。
毎朝の通勤が苦痛で、上司との関係も悪く、会議も多い。
本人にとって会社員生活のストレスは非常に大きいため、FIRE後を想像すると当然その反対側を考えます。
通勤がない。上司がいない。会議もない。目覚まし時計もいらない。
それだけを考えれば、退職後の人生はかなり幸せに見えます。
実際、そうしたストレスがなくなること自体には価値があるでしょう。
ただ、人間の生活は一つの出来事だけでできているわけではありません。
会社を辞めた翌日にも腹は減りますし、体調が悪い日はあります。
歯医者へ行くこともあれば、雨の日もあり、株価が下がって憂鬱になる日もあります。
つまり、「会社を辞める」という巨大な変化だけを拡大して未来を想像すると、「その後も続く普通の日常が背景から消えやすい」です。
感情予測研究では、特定の出来事へ意識を集中し、それ以外の出来事の影響を十分考慮しなくなることを「フォーカリズム(focalism)」という概念で説明する研究があります。
FIREを考えている最中には、「仕事がなくなること」が巨大すぎます。
だから未来の画面いっぱいに、退職だけが映ってしまいます。
「退職した瞬間の気持ち」と「3年後の日常」は別物
もう一つ重要なのが、「慣れ」です。
念願のFIREを達成した直後は、かなり強い解放感を感じる人もいるでしょう。
月曜日なのに会社へ行かなくていい。メールを見なくていい。人事評価も上司も関係ない。
しかし、人は良い変化にも悪い変化にも、ある程度慣れていきます。
初めて平日の昼にビールを飲んだ日は「自由だ!」と感じても、300回目まで同じテンションで感動していたら、それはそれですごいです。
自由はなくなっていません。ただ、自由が「日常になる」のです。
これはFIREが失敗したという意味ではありません。むしろ、会社員時代には特別に見えた自由が普通の生活へ変わっただけです。
ところが退職前には、その「普通になる未来」が想像しにくいです。
だから、「FIRE直後の解放感を、FIRE後の恒常的な幸福度だと思ってしまう」ことがあります。
逆方向も同じです。退職直後に「会社とのつながりが消えて寂しい」と感じても、その感覚が10年続くとは限りません。
新しい生活リズムを作ったり、新しい人間関係ができたり、一人時間そのものに慣れたりする可能性があります。
つまり、未来予測では、「最初の感情と、その生活へ慣れた後の感情を分ける」必要があります。
FIREが特に難しいのは、仕事が「一つの機能」ではないから
仕事が嫌いな人は、「仕事さえなくなれば生活は良くなる」と考えやすいです。
しかし、実際の仕事は単なる労働時間ではありません。
一つの商品にいろいろなサービスが抱き合わせになっているように、会社員生活には複数の機能が束になっています。
| 会社員生活に含まれるもの | 嫌ならFIREで減らしたい部分 | なくなって初めて気づく可能性がある部分 |
|---|---|---|
| 給与 | 会社への経済的依存 | 毎月一定額が入る安心感 |
| 勤務時間 | 自由時間を奪われる | 生活リズムが自動的に整う |
| 同僚・上司 | 面倒な人間関係 | 毎日誰かと話す機会 |
| 仕事上の責任 | プレッシャーやストレス | 自分の役割が明確になる |
| 通勤 | 時間・体力の消耗 | 強制的に外出し歩く機会 |
| 締切・会議 | 自由を奪う予定 | 一週間にメリハリが生まれる |
| 評価・肩書 | 他人から採点される不快感 | 社会の中での分かりやすい立場 |
重要なのは、この「なくなって初めて気づく可能性がある部分」が必要だから会社を辞めるなという話ではありません。
むしろ逆です。「仕事が嫌いでも、仕事に含まれるすべての機能が嫌いとは限らない」ということです。
ここを分解しておくと、FIRE後の幸福をかなり考えやすくなります。
- 嫌な上司はいらない、でも週に何回か人と話す機会は欲しい
- 満員電車はいらない、でも家に閉じこもるのは嫌だ
- 会社の評価制度はいらない、でも何か小さな役割は欲しい
- 給与のために週5日働く必要はない、でも月数万円の収入と生活リズムを兼ねた短時間労働なら楽しい
こうやって仕事をバラバラにすると、「会社員か完全無職か」の二択ではなくなります。
FIRE後に「思ったほど幸せじゃない」は失敗なのか
退職前に想像したFIRE生活を100点満点で90点だと思っていたとします。
実際にFIREしてみたら70点だった。旅行にも慣れたし、暇な日もある。会社のストレスはなくなったけれど、資産残高が減る不安はある。別に不幸ではないものの、夢見ていた「毎日最高!」ではない。
すると、「FIRE失敗だったのでは?」と思いたくなります。
でも、その比較には問題があります。比べているのが、「想像のFIRE」と「現実のFIRE」だからです。
本来、退職という意思決定を評価するなら、もう一つの人生「FIREしなかった自分」も考えなければいけません。
比べるべきは「理想のFIRE」ではなく「辞めなかった人生」
説明のために、架空の数字を置いてみます。
これは幸福度を客観的に測れるという意味ではなく、比較軸を説明するための単純なイメージです。
| 想定する人生 | 仮の満足度 | 見え方 |
|---|---|---|
| 退職前に想像していた完璧なFIRE | 90点 | 旅行・自由・ストレスなしの理想像 |
| 実際に始まった地味なFIRE生活 | 70点 | 暇や不安もあるが、自分の時間は多い |
| そのまま嫌な職場で働き続けた人生 | 50点 | 給与はあるが、仕事のストレスも続く |
90点と70点を比べれば、20点の期待外れです。
しかし70点と50点を比べれば、意思決定としては20点改善しています。
もちろん実際には、「会社に残っていたら何点だったか」を知ることはできません。
同じ人が同じ時間に二つの人生を生きることはできないからです。
こうした「実際には起きなかった別の世界」を考えることを、一般には「反実仮想」といいます。
ここでは便宜的に、「FIREの反実仮想」と呼ぶことにします。
FIRE後に後悔したとき、「理想通りだったか」だけではなく、「あのまま会社員を続けた未来と比べても、こちらを選ばなかった方が良かったと言えるのか」まで考える。これはかなり重要です。
「期待外れ」と「間違った選択」は同じではない
「期待外れ」と「間違った選択」の違いを意識すると、FIRE後悔の見え方も変わります。
海外旅行を毎月したかったけれど、半年で飽きた。これは予想外だったかもしれません。
でも、「旅行に飽きたからFIREは失敗」とは限りません。
会社を辞めたことで旅行以外にも自由時間が増え、仕事のストレスが減り、健康状態や生活リズムが改善しているなら、旅行への予測を外しただけです。
未来予測が一つ外れたことと、人生の選択全体が間違っていたことは別問題です。
これはFIREを考えるとき、かなり楽になる考え方だと思います。
人間は、「未来を完璧に予測できなければ退職してはいけない」わけではありません。
そんな条件を付けたら、おそらく誰も会社を辞められません。
45歳の自分は、65歳の自分をどれくらい知っているのか
40代FIREで特に難しいのは、期間が長いことです。
仮に45歳でFIREしたとします。65歳までは20年あります。
45歳から65歳までの20年は、25歳から45歳までと同じ長さです。
25歳の自分は、45歳の自分をどれくらい正確に予測できていたでしょうか。
どんな仕事をしているか。どこに住んでいるか。何にお金を使っているか。どんな趣味があるか。誰と付き合っているか。何を面倒に感じ、何を楽しいと思っているか。
20年前の自分がすべて当てていた人は、かなり少ないでしょう。
それなのに45歳になると、なぜか65歳の自分については分かった気になってしまいます。
「老後は旅行したい」、「FIRE後はゲームをして暮らす」、「もう二度と働きたくない」、今は本当にそう思っている。でも、55歳の自分や65歳の自分も同じとは限りません。
未来の自分は、自分ではあります。でも「完全に現在の自分のコピーではない」です。
現在の会社員が、未来のFIRE民へ予定を押し付けていないか
会社員時代の自分は、「FIREしたら時間を有意義に使おう」と考えます。
朝は早起きして運動し、資格の勉強をし、毎月旅行し、料理をして、社会とのつながりも維持し、健康的に暮らす。
退職したのに、予定表が会社員時代より忙しくなっています。なぜこうなるか。
一つには、現在の自分が何十年も「時間には成果が必要」という世界で生きてきたからだと思います。
会社員なら、仕事をした時間には成果が求められます。
休日ですら、「せっかくの休みだから何かしなければ」と思う。
その価値観のまま未来を想像すると、FIRE後の自由時間にまで「有意義さ」を要求してしまいます。
でも未来の自分は、「午前中に散歩して、昼飯を食って、午後は昼寝。それで十分だな」と思っているかもしれません。
それを45歳の会社員の自分が、「いや、もっと自己実現しろ!」と20年先まで命令する必要があるでしょうか。
「FIRE後に何をする?」への答えは、暫定版でいい
FIREを考えていると、「会社を辞めた後、何をするんですか?」と聞かれることがあります。
この質問に即答できないと、FIREしてはいけないような気分になることがあります。
でも私は、「今のところ、こんな生活が良さそう」程度で十分だと思います。
なぜなら、その答えは退職後に更新していいからです。
旅行したければ旅行する。飽きたらやめる。本を読みたければ読む。読書に飽きたら別のことをする。一人で快適なら一人でいればいいし、寂しくなったら人との接点を増やせばいい。
FIRE前に必要なのは、「40年間変更禁止の人生計画」ではなく、「未来の自分が変更できる余白」です。
FIRE前に予測すべきなのは「幸福」一つではない
「FIREしたら幸せになれるか」と一つの質問にまとめると、少し大きすぎます。
そこで、退職後の幸福をいくつかの要素へ分けて考えると見やすくなります。
| 見るもの | 退職前に考える質問 | 予測が外れた場合の調整例 |
|---|---|---|
| 自由 | 自分で時間を決められることに価値を感じるか | 予定を増やす・少し働く |
| 人間関係 | 会社以外にどれくらい人との接点が欲しいか | 趣味・地域・サードプレイスを増やす |
| 生活リズム | 外から予定を与えられなくても生活できるか | 運動・外出・仕事など固定予定を作る |
| お金の安心 | 資産を取り崩す生活に耐えられそうか | 現金余力・支出・小さな収入を調整する |
| 刺激 | 静かな日常を楽しめるか | 旅行・学習・イベントなどを足す |
| 役割 | 仕事の肩書がなくても平気か | 副業・趣味・発信・仕事などを選ぶ |
| 健康 | 自由時間を健康につなげられそうか | 運動・通院・生活習慣を組み直す |
この表のポイントは、右端です。ほとんどの項目は、FIREした後でも変更できます。
ここに注目すると、「退職前に全部正解を当てなければ」というプレッシャーがかなり減ります。
「予測精度」より「修正可能性」を高める
未来を正確に当てようとする。それ自体は悪くありません。
でも45歳の自分が、55歳、65歳、75歳の幸福をすべて正確に予測するのは難しい。
それなら、未来予測の精度を100%へ近づけることより、「予測が外れても修正できる人生にしておく」方が現実的です。
- 会社を辞めて暇だったら、少し働ける
- 都会が嫌になったら、住む場所を変える選択肢がある
- 一人時間が予想以上につらかったら、人との接点を増やせる
- 反対に人付き合いが面倒になったら、減らせる
- 支出が想定より増えたら、旅行や趣味の予算を調整できる
- また働きたくなったら、働いてもいい
つまりFIRE計画では、「未来の自分はこう生きる」と決め切るより、「未来の自分が選び直せる状態」を作る方が強い。
FIRE前にできるのは「未来を当てること」ではなく、小さく試すこと
もちろん「未来は分からないから何も考えなくていい」という話でもありません。
予測には限界がありますが、「予測材料を増やす」ことはできます。
例えば有給休暇や長めの休暇で、仕事の予定がほとんどない数日を経験してみる。旅行で予定を埋め尽くすのではなく、あえて何もない平日を過ごしてみる。会社以外の友人や趣味だけで一週間過ごしたとき、自分はどんな気分になるのか観察してみる。
ここで目的は、「一週間楽しかったからFIRE適性100%」と判定することではありません。
「自分が何を快適に感じ、何が意外と苦痛なのかを知る」ことです。
- 休日は楽しいけれど、3日目から誰かと話したくなる
- 朝寝坊できるのは嬉しいけれど、昼夜逆転すると気分が悪い
- 一人時間は全然苦にならない
- 旅行より自宅の方が好きだった
- 仕事そのものより、通勤と人間関係が嫌だった
こうした情報が増えるほど、「FIRE後はきっとこうなる」という妄想から、少し現実に近い予測へ変わります。
FIRE前の「模擬生活」で見るべきは楽しさだけではない
例えば一週間休暇を取って、「毎日最高だった。やっぱりFIRE向きだ!」と思ったとします。
ただ、その一週間には会社から給与が入り続けています。
資産を取り崩しているわけでもなく、「来週から仕事へ戻る」という予定もあります。
旅行と同じで、終わりがあるから安心して楽しめている可能性があります。
だから模擬FIREで見るなら、「暇を楽しめるか」だけでは足りません。
自分で生活リズムを作れるか。予定がなくても焦らないか。お金を使わない普通の日を楽しめるか。会社以外に会話や刺激があるか。
FIRE後の生活を完全再現することはできませんが、こうした小さな実験なら予測の材料になります。
「FIRE幸福度」を一点予想しない
投資では、「来年の日経平均は7万5,000円になる」と一点だけ予測するより、複数のシナリオを考えることがあります。
FIRE後の幸福も、同じように考えていいと思います。
「FIREしたら絶対幸せ」でもなく、「暇になって後悔するに違いない」でもない。
- かなり楽しいケース
→会社のストレスが大きく減り、一人時間も楽しめる。資産面にも余裕があり、自由が想像以上に自分へ合う。 - 普通のケース
→解放感は徐々に薄れるものの、働いていた頃より生活は穏やか。たまに暇や将来不安もあるが、総じて悪くない。 - 合わないケース
→仕事の役割や人間関係を想像以上に必要としていた。自由時間が苦痛で、少し働いた方が快適。
この3つくらいを想定しておけばいいです。
重要なのは、「一番悪いケースになったら人生終了なのか、それとも修正できるのか」です。
後者なら、未来予測が外れること自体を必要以上に恐れなくて済みます。
資産の余裕は「未来の自分が気を変える余裕」でもある
FIREでは資産額を、「年間生活費の何年分あるか」という目線で考えます。
でも資産には、もう一つ役割があります。それは「人生を修正する時間を買う」ことです。
例えばFIRE後に「やっぱり少し働きたい」と思ったとしても、生活費が完全に給与頼みなら、最初に見つかった仕事へ飛びつかなければいけません。
十分な資産があれば、急ぐ必要はありません。週3日の仕事を探す。自宅から近い仕事を探す。収入は低くても人間関係の良い仕事を選ぶ。
逆に、「もっと旅行したい」と思うようになったら、家計を再計算したうえで支出を増やすこともできます。
つまり資産とは、現在の自分が自由になるためだけのお金ではなく、「未来の自分が考えを変えられるためのお金」でもあります。
この視点なら、FIRE必要資産にある程度の余裕を持たせる意味も少し変わります。
不安だから際限なく貯めるのではなく、「人生を修正できる余白」として持つことが大切です
「もっと貯めれば未来が分かる」わけではない
退職後の未来が不安になると、「あと1,000万円あれば安心できる」と思いやすくなります。
確かに資産が増えれば、金銭面の選択肢は増えます。
でも、5,000万円が6,000万円になったところで、「退職後に暇を楽しめる人間なのか」、「10年後にまた働きたくなるのか」、「65歳の自分が何を好きなのか」まで分かるわけではありません。
未来の自分が分からない不安を、すべて資産額で解決しようとすると、FIREのゴールが遠ざかり続けます。
「お金で減らせる不確実性と、お金を増やしても残る不確実性を分ける」、これも40代FIREでは重要です。
40代独身は、未来の自由度を残しやすい
独身FIREには独身なりのリスクがありますが、一つ大きな強みがあります。
「生活設計を変更しやすい」ことです。住む場所を変える。生活費を変える。旅行を増やす・減らす。働き直す。一人で暮らす。人との接点を増やす。
もちろん本人の事情や親族、住居、健康などによって制約はありますが、家族全体の生活設計を同時に変更する必要があるケースと比べれば、本人の判断で動かせる部分は比較的大きいです。
これは、「未来予測を外しても修正しやすい」ということでもあります。
40代独身のFIREは、「40年間続く完璧な生活を45歳の時点で決めなければならない」と考えるより、「その時々の自分に合わせて生活を組み替える」方が現実的です。
「社会とのつながり」は退職前に必要量を決めなくていい
FIRE後の幸福について語ると、よく社会とのつながりが問題になります。
確かに会社を辞めれば、職場を通じた人間関係は減ります。ただ、人によって必要な接点量はかなり違います。
毎日誰かと話したい人もいれば、一週間ほとんど一人でも快適な人もいます。
会社員時代には「自分は人付き合いが嫌い」と思っていた人が、退職すると「嫌いだったのは職場の人間関係であって、人そのものではなかった」と気づくこともあるかもしれません。
だから退職前に、「週3日は誰かと会わなければ」と固定する必要はありません。
一人で快適ならそのまま暮らす。少し寂しくなったら外出を増やす。
それでも足りなければ趣味や仕事などの接点を作る。
「必要量を先に決めるのではなく、自分の反応を見ながら調整する」、この考え方で十分です。
「予定のない日」が怖いかどうかも、実際には変わる
会社員生活では、一週間のほとんどに予定があります。
月曜日から金曜日まで働き、土日は休む。FIREすると、その構造が消えます。
退職前には、「毎日自由なんて最高だ」と思うかもしれません。
逆に、「毎日予定がなかったら頭がおかしくなるのでは」と心配する人もいます。
どちらも予測です。実際には、最初は何もしない生活を楽しみ、その後少し予定が欲しくなるかもしれない。
逆に最初は予定を詰め込んでいた人が、一年後には何もしない平日を最高だと思っているかもしれません。
「自由時間に対する感覚」も固定ではありません。
FIRE前に作るのは「幸せな未来」ではなく「変更できる未来」
ここまで考えると、退職前のFIRE計画で何を準備すればいいのかも見えてきます。
完璧な趣味リストを作る必要はありません。毎日の時間割を決める必要もありません。
「私はFIRE後こういう人間になる」と宣言する必要もありません。
それより、退職後に数年間暮らせる資産余力がある。生活費を把握している。住む場所を動かせる可能性がある。働きたくなったときの選択肢を完全には消していない。会社以外にも最低限の世界がある。こうした状態を作る。
言い換えると、FIREとは未来を固定することではなく、「未来の選択肢を増やすこと」なのだと思います。
FIRE後の幸せを正確に当てられなくても、FIREは決められる
ここまで読むと、「結局、退職してみないと分からないなら怖すぎる」と思うかもしれません。
でも、これはFIREだけの問題ではありません。
転職先が本当に自分へ合うか、働く前に100%知ることはできません。
結婚も、引っ越しも、住宅購入も、大きな人生の選択には同じ問題があります。
未来が完全には分からなくても、人は現在持っている情報を使って決めます。
大事なのは、「確実性がないことと、判断材料がないことを混同しないこと」です。
現在の会社がどれくらい苦しいか。現在の資産はいくらか。生活費はいくらか。一人時間を普段どう感じているか。会社以外に何があるか。働かなくても生活リズムを作れそうか。
ここには現在の情報があります。それを使って判断しつつ、外れた部分は将来修正する。
FIREに必要なのは未来予知ではありません。
FIRE後の幸せは「完成品」ではなく、生活しながら作っていくもの
「FIRE後は本当に幸せになれるのでしょうか?」、私は、この問いへ一つの数字で答えること自体が少し無理なのだと思います。
会社を辞めた翌日は最高かもしれない。半年後には少し暇かもしれない。
一年後には新しい生活が普通になり、三年後には何か仕事を始めているかもしれない。
十年後には、現在の自分では想像もしなかったことを楽しんでいるかもしれません。
人生が続けば、FIRE後の幸福も動きます。だから退職前にやるべきことは、「この生活なら一生幸せだ」という答えを作ることではありません。
「未来の自分が、自分に合った生活へ調整し続けられる土台を作ること」です。
そして、その土台がお金であり、時間であり、健康であり、選択肢なのだと思います。
まとめ|未来の自分を分かったつもりにならなくていい
FIRE前に、退職後の幸せをどこまで予測できるのか。
未来の感情について、私たちはある程度の予測はできます。嫌な仕事から離れればストレスが減りそうだ、一人時間が好きだから自由時間も楽しめそうだ、といった現在の自分から得られる情報には意味があります。
一方で、未来の感情を完全に当てることはできません。
退職直後の解放感がそのまま何十年も続くとは限りませんし、退職前には重大に思えた不安へ意外とすぐ慣れることもあります。
仕事がなくなることへ注目しすぎて、普通の日常や仕事が持っていた意外な機能を見落とすこともあります。
そして何より、未来の自分そのものが変わります。45歳の自分が想像している65歳の自分は、あくまで45歳の頭の中にいる65歳です。本物の65歳の自分ではありません。
だから、未来の自分へ完璧な人生計画を押し付ける必要はありません。
旅行が好きなら旅行すればいい。飽きたらやめればいい。暇なら少し働けばいい。一人が楽なら一人で過ごせばいい。寂しくなったら人と会えばいい。
FIRE前に必要なのは、未来の自分を完全に理解することではなく、「未来の自分が『やっぱり違った』と言ったときに人生を修正できる」ことです。
そしてもう一つ、「FIRE後の現実を、退職前に夢見た完璧な生活とだけ比較しないこと」です。
想像では90点だったのに現実は70点だったとしても、会社員を続けていた人生が50点だったなら、FIREは十分意味のある選択だったかもしれません。
理想より悪かったことと、選択を間違えたことは同じではありません。
FIREは、幸せな未来を確実に買う仕組みではありません。将来の不幸を完全に消す仕組みでもありません。
ただ、お金のためだけに嫌な生活へ縛られる必要を減らし、その時々の自分に合わせて人生を選び直せる余裕を増やしてくれます。
そう考えると、FIRE前に未来を当てる必要はそれほどないのかもしれません。
FIREは未来予知の試験ではなく、「予想が外れた未来でも、自分で修正できるようにするための準備」です。
そして経済的自立とは、もしかすると、「未来の自分が気を変えても困らない状態を作ること」なのだと思います。
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※本記事でいう「FIREの反実仮想」「幸福の予測」「未来の自分」等は、FIREに関する意思決定を分かりやすく整理するための表現を含みます。本文中の幸福度の点数は、比較方法を説明するための架空の例であり、幸福度を客観的に数値化したものではありません。
※本文で紹介した「感情予測(affective forecasting)」や「フォーカリズム(focalism)」は心理学で研究されている概念です。未来の感情予測には個人差や状況差があり、すべての人が同じように予測を誤ることを意味するものではありません。代表的な研究として、Gilbertらによる1998年の感情予測研究、Wilsonらによる2000年のフォーカリズム研究などがあります。
※本記事はFIRE、早期退職、退職、転職、再就職等を推奨または否定するものではありません。実際の判断は、資産額、収入、支出、税金・社会保険、健康状態、家族構成、住居、雇用環境、再就職可能性等によって大きく異なります。
※退職後に強い孤独感、抑うつ、不眠、意欲低下などが長く続き、日常生活へ支障が出ている場合は、単なる「FIRE後の暇」「生きがい不足」と決めつけず、必要に応じて医療機関や専門家、公的な相談窓口等への相談も検討してください。


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