投資アレルギーの人はFIREできない?|「株は怖い、現金だけも不安」な40代の“取れるリスク”と“取れないリスク” / FIRE計画の羅針盤

ストレスチェックの結果で自分が「投資アレルギー傾向」だと知って驚くメガネの中年男性を描いた、FIREと投資リスクの向き合い方を表現する青基調の実写風アイキャッチ FIRE計画の羅針盤

FIREを目指す人のSNSを見ていると、世の中には投資が大好きな人しかいないような錯覚に陥ることがあります。

新NISAでオルカンやS&P500を積み立て、個別株を分析し、高配当株を買い、相場が下がれば「買い場が来た」と喜ぶ。資産が増えてくれば株式比率を考え、債券やゴールドまで調べ始める。
そういう世界を眺めながら、「いや、自分は会社を辞めたいだけであって、別に投資家になりたいわけじゃないんだけど…」と思っている40代もいるのではないでしょうか。

株価が下がるのは怖いし、含み損を見るのも嫌だ。毎日チャートを確認したいわけでもなければ、決算書を読むことを趣味にしたいわけでもない。
それでも現金だけで老後まで暮らすのは不安で、FIRE後の長い生活を考えると、何らかの資産運用は必要な気もする。
そんな「投資は嫌いなのに、投資しないのも怖い」という状態、「投資アレルギー」の人も多いと思います。

すると一つ、大きな疑問が出てきます。投資が嫌いな人は、FIREできないのでしょうか。
結論からいえば、そんなことはありません。FIREするために株式市場を好きになる必要はありませんし、投資を趣味にする必要もありません。

ただし、投資を避ければすべてのリスクが消えるわけでもありません。
株式には値下がりするリスクがありますが、現金には長期間の物価上昇によって購買力が低下するリスクがあります。
FIRE後の生活が30年、40年と続くなら、「リスクを取るか取らないか」という二択ではなく、「自分はどのリスクを、どの程度までなら引き受けられるのか」を考える必要があります。
今回、探したいのは、投資好きになる方法ではありません。「取れるリスク」と「取れないリスク」の境界線を探していきます。

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  1. FIREは「投資好きだけが参加できるゲーム」ではない
  2. 「現金は安全、株は危険」という二択から離れる
  3. リスク許容度を「3つのリスク」に分解する
  4. 「取れないリスク」は弱さではなく、設計条件である
  5. パーセントではなく「何円減るか」で考える
  6. 「リスク予算」を先に決め、株式比率は後から決める
  7. リスク予算には「使う時期」も入れる
  8. 生活防衛資金は「投資できなかったお金」ではない
  9. 本当に重要なのは「取る必要があるリスク」
  10. 必要利回りから逆算すると「取らなくていいリスク」が見える
  11. 「必要リスク」が自分の許容範囲を超えたら、投資ではなくFIRE計画を変える
  12. 「45歳で絶対FIRE」が投資リスクを大きくすることもある
  13. 投資が嫌いなことは、長期投資では弱点だけではない
  14. 投資アレルギーほど「判断回数」を減らした方がいい
  15. 「安全な商品」を探すより「安全なサイズ」で持つ
  16. FIRE直前に株が急に怖くなるのは、むしろ自然
  17. 「全部売って現金にしたい」と思ったら、株価より計画を見る
  18. FIRE後も投資を続けるなら「増やす」が唯一の仕事ではない
  19. 投資アレルギー向け「リスク予算」の作り方
  20. 投資が嫌いな40代ほど「投資しなくていいところ」まで決めておく
  21. 投資アレルギーは「克服」しなくてもいい
  22. まとめ|FIREのゴールは「大胆な投資家」になることではない
  23. こちらの記事もあわせてどうぞ

FIREは「投資好きだけが参加できるゲーム」ではない

そもそもFIREとは、投資の腕を競うものではありません。
会社からの給与がなくても、自分の資産やその他の収入で生活を維持できる状態を作ることが本来の目的です。
十分な現金があり、その後の年金やその他の収入を合わせれば人生に必要なお金を賄える人なら、理屈のうえでは株式投資をほとんどしないFIREもあり得ます。

極端な話、100歳まで使っても余るほど現金を持っている人に、「FIREするなら株式70%にしましょう」と言っても意味がありません。
問題は、ほとんどの人にはそこまで大量の現金がないことです。
40代や50代で早期リタイアすれば、その後の生活期間はかなり長くなります。
生活費だけでなく、医療、住宅修繕、家電の買い替え、旅行、介護など、将来発生する支出もあります。
その間に物価が変化する可能性もありますから、預金だけで生活を支えるには相応の資産額が必要になります。

つまり、投資をしなければFIREできないのではなく、「投資をしないなら、それを補えるだけの別の余裕が必要になる」という方が正確です。

投資したくなければ、FIREまでの期間を長くすることもできます。
貯蓄額を増やすことも、生活費を下げることも、FIRE後に少しだけ働くこともできます。
FIREは投資一本で成立させるゲームではなく、資産、支出、時間、収入を組み合わせる生活設計です。

「現金は安全、株は危険」という二択から離れる

投資が怖い人ほど、「株は危険だから現金を持っていたい」と考えます。
その感覚自体は何もおかしくありません。銀行預金100万円は、株価暴落が起きた翌日に70万円にはなりません。
一方、株式や株式投資信託には元本割れの可能性があり、市場環境によっては短期間に大きく価格が変動します。
金融庁のNISA特設サイトでも、株式や投資信託では預貯金より高いリターンを期待できる一方、元本割れのおそれがあることが説明されています。

ただ、そこで「現金ならノーリスク」と考えてしまうと、別の問題が見えなくなります。
100万円の預金残高は100万円のままでも、将来100万円で買えるものが今と同じとは限りません。
物価が上昇すれば、名目額が減っていなくても実質的な購買力は低下します。
FIRE後の生活期間が長いほど、この問題は無視しにくくなります。

だから、現金と株式を、「現金 = 安全」、「株式 = 危険」という一本の物差しで比べない方がいいと思っています。
現金は、短期的な価格変動には非常に強い。その代わり、長期的な購買力が変化する可能性があります。株式は短期的な価格変動が大きい一方、企業の利益成長などを通じて長期的な資産成長を期待できる場合があります。どちらにも違う種類の弱点があります。

投資アレルギーの人が考えるべきなのは、「リスクを完全になくす方法」ではなく、「自分はどの種類のリスクなら抱えやすいか」です。

リスク許容度を「3つのリスク」に分解する

投資では「リスク許容度」という言葉をよく使います。
年齢、収入、資産額、投資期間、家族構成などを踏まえ、「どれくらいの値下がりまでなら耐えられるか」を考えるものです。
ただ、いきなり「あなたのリスク許容度は何%ですか?」と聞かれても、普通は分かりません。
そこで40代FIREでは、リスクを3つに分けて考えると分かりやすくなります。

考えるリスク意味自分への質問
取りたいリスク心理的に受け入れられる範囲どれくらい減っても平常心でいられるか
取れるリスク家計・資産から客観的に耐えられる範囲減っても生活やFIRE計画が壊れないか
取る必要があるリスク目標達成のために必要になる範囲今の貯蓄だけでFIRE目標に届くのか

この3つは、同じではありません。例えば45歳で金融資産5,000万円、安定した給与収入があり、FIREまで10年ある人なら、家計上はかなりの価格変動に耐えられるかもしれません。つまり「取れるリスク」は比較的大きい。
しかし、その人が株価10%下落で毎晩証券口座を開き、仕事中まで相場が気になってしまうなら、「取りたいリスク」は小さいでしょう。

逆に、資産500万円しかないのに「5年で5,000万円にしたい」と集中投資をしたがる人なら、取りたいリスクは大きくても、家計上取れるリスクは小さい可能性があります。

さらに重要なのが3つ目の「取る必要があるリスク」です。
十分な貯蓄と時間があり、ほとんど運用益がなくてもFIRE目標へ届く人なら、大きな価格変動を引き受ける必要はありません。
取れるからといって、取らなければならないわけではない」、ここが重要なポイントです。

「取れないリスク」は弱さではなく、設計条件である

投資が怖いと、「自分はメンタルが弱いから投資に向いていない」と考えてしまいがちです。
でも、株価下落が怖いという感覚そのものは欠点ではありません。
問題になるのは、自分が怖がることを分かっているのに、「他人の資産配分を真似して大きすぎるリスクを取る」ことです。

例えば3,000万円を株式へ投資している人がいるとします。
その人が30%の下落を経験すれば、単純計算で評価額は900万円減ります。
もちろん30%下落を予測しているわけではありませんし、その後回復するか、さらに下落するかも事前には分かりません。

ただ、「900万円減った画面を見ながら、自分は売らずにいられるだろうか」と考えることには意味があります。
頭では「長期投資だから売らない」と思っていても、実際に大きな含み損を見れば行動が変わることがあります。
暴落時に怖くなって売却してしまうなら、最初に作った長期投資の計画そのものが崩れます。

私はここを、「家計耐性」と「睡眠耐性」の2つで考えてもいいと思っています。
家計耐性は、資産が減っても生活が続くか。睡眠耐性は、その損失を見ながら普通に眠れるか。
どちらか弱い方が、自分の実質的なリスク上限です。

パーセントではなく「何円減るか」で考える

株式70%」という言葉には、不思議なくらい現実感がありません。
しかし「900万円減る可能性がある」と言われると、急に自分の問題になります。

そこで投資アレルギーの人ほど、株式比率や現金比率を考える前に、「円額でストレステスト」をしてみる価値があります。
次の表は、将来の値下がりを予測したものではありません。自分がどこまでの損失なら耐えられそうか確認するための、単純な仮定です。

値動きのある資産額20%下落なら30%下落なら40%下落なら
500万円▲100万円▲150万円▲200万円
1,000万円▲200万円▲300万円▲400万円
2,000万円▲400万円▲600万円▲800万円
3,000万円▲600万円▲900万円▲1,200万円
5,000万円▲1,000万円▲1,500万円▲2,000万円

40%下落なんて想像したくない」という人もいるでしょう。その反応こそ大事です。
3,000万円が1,800万円になったとき、それでも生活費は払えるのか。FIREを延期せずに済むのか。そして何より、怖くなって全部売却してしまわないか。

もし「絶対に耐えられない」と感じるなら、投資家として失格なのではありません。
その金額を値動きさせる設計が、自分には大きすぎる」ということです。

「リスク予算」を先に決め、株式比率は後から決める

家計には予算があります。家賃、食費、旅行、趣味。それぞれに「ここまで」という金額があります。
それなら投資にも、「ここまでの損失なら生活を壊さず耐えられる」という予算を作ってもいいはずです。

これを簡略化して「リスク予算」と呼ぶことにします。
金融実務にはリスクバジェットという考え方がありますが、ここではもっと単純に「どれだけのお金なら大きく値動きしても耐えられるか」を考えるために使います。

例えば金融資産4,000万円を持っているとします。
そのうち500万円は退職直後の生活費として絶対に減らしたくない。
さらに500万円は数年以内の住宅修繕や大きな支出へ使う予定なので、ここも価格変動させたくない。

残り3,000万円についても、全部を株式へ入れる必要はありません。
300万円くらいの一時的な評価損なら平常心でいられる」と考えるなら、仮に30%下落をストレステストとして置いた場合、値動きの大きい資産は1,000万円程度までにするという逆算もできます。

もちろん、これは正解を出す計算式ではありません。
でも、「株式は何%が正解?」から考えるより、「自分はいくらまでなら値動きさせていい?」から考える方が、投資アレルギーの人には圧倒的に現実的です。

リスク予算には「使う時期」も入れる

同じ100万円でも、来年使う100万円と20年後に使う100万円では役割が違います。
来年必要な税金や生活費を株式へ入れれば、使う直前に暴落したとき売却せざるを得ない可能性があります。
一方、20年以上使う予定のない資金なら、短期的な価格変動を受け入れながら長期運用する選択肢が出てきます。
だからリスク予算を考えるときには、金額だけでなく、「いつ使うお金なのか」を見る必要があります。

FIRE前なら、まだ給与があります。株式市場が大きく下落しても、当面の生活費は給与から払えるため、値下がりした資産を急いで売る必要がない場合があります。
ところがFIRE後は、給与という定期収入がなくなります。生活費を資産から取り崩すなら、暴落中に株式を売らなくて済むよう、現金などの値動きの小さい資産を確保する意味が大きくなります。

つまり同じ人でも、FIREまで10年ある時点とFIRE直前では「取れるリスク」が変わります。
年齢そのものより、「そのお金を使う日までの距離」の方が重要です。

生活防衛資金は「投資できなかったお金」ではない

投資好きの世界に長くいると、現金を持っているだけで少し罪悪感を覚えることがあります。
この500万円もオルカンへ入れていたら…」、「現金比率30%は高すぎるのでは…」、「機会損失では…」、確かに、上昇相場だけを後から見れば、投資していた方が増えた期間はあります。

ただ、FIRE資産における現金には明確な仕事があります。
退職直後の生活費を支える、税金や社会保険料を払う、家電や住宅設備の突然の故障へ対応する、そして暴落しても株式を売らずに済む時間を買う。
つまり現金は、「投資できなかった余り」ではなく、「値動きさせない役割を持たせた資産」です。

投資アレルギーの人なら、十分な現金が手元にあるだけで株式部分を慌てず保有できることもあります。
現金の期待リターンだけを比較すれば見えない、心理的な価値です。

本当に重要なのは「取る必要があるリスク」

ここまで「取りたいリスク」と「取れるリスク」を考えてきました。
でもFIREでは、もう一つの問いが一番重要かもしれません。

そもそも、そんなにリスクを取る必要があるのでしょうか

例えば現在4,000万円あり、今後10年間会社員として毎年150万円ずつ貯められる人を考えます。
運用益をまったく考えない単純計算でも、10年間で1,500万円増えるので、資産は5,500万円になります。
もし本人のFIRE目標額が5,500万円なら、この単純モデルでは高い投資リターンがなければ目標に届かないわけではありません。

もちろん現実には、物価、生活費、税金、給与、積立額などが変動します。
だから「現金だけでいい」という結論にはなりません。
それでも、「目標へ届くために何%の運用利回りが本当に必要なのか」を考える価値はあります。

投資好きな人は、しばしば「取れるリスク」を最大まで使おうとします。
しかしFIREでは、取れるリスクを全部使う必要はありません。

必要利回りから逆算すると「取らなくていいリスク」が見える

説明用に、かなり単純なモデルを作ってみます。
毎年末に一定額を積み立て、一定の年率で運用できたと仮定しています。
税金、手数料、物価上昇は考慮しておらず、実際の投資収益が毎年一定になることもありません。
あくまで「目標達成のためにどれくらいのリターンを必要としている計画なのか」を見るための参考です。

現在資産年間積立額期間目標資産単純モデル上の必要年率
4,000万円150万円10年5,500万円約0%
3,000万円120万円10年5,500万円約3.2%
3,000万円120万円10年6,500万円約5.2%
2,500万円120万円10年6,000万円約5.9%

この表の意味は、「年5.9%で運用すればFIREできます」ということではありません。
将来の運用利回りは保証できませんし、高いリターンを求めるほど一般に価格変動などのリスクも大きくなります。

むしろ見たいのは逆です。一番上の人は、少なくともこの単純計算では投資リターンをほとんど必要としていません。
それなのに「FIREするなら株式80%が正解」と思い込み、大きな値動きを引き受ける必要があるのか。
必要利回りが低い人には、取らなくてもいいリスクがあります。

「必要リスク」が自分の許容範囲を超えたら、投資ではなくFIRE計画を変える

仮に自分のFIRE計画を成立させるために、かなり高い運用リターンが必要だったとします。
でも自分は大きな価格変動には耐えられない。
すると、「投資アレルギーを克服してもっとリスクを取らなければ」と思いがちです。

私は、その前にFIRE計画の別の数字を動かした方がいいと思います。
例えばFIRE予定を2年延ばせば、給与からさらに貯蓄できます。年間生活費を少し下げれば必要資産額も変わります。FIRE後に年50万円だけ働く選択肢を持てば、資産から取り崩す金額も減ります。

つまり、「必要リスク > 取れるリスク」になったときに、「もっと危険な投資をする」だけが答えではありません。
時間、貯蓄額、生活費、FIRE後の収入を動かして、必要リスクそのものを下げる」、これも立派なFIRE戦略です。

FIREは投資成績だけで成立させるものではありません。
むしろ投資が怖い人ほど、この考え方を持っておくとかなり楽になります。

「45歳で絶対FIRE」が投資リスクを大きくすることもある

FIREを目指すと、いつの間にか退職年齢が絶対目標になります。
45歳でFIREする」と決めること自体は悪くありません。目標がある方が貯蓄や資産形成を続けやすいです。
ただし現在の資産額が目標へ届いていないのに、退職日だけを絶対に動かさないと、もっと入金する。もっと株式を持つ。もっと高いリターンを狙う。こうした方向へ追い込まれやすくなります。

すると、「会社を早く辞めるために、会社を辞められなくなるほどの投資リスクを取る」という少し笑えない状態が起きます。
例えばFIRE予定を1年延ばすだけで、給与から200万円貯蓄できる人なら、その200万円を株式市場で無理に稼ぐ必要はありません。
時間も、FIRE計画の資産です。最短で辞めることと、最も安全に辞めることは同じではありません。

投資が嫌いなことは、長期投資では弱点だけではない

投資が嫌いな人は、自分を「投資に向いていない」と思いがちです。
でも投資が大好きになると、別の問題が発生します。
毎日株価を確認したくなる。SNSで話題の銘柄が気になる。テーマ株を買ってみたくなる。相場観を試したくなり、売買回数が増える。うまくいけばもっと大きく賭けたくなる。

投資が趣味なら、それ自体を否定する必要はありません。
ただ、FIRE資産の本丸までそのゲームへ参加させる必要はありません。
金融庁も資産形成の基本として長期・積立・分散投資を説明しており、分散によって値動きをある程度抑えながら安定的な運用を目指す考え方を紹介しています。

それなら、「投資なんてできれば考えたくない」という人は、むしろその性格を利用できます。
広く分散した資産へ、自分が耐えられる金額だけ積み立てる。自動積立を設定し、頻繁に触らない。生活防衛資金は別口座へ置く。これなら投資を趣味にしなくても資産形成できます。
投資への無関心」は、設計次第では「長期投資の才能」になります。

投資アレルギーほど「判断回数」を減らした方がいい

投資が怖い人に、「まずは毎日経済ニュースを読んで勉強しましょう」と言うのは、必ずしも良い方法ではありません。
情報が増えれば増えるほど、「今は高値ではないか」、「円高になったらどうしよう」、「米国株はもう上がらないのでは」、「今度は金を買った方がいいのでは」と、新しい判断が増えていきます。

投資で怖いのは、価格変動だけではありません。「判断するたびに方針を変えられてしまうこともリスク」です。

だから投資アレルギーなら、最初から判断回数を減らす。
毎月の積立日を決める。分散する。短期間で使うお金は投資しない。証券口座を見る頻度を決める。大きなライフイベントがない限り、資産配分は年に一度程度確認する。
こうした仕組みを作っておけば、市場が動くたびに人生計画を決め直す必要がありません。


「安全な商品」を探すより「安全なサイズ」で持つ

株が怖い人ほど、「絶対に下がらない投資信託はないか」、「安全な株はないか」と商品選びへ答えを求めがちです。
しかし値動きのある金融商品である以上、価格下落の可能性を完全にはなくせません。

それなら商品だけで安全性を作ろうとするより、「保有金額を調整する」という方法があります。
100万円投資して20%下落すれば20万円ですが、1,000万円なら200万円です。同じ投資商品でも、自分が受ける心理的な衝撃はまったく違います。

だから投資初心者や投資アレルギーの人が最初から「理想の株式比率」を完成させる必要はありません。
少額から始めて、「5万円下がったとき自分はどう感じたか」、「100万円ならどうか」と自分の反応を知る。

投資経験というのは、銘柄を当てる能力を鍛えるだけではありません。
自分がどれくらいの値動きに耐えられる人間なのかを知る実験」でもあります。

FIRE直前に株が急に怖くなるのは、むしろ自然

20代や30代で資産500万円を運用しているときと、FIRE直前に5,000万円を持っているときでは、同じ20%下落でも意味が違います。
500万円の20%なら100万円ですが、5,000万円なら1,000万円です。
さらにFIRE直前では、「これで退職できなくなるのでは」という恐怖が加わります。

だから資産形成が進むほど、株価下落を怖く感じるようになる人がいても不思議ではありません。
これは投資家として弱くなったのではありません。「お金を実際に使う日が近づいた」ということです。

資産形成初期なら、大きく増やすことに価値があります。
しかしFIRE直前では、「ここまで作った資産を退職日まで運ぶこと」の価値も大きくなります。
目的が変われば、取るべきリスクが変わるのは自然です。

「全部売って現金にしたい」と思ったら、株価より計画を見る

暴落が起きると、「もう全部売って現金に戻したい」と思うことがあります。
その感情を否定する必要はありません。ただ、売る前に見るべきなのは株価チャートではなく、「自分のFIRE計画」です。

今後何年分の生活費を現金で持っているか。値下がりしている資産をいつ使う予定なのか。まだ給与収入があるのか。FIREまで何年残っているのか。目標資産額そのものに変化があったのか。
これらが何も変わっていないなら、株価が下がったという理由だけで人生計画まで変更する必要はないかもしれません。

逆に、20%下落しただけで生活費が危なくなるなら、「暴落が問題なのではなく、最初からリスク予算が大きすぎた」可能性があります。
投資の失敗は、「暴落を予想できなかったこと」とは限りません。
暴落したとき自分が耐えられない設計にしていたこと」の方が、FIREでは重大です。

FIRE後も投資を続けるなら「増やす」が唯一の仕事ではない

投資が嫌いな人ほど、「FIREした後まで一生株価に付き合うのか…」と思うかもしれません。
確かに40代や50代でFIREすれば、その後の生活期間は長いため、物価や資産寿命を考えて一定の資産運用を続ける選択肢はあります。

でも、FIRE後の投資は会社員時代と同じではありません。
会社員時代の資産形成では、「増やす」が大きな目的になります。
給与から毎月入金し、金融資産を大きくしていきます。
FIRE後は、「増やす」だけでなく「守る」と「使う」が加わります。
生活費を取り崩しながら、残りの資産には長期的に購買力を維持する仕事をさせる。

つまり、「FIRE後まで資産運用を続けること」と「一生“投資家モード”で生きること」は別です。
証券口座を持っているからといって、毎日株価を見なくてもいい。
投資は生活の主役ではなく、生活を支える裏方で構いません。

投資アレルギー向け「リスク予算」の作り方

ここまでの話を実際のFIRE計画へ落とすなら、確認することはそれほど多くありません。

確認すること見るポイント意味
① 値動きさせたくないお金はいくらか生活防衛資金・近い将来の支出最初から投資対象から外す
② 残った資産が30%下がったら何円減るか円額でストレステスト心理的に耐えられるか確認する
③ 暴落中でも生活できるか給与・現金・その他収入家計上の「取れるリスク」を確認
④ FIRE目標に必要な利回りはいくらか現在資産・積立額・期間・目標額「取る必要があるリスク」を確認
⑤ 必要リスクが大きすぎないか期間・支出・積立・FIRE後収入投資以外の変数で調整できないか考える
⑥ その金額が減っても眠れるか自分の実際の心理継続できるサイズか確認する

大事なのは、①から順番に見ることです。いきなり、「40代なら株式70%」と決める必要はありません。
まず、絶対に値動きさせたくないお金を除く。そのうえで、自分が耐えられる下落額を考える。
そして最後に、FIRE目標のために本当に必要なリターンと比べる。
もし必要リスクが自分の許容範囲を超えるなら、投資額を増やす前にFIRE計画を調整する。
この順番なら、他人のリスク許容度に自分を合わせなくて済みます。

投資が嫌いな40代ほど「投資しなくていいところ」まで決めておく

投資アレルギーの人にとって、意外と大事なのがここです。
どこへ投資するか」だけでなく、「どこから先は投資しないか」を決める。

例えば2年以内に使うお金は投資しない。最低2年分の生活費は現金で持つ。資産全体のうち一定額以上は値動きさせない。個別株はFIRE資産の本丸にしない。
具体的な数字は人によって違いますが、こうした境界線があると、相場が上昇しているときにも冷静でいられます。

投資リスクというと暴落だけを考えますが、実は上昇相場にも別のリスクがあります。
みんなが儲かっているように見えて、「自分ももっと投資しなければ」と予定以上の資金を市場へ入れてしまうことです。
リスク予算は、暴落時だけでなく上昇時にも自分を守ります。

投資アレルギーは「克服」しなくてもいい

世の中には、「投資を怖がっていては資産形成できない」という空気があります。
でも私は、投資への恐怖を完全に克服する必要はないと思っています。
むしろ、株式は下がることがある。投資信託も元本保証ではない。将来のリターンは分からない。そう理解したうえで、「それでも生活に影響しない範囲だけ使う」、こちらの方が健全です。

怖さをなくすのではなく、怖くても続けられる大きさにする。
投資アレルギーの人に必要なのは、「暴落を愛せる精神力」ではなく、「暴落を愛せなくても成立する投資設計」です。

まとめ|FIREのゴールは「大胆な投資家」になることではない

投資が嫌い。株価が下がるのが怖い。でも現金だけで老後まで暮らすのも不安。それでもFIREしたい。この四つは、何も矛盾していません。
FIREを目指すために「暴落歓迎」と言えるようになる必要はありませんし、毎晩米国株をチェックする必要もありません。

必要なのは、自分のリスクを3つに分けることです。

  1. 取りたいリスク
    →自分はどれくらいの値下がりなら心理的に耐えられるのか。
  2. 取れるリスク
    →家計や資産から見て、どこまで値下がりしても生活を壊さずに済むのか。
  3. 取る必要があるリスク
    →自分のFIRE計画を成立させるために、本当にどれくらいのリターンが必要なのか。

この3つを比べてみる。取れるからといって、全部取る必要はありません。
逆に、必要なリスクが自分の許容範囲を超えるなら、投資リスクを無理に引き上げるのではなく、FIREまでの期間、貯蓄額、生活費、退職後の小さな収入などを調整する方法があります。

そう考えると、FIREは投資の才能を競う大会ではなくなります。生活設計になります。
投資が嫌いなままFIREを目指していい。株価を毎日見なくてもいい。個別株の研究を趣味にしなくてもいい。投資仲間と暴落を喜ばなくてもいい。
むしろ資産形成が進めば、「もっと大きなリスクを取らなければ自由になれない」という状態から、「もう無理なリスクを取らなくても自由を維持できる」という状態へ移っていく。私は、それも経済的自立の一つだと思います。
FIREのゴールは、投資で大胆になれることではなく、生活のために、無理なリスクを取らなくて済むことです。

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・FIREに必要な資産を作った後まで、「もっと増やす」を続ける必要があるのかを考えています。

※本記事でいう「投資アレルギー」は、株式投資や価格変動、損失等への心理的抵抗感を分かりやすく表すための便宜的な表現であり、医学上のアレルギーを意味するものではありません。
※本文中の「取りたいリスク」「取れるリスク」「取る必要があるリスク」「家計耐性」「睡眠耐性」「リスク予算」などは、個人のFIRE計画を分かりやすく整理するための表現です。「リスク予算」は金融分野にも関連する考え方がありますが、本記事では個人家計向けに簡略化して使用しています。
※本文中の価格下落率や必要利回り等の数値は、考え方を説明するための仮定・試算です。必要利回りの表は、毎年末に一定額を積み立て、運用利回りが一定であると仮定した単純モデルであり、税金、手数料、物価変動等を考慮していません。将来の株価、運用利回り、資産額等を予測・保証するものではありません。
※株式、投資信託、債券等の金融商品には、価格変動、元本割れ、信用、為替等のリスクがあります。また、預貯金についても物価変動により実質的な購買力が変化する場合があります。各商品のリスク、手数料、税制等については最新の公式情報をご確認ください。
※本記事は特定の金融商品、株式比率、現金比率、証券会社、投資手法、FIRE・退職時期等を推奨するものではありません。資産運用や退職の判断にあたっては、ご自身の収入、支出、保有資産、負債、家族構成、投資期間、生活設計、リスク許容度等を踏まえてご判断ください。

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