韓国で「休んでいる若者」が社会問題になっているという話を目にしました。
ここでいう「休んでいる」は、有給休暇を取って温泉にでも行っているという意味ではありません。
働いておらず、積極的な求職活動などもしていない若者を指す統計上の区分で、韓国ではこの状態が長期化する人もいることが問題視されています。
韓国労働研究院の分析では、最終学歴を終えた後に「休んでいる」状態となった若者について、休んでいる期間が6か月未満だった人はその後に就業していた割合が56.2%だったのに対し、2年以上になると26.8%まで下がっていました。
もちろん、この数字だけを見て「長く休んだから就職できなくなった」と決めつけることはできません。
就職しにくい事情が先にあり、その結果として休んでいる期間が長くなった可能性もあります。
まして韓国の若者についての調査を、そのまま日本の40代会社員へ当てはめることもできません。
それでもFIREを目指す独身中年おじさんとして、この話には少し引っかかるものがありました。
なぜなら、FIREも外から見れば「働いていない人」になるからです。
一方では、働かず求職活動もしない状態が長期化することが社会問題として語られている。
それなのにもう一方では、何千万円もの資産を作って「働かなくてもいい状態」を目指し、それを人生の目標にしている人たちがいる。
同じように仕事をしていないのに、片方は問題になり、片方は自由と呼ばれる。この違いはどこにあるのでしょうか。
単純に「お金があるか、ないか」だけで片付けると、少し足りないように思います。
私はFIREの本当の価値は、働かなくていいことそのものより、「働く・働かない・少しだけ働く・再び働くという複数の選択肢を自分の手元に残せること」にあるのではないかと思っています。
つまりFIREとは、会社員人生から永久に脱出するための片道切符ではなく、人生の途中で進路を選び直せるようにするための資産づくりです。
今回は韓国の「休んでいる若者」という問題を入口に、長期無職やキャリアブランク、FIRE後の再就職という不安も含めて、40代独身が「働かない自由」を人生の袋小路にしないための出口戦略を考えてみます。
- 韓国の「休んでいる若者」が気になった理由
- FIREと長期無職は「働いていない」という一点だけなら同じ
- FIREの本当の価値は「仕事を辞めること」ではない
- 「働かない自由」だけを持つと、FIREが逆に不自由になる
- 40代FIREで大事なのは「戻れる自由」を残すこと
- 40代の長期無職・キャリアブランクはどう考えるか
- 「仕事へ戻る」だけがFIREの出口ではない
- FIRE資産は「仕事を辞めるお金」より「選択肢を残すお金」
- FIRE後の「何もしていない期間」を怖がりすぎなくてもいい
- FIRE後の暇とは似ているようで、今回の問題は少し違う
- 「人生の詰み」は無職になった瞬間には起きない
- 40代独身がFIRE前に残しておきたい「人生のオプション残高」
- 40代独身なら「少し働けば足りる状態」を作るだけでも強い
- FIRE前に決めておきたいのは「戻る条件」であって再就職先ではない
- 「働かないこと」をアイデンティティにしない
- 韓国の「休んでいる若者」から見えるFIREとの決定的な違い
- FIREは「人生を降りること」ではなく、人生の主導権を取り戻すこと
- 40代独身にとって「戻れるFIRE」はかなり現実的な戦略
- まとめ|FIREで手に入れたいのは「休み続ける権利」だけではない
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韓国の「休んでいる若者」が気になった理由
韓国で使われている「休んでいる若者」という言葉は、日本語で聞くとかなり柔らかく感じます。「ちょっと休憩しているだけ」という印象すらあります。
しかし実際には、就職しておらず、求職活動にも積極的に参加していない若者を含む状態です。背景には就職難や希望する仕事とのミスマッチなど、さまざまな事情があると考えられるため、「最近の若者は働きたがらない」と精神論だけで処理する話ではありません。
今回の元になった調査では、休んでいた期間によって、その後に就業していた割合にかなり差が見られました。
| 休んでいた期間 | その後に就業していた割合 |
|---|---|
| 6か月未満 | 56.2% |
| 6~11か月 | 42.4% |
| 1年以上2年未満 | 35.7% |
| 2年以上 | 26.8% |
この数字を見ると、「働いていない期間が長くなること」は少なくとも考えておくべきテーマだとは感じます。
ただし先ほど触れたとおり、休んだ期間の長さだけが就業率低下の原因だと断定するものではありません。
私が興味を持ったのは韓国の雇用政策そのものではなく、もっと単純なところです。
「人は仕事から長く離れた後、簡単に元の場所へ戻れるものなのだろうか」、この問いは、若者だけの問題ではありません。
40代で会社を辞めてFIREする人にも、そのまま返ってきます。
45歳でFIREして、50歳になったときに「やっぱり少し働きたい」と考えるかもしれません。
資産が思ったほど増えず、少額の労働収入が欲しくなるかもしれません。
あるいはお金にはまったく困っていないのに、暇を持て余したり、人との接点が欲しくなったりして仕事を探す可能性だってあります。
FIREする瞬間には「一生会社なんか戻らない」と思っていたとしても、10年後の自分まで同じ考えだとは限りません。
そこを考えずに「会社を辞めれば自由だ」で終わってしまうと、FIREも意外に一方通行になります。
FIREと長期無職は「働いていない」という一点だけなら同じ
FIREした人と、意図せず長期無職になっている人を同一視することはできません。
FIREは基本的に、生活を支えられる資産を準備したうえで、自分の意思で会社員生活から離れるものです。
一方、長期無職には就職したくてもできない人、健康や家庭の事情で働けない人、求職に疲れてしまった人など、さまざまな事情があります。
ただし外から見れば、どちらも「仕事をしていない人」です。
その外形だけが似ているからこそ、違いを考えてみる意味があります。
| 視点 | FIRE | 意図しない長期無職 |
|---|---|---|
| 働かない理由 | 資産形成後に自分で選ぶ | 本人の希望だけでは決まらない場合がある |
| 生活の基盤 | 金融資産・年金・その他収入などを準備する | 収入や資産に不安がある場合もある |
| 働かない期間 | 本人が延長・短縮を選びやすい | 本人の意思だけでは変えにくい場合がある |
| 仕事を選ぶ余裕 | 条件が合わなければ断る余地がある | 生活のため条件を妥協する必要が出る場合もある |
| 再び働く選択 | 必要なら選択肢の一つにできる | 生活上の必要性が高いこともある |
こうして見ると、FIREの優位性は単純な「無職でいられる期間」ではありません。
「自分で決められる範囲が広いこと」です。
会社員時代なら、生活費を稼ぐために働かなければならない人が大半でしょう。
仕事内容が嫌でも、上司が嫌でも、通勤が嫌でも、給与が途絶えれば困る以上、簡単には辞められません。
FIRE資産ができると、この強制力が弱くなります。
働かなくてもいい。働きたければ働いてもいい。条件の悪い仕事なら断ってもいい。生活費の一部だけ稼ぐ働き方でもいい。
「無職」という結果ではなく、「選択できる状態そのものがFIRE」なのだと思います。
FIREの本当の価値は「仕事を辞めること」ではない
FIREという言葉は「Financial Independence, Retire Early」の略ですが、どうしても後半の「Retire Early」、つまり「早期リタイア」ばかりが注目されます。
会社を辞める。満員電車から解放される。朝礼も会議も人事評価もなくなる。理不尽な上司からの連絡も来なくなる。長く会社員を続けていれば、確かに魅力的です。
しかし、本当に重要なのは前半の「Financial Independence」です。
経済的自立とは、必ずしも仕事をしないという意味ではありません。
生活のために嫌でも働かなければならない状態から、少し距離を取れることです。
たとえば、年間300万円で暮らす人が、年間300万円をすべて給与で稼がなければ生活できない場合、仕事を失うことは大きな問題になります。
一方、資産から年間200万円を賄える人なら、必要な労働収入は残り100万円です。さらに十分な資産があれば、その100万円すら必要ありません。
この違いによって、仕事選びはまったく変わります。フルタイム正社員でなくてもいい。年収600万円でなくてもいい。管理職でなくてもいい。週3日でもいいし、短時間の仕事でもいい。嫌になったら一度休んでもいい。
私は、FIRE資産とは「働かない時間を買うお金」というより、「嫌な条件を受け入れなくても済む交渉力を買うお金」なのではないかと思っています。
これならFIRE後に働いたとしても、FIRE失敗にはなりません。
むしろ、働かなければならない状態から、働くかどうかを選べる状態になったのなら、それこそ経済的自立の成果でしょう。
▶ 正社員を続けながら「辞めないFIRE」は可能?|ブラック企業・ホワイト企業で変わる“辞めない戦略” / FIRE計画の羅針盤
FIRE資産ができたからといって、すぐに会社を辞める必要があるのか。経済的自立を会社員生活の改善に使う「辞めないFIRE」という選択肢はこちらで整理しています。
「働かない自由」だけを持つと、FIREが逆に不自由になる
FIREを目指していると、「早く仕事を辞めたい」という気持ちが強くなりがちです。
特に仕事が嫌になっていると、FIRE達成がゴールテープのように見えてきます。
資産が目標額へ到達したら会社を辞め、それ以降は一生働かない。その状態こそ完全勝利だ、と考えたくなります。
ところが、ここに少し罠があります。「働かなければならない」というルールから逃げるためにFIREしたのに、今度は自分で「FIREした人間は働いてはいけない」というルールを作ってしまうからです。
会社員時代には「月曜日から金曜日まで働かなければならない」。FIRE後には「死ぬまで働いてはいけない」。これでは檻のデザインが変わっただけです。
もちろん、本当に一生働きたくない人はそれで構いません。資産が十分あり、働かない生活が自分に合っているなら、無理に仕事へ戻る必要はありません。
問題は、途中で気持ちが変わったときです。50歳になって少し働きたくなるかもしれません。相場環境が変わって年間100万円だけ収入が欲しくなるかもしれません。人と話す機会が欲しくて週2日だけ働きたくなるかもしれません。
そのときに「働いたらFIRE失敗」と考える必要はないです。
FIREは資格試験ではありません。一度合格したら規則を守らないと資格を剥奪されるような制度でもありません。生活に合わせて働き方を変えればいいだけです。
40代FIREで大事なのは「戻れる自由」を残すこと
40代独身でFIREするなら、「辞められる自由」と同じくらい「戻れる自由」を意識しておいた方がいいと思います。
これは、FIRE後も必死にキャリアアップを続けようという話ではありません。
資格を取りまくり、毎日業界ニュースを読み、いつでも前職と同条件で復帰できるように準備しろという話でもありません。
そんな生活では、せっかくFIREしても心だけ会社員のままです。
もう少し緩くていいです。大事なのは、すべての橋を自分で焼き払わないことです。
元同僚や知人とのつながりを少し残しておく。使っていた資格で維持したいものがあれば更新する。パソコンや新しいサービスから完全に離れない。自分が会社員時代に何をしてきたのか、職歴や経験を簡単に記録しておく。これだけでも違います。
退職直後は「会社関係のものなど全部捨ててやる」と思うかもしれませんが、10年後の自分にまで恨みを相続させる必要はありません。
FIREは会社を辞める自由を得ることです。会社員として生きてきた過去まで消す必要はありません。
40代の長期無職・キャリアブランクはどう考えるか
「FIREした後、再就職したくなっても長期無職だったら不利なのではないか」という不安は当然あります。
特に40代で会社を辞める場合、20代のキャリアブランクとは事情が違います。
仮に45歳でFIREして5年間働かなければ、再就職を考えた時点で50歳です。さらに10年間なら55歳になります。同じ会社、同じ役職、同じ年収、同じ仕事内容へ戻ろうとすれば、簡単ではないケースもあるでしょう。
だからといって「40代でFIREしたら二度と働けない」と考えるのも極端です。
ここには、普通の転職とFIRE後の再就職で大きな違いがあります。
「FIREした人は、以前と同じだけ稼ぐ必要がない可能性が高い」からです。
たとえば会社員時代の年収が700万円だった人でも、FIRE後に必要な労働収入が年間100万円なら、700万円の仕事を探す必要はありません。この違いはかなり大きいです。
| 再就職で求めるもの | 一般的な転職 | FIRE後の再就職 |
|---|---|---|
| 年収 | 前職並み・それ以上を求めることも多い | 必要額だけ稼げればよい場合がある |
| 雇用形態 | 正社員を重視しやすい | 短時間・週数日なども選べる |
| 役職 | キャリア維持を意識しやすい | 役職を求めない選択もできる |
| 勤務地 | 条件との兼ね合いで妥協することもある | 資産があれば断る余地が広い |
| 働く目的 | 主に生活費・キャリア形成 | 生活費補助、社会参加、暇対策など多様 |
FIRE後に再就職するときまで、会社員時代と同じ物差しを持ち続ける必要はありません。
「年収を落としたら負け」、「正社員でなければ意味がない」、「以前より格下の仕事はしたくない」という考え方を残してしまうと、確かに選択肢は狭くなります。
しかし資産があるなら、そこから自由になれます。
これは長期無職のリスクをゼロにするという意味ではありません。
むしろ、FIRE資産によって「再就職のハードルそのものを低く設定できる」ことが重要なのです。
「仕事へ戻る」だけがFIREの出口ではない
もう一つ、FIRE後の出口を考えるときに注意したいのは、「完全FIREか正社員復帰か」という二択にしないことです。
FIRE界隈では何かと0か100かになりがちです。
年間の労働収入が0円ならFIRE。1円でも働いたらFIREではない。
そんな厳密な分類に、生活上の意味はほとんどありません。
実際には完全FIREとフルタイム会社員の間に、かなり広い余白があります。
| 状態 | 働き方のイメージ | 主な目的 |
|---|---|---|
| 完全FIRE | 労働収入を前提にしない | 自由時間を最大化する |
| 軽い仕事をする | 単発・短時間・週1~2日など | 社会との接点、暇対策、小遣い |
| サイドFIRE | 生活費の一部を労働収入で補う | 資産取り崩しを抑える |
| 仕事量を増やす | 週3~4日など | 物価高や資産減少への対応 |
| 再就職 | フルタイム勤務も含む | 生活方針そのものを変える |
こう考えれば、FIRE後に想定外のことが起きても「終わり」ではありません。
株価が下がったら少し働く。物価が上がったら年間50万円だけ稼ぐ。暇になったら週2日働く。仕事が楽しくなったら勤務日数を増やす。逆に仕事が嫌になればまた休む。
FIRE資産が残っていれば、この往復がしやすくなります。
「FIREの出口は非常口ではなく、出入り口でいい」、私はこの考え方の方が、40代からの長い人生には合っていると思います。
▶ FIRE中に暴落が来たらどうなる?|40代独身のリアルと生存戦略 / FIRE計画の羅針盤
FIRE後に株価暴落が起きた場合の資産側の対処はこちらで整理しています。今回の記事は労働という選択肢を扱っているので、両方を合わせるとFIREの逃げ道を資産面・働き方の両面から考えられます。
FIRE資産は「仕事を辞めるお金」より「選択肢を残すお金」
FIREに必要な資産額を計算するとき、多くの場合は年間生活費と取り崩し率を使います。
年間300万円必要なら、何千万円必要なのか。4%ルールならどうか。現金はいくら残すか。
こうした計算はもちろん重要です。ただし、資産額ばかり見ていると、FIRE資産のもう一つの価値を忘れます。
それが、「時間を買えること」です。
仕事が必要になったとしても、来月の家賃が払えないから今日中に仕事を決めなければならない人と、数年間は働かなくても生活できる人では、同じ求職活動でも意味が違います。
資産があれば、条件の合う仕事が出るまで待てます。嫌な求人を断れます。仕事を始めてみて合わなければ辞めることもできます。
つまりFIRE資産は、無職でいられる年数を伸ばすだけではありません。
「人生の決断を急がなくて済む時間」を買っています。
これは金額に換算しにくいですが、40代以降ではかなり大きな価値です。
会社員時代は「今辞めたら次がないかもしれない」という不安で動けなかった人でも、資産があれば「別に半年探せばいい」と考えられます。
この余裕があるから、FIRE後に仕事へ戻るとしても、会社員時代とは違う働き方ができます。
▶ 会社に依存しない資産形成を始めるなら、楽天証券で口座開設を検討するFIRE後の「何もしていない期間」を怖がりすぎなくてもいい
長期無職やキャリアブランクという言葉を聞くと、会社員として長く働いてきた人ほど怖く感じるかもしれません。
履歴書に空白ができる。面接で何をしていたのか聞かれる。社会から取り残される。もう普通の会社には戻れない。こうした不安は理解できます。
ただ、FIREした後の時間まで、会社員時代と同じ物差しで評価する必要があるのでしょうか。
会社へ所属していない期間は、「人生の空白期間」ではありません。
旅行してもいい。運動してもいい。本を読んでもいい。親との時間を増やしてもいい。趣味を始めてもいい。何もしない時期があってもいい。
FIREするために何年、場合によっては何十年も働いて資産を作ったのですから、しばらく本当に休んだって罰は当たりません。
問題になるのは、休むこと自体ではなく、「本人が望んでいないのに休む以外の選択肢がなくなること」です。
「今日は働かない」と「もう働くことができない」は同じではありません。
この違いを作るために、資産だけでなく最低限の戻り道を残しておく。それで十分だと思います。
FIRE後の暇とは似ているようで、今回の問題は少し違う
このブログではすでに、FIRE後の暇について何度も考えてきました。
会社を辞めた後にやることがなくなったらどうするのか。何もしない自由に耐えられるのか。働かないことへ罪悪感を持たないか。
これらはFIRE生活を考えるうえで重要です。ただし、今回の話はそこから少し先にあります。
FIRE後の暇は、「自由時間をどう過ごすかという問題」です。
今回考えているのは、「自由な生活を何年か続けた後でも、別の生き方へ方向転換できるかという問題」です。
似ているようで、入口が違います。暇が苦痛なら趣味を探せばいいというだけではありません。
働きたくなったときに働けるのか。少し収入が必要になったときに対応できるのか。自分が想定していたFIRE生活と違ったとき、別の人生へ移れるのか。
つまり今回は「FIRE生活への適性」より、「FIREの可逆性」を考え、自由時間を過ごした後の「戻れる選択肢」に焦点を当てています。
「人生の詰み」は無職になった瞬間には起きない
記事タイトルではあえて「人生の詰み」という強い言葉を使いました。
ただし、長期無職になった人を「詰んでいる」と言いたいわけではありません。
そんな単純な話ではないです。資産がなくても再就職する人はいますし、長期間休んだ後に働き始める人もいます。逆に十分な資産があるFIREでも、健康や孤立など別の問題を抱える可能性はあります。
私が「詰み」という言葉で考えたいのは、無職という肩書ではなく、「選択肢が減り続ける状態」です。
資産が減っているのに支出を変えられない。働きたくてもスキルや体力に自信がない。人との接点がなくなる。生活リズムが崩れ、外へ出ること自体がおっくうになる。
それなのに「FIREした以上は絶対に働かないと意地だけは残っている」、こうなると、だんだん動ける方向が少なくなります。
反対に、資産があり、生活費を調整でき、働く気になれば短時間の仕事も検討でき、人とのつながりも残っているなら、無職期間が長くても選択肢はあります。
私はFIRE後に確認すべきなのは、資産残高だけではなく「人生のオプション残高」だと思います。
40代独身がFIRE前に残しておきたい「人生のオプション残高」
では、FIRE前に何を残しておけばいいのでしょうか。
細かいチェックリストを何十項目も作る必要はないと思います。
会社を辞める前から管理項目だらけになったら、それはそれで会社の業務管理表と変わりません。
最低限、次のようなところを確認しておけば十分です。
| 残しておきたいもの | なぜ必要か | FIRE後の使い道 |
|---|---|---|
| 生活防衛資金 | すぐ働かなくても生活できる時間を作る | 暴落・物価高・再就職活動の余裕 |
| 職歴・経験の記録 | 数年後は仕事内容や実績を意外と忘れる | 履歴書・職務経歴書を作るときに使える |
| 最低限のデジタル対応力 | 仕事や生活のオンライン化は進み続ける | 再就職だけでなく日常生活にも必要 |
| 維持する価値のある資格 | 失効すると取り直しが大変な場合がある | 働きたくなったときの選択肢になる |
| 人との細いつながり | 完全な孤立を避けやすい | 仕事、情報、社会との接点になる |
| 健康と生活リズム | 資産だけあっても体が動かなければ選択肢は狭い | 遊ぶにも働くにも必要 |
| 働き方への柔軟性 | 前職と同条件だけを求めると入口が狭くなる | 短時間労働・サイドFIREなどへ移りやすい |
ポイントは、全部を最高レベルで維持することではありません。
FIRE後まで毎日Excelを練習しろとか、資格試験の勉強を続けろとか、毎月元同僚と飲みに行けという話ではないのです。
「完全にゼロにしない」、それくらいでいいと思います。
「自由を満喫しながら、必要ならいつでも別の道へ曲がれる程度に道を残しておく」、それがFIREの出口戦略としては現実的です。
40代独身なら「少し働けば足りる状態」を作るだけでも強い
FIREを考えるとき、つい「労働収入0円で死ぬまで暮らせる資産」を目標にしたくなります。
もちろん、それを達成できれば強いです。しかし現実には、完全に0円かどうかより、「少額の労働収入で計画を修正できるか」の方が重要かもしれません。
年間生活費が300万円の人を例にします。資産だけで300万円をすべて賄う場合、相場の下落やインフレの影響をまともに受けます。
ところが年間60万円だけ労働収入があれば、資産から必要なのは240万円になります。年間120万円なら180万円です。
| 年間生活費 | 労働収入 | 資産から必要な金額 |
|---|---|---|
| 300万円 | 0万円 | 300万円 |
| 300万円 | 60万円 | 240万円 |
| 300万円 | 120万円 | 180万円 |
| 300万円 | 180万円 | 120万円 |
これは特定の収益率や安全性を保証するシミュレーションではなく、単純な家計上の例です。
ただ、年間60万円なら月平均5万円です。FIREが崩れたら年収600万円の会社員へ逆戻りしなければならない、と考えるのと、「必要なら月5万円だけ稼ぐ」という逃げ道があるのでは、心理的な重さがまったく違います。
40代独身のFIREでは、この柔軟性がかなり効くと思います。
配偶者の収入を当てにできない代わりに、自分だけの判断で生活費を変えやすい。住む場所、働く量、使うお金を自分で調整しやすい。
独身には独身の弱さがありますが、同時にこの身軽さもあります。
「完全FIREが崩れたら失敗」ではなく、「完全FIREからサイドFIREへ少し移動する」。
その程度に考えておいた方が長続きするのではないでしょうか。
FIRE前に決めておきたいのは「戻る条件」であって再就職先ではない
出口戦略というと、「FIRE後に働く会社を今から探しておくのか」と思うかもしれません。
そこまでやる必要はありません。何年後に戻るか分からないのに求人票を保存しても意味がありませんし、10年後の労働市場を今から正確に予測することもできません。
それより、「どうなったら働くことを検討するか」を自分の中で大まかに決めておく方が実用的です。
| 状況の変化 | 考えられる対応 |
|---|---|
| 資産が想定以上に減った | 支出見直し→必要なら少額労働を検討 |
| 物価上昇で生活費が増えた | 固定費を見直し、足りない部分だけ収入を補う |
| 暇や孤独が予想以上につらい | 趣味・地域活動・短時間労働など社会との接点を増やす |
| 完全FIREに飽きた | 働くこと自体を選択肢に戻す |
| 以前とは違う仕事に興味が出た | 収入を最優先せず試してみる |
| 健康上、働くことが難しい | 無理に労働収入を前提とせず、資産・支出側で調整する |
ここで重要なのは、「○○万円まで資産が減ったら即就職」などと機械的に決めすぎないことです。
相場の一時的な暴落かもしれません。生活費を少し下げれば済むかもしれません。年金受給開始まで数年なら、現金でつなぐ方が合理的な場合もあります。
出口戦略とは、危機が起きた瞬間に逃げ出すためのマニュアルではありません。
「自分には複数の逃げ道があると事前に確認しておくこと」です。
それだけでもFIRE直後の暴落や物価高に対する恐怖はかなり変わります。
「働かないこと」をアイデンティティにしない
もう一つ、40代FIREでは気をつけたいことがあります。
会社員を長く続けてきた人ほど、退職した反動で「もう働かない人」という新しい自分を作りたくなることです。
会社員だった自分。そこから自由になったFIRE民の自分。気持ちは分かります。
しかし、「会社員」という肩書から逃げたあとで「FIRE民」という肩書へ強く依存するのも少し変な話です。
FIRE後に働き始めたらSNSで何と言われるか。SNSでFIREを名乗れなくなるのではないか。知人に「結局働いてるじゃん」と言われるのではないか。そんなことは人生設計には何の関係もありません。
資産があり、嫌な仕事を断ることができ、自分の意思で働いているなら、それは十分に経済的自立を生かした生き方です。
「FIREしたら二度と働かない」という看板を守るために、自分がやりたい仕事まで拒否したら、本末転倒です。
「働くことを義務にしない」、しかし、「働かないことも義務にしない」、この中途半端さこそ、FIREでは案外大事なのだと思います。
韓国の「休んでいる若者」から見えるFIREとの決定的な違い
最初の話へ戻ります。韓国の「休んでいる若者」が社会問題として注目されるのは、単純に仕事をしていないからではないです。
本人が望む形で労働市場へ入れないこと、休んでいる期間が長期化すること、その後の就業へ移りにくくなる可能性が示されていること。そこに本人だけでは解決しにくい問題があります。
一方、FIREも仕事をしない状態ですが、本来はその逆を目指します。
「働かないしかない状態ではなく、働かなくてもいい状態を作る」、この二つは、見た目が似ていてもまったく違います。
| 同じ「働いていない」でも | 状態 |
|---|---|
| 仕事がなく、働きたいのに働けない | 選択肢が狭い |
| 生活のため働くしかない | 選択肢が狭い |
| 資産があり、働かなくてもいい | 選択肢が広い |
| 資産があり、働きたければ働ける | さらに選択肢が広い |
こう考えると、FIREの本当の価値がかなりはっきりします。
目標は「無職」ではありません。「選べること」です。
だからFIRE後の人生で最も避けたいのも、「再び働くこと」ではありません。「選択肢を失うこと」です。
FIREは「人生を降りること」ではなく、人生の主導権を取り戻すこと
FIREという言葉には、どこか「競争社会から降りる」というイメージがあります。
出世競争から降りる。会社員人生から降りる。満員電車から降りる。消費競争から降りる。
それ自体は間違っていないと思います。ただ、「降りる」という言葉には、もう戻らないような響きもあります。
私はそれより、「人生の運転席へ戻る」と考えた方がしっくりきます。
会社員時代は、平日の大半を会社の都合で使います。働く場所も時間もある程度決められます。収入が必要なら、それを簡単には拒否できません。
FIRE資産ができれば、その強制力が小さくなります。今日は休む。来年も休む。少し働く。別の街へ住む。また仕事をする。嫌なら辞める。こうした方向転換ができるようになります。
だからFIREの本当の価値を「一生働かなくて済むこと」と定義してしまうと、私は少しもったいないと思います。
FIREとはむしろ、「人生を途中で何度でも組み替えられるだけの余白を作ること」ではないでしょうか。
40代独身にとって「戻れるFIRE」はかなり現実的な戦略
20代や30代なら、FIRE後に何十年もの人生があります。40代でも、もちろん長いです。
45歳でFIREしたとして、80歳まで35年あります。85歳なら40年です。
会社員として働いてきた20数年間より、FIRE後の方が長くなる可能性すらあります。
その35年、40年を「最初に決めた生活を一切変えずに続ける」と考える方が不自然です。
物価も変わるでしょう。税制も社会保障も変わるでしょう。金融市場も変わります。親の状況も、自分の健康も、住む場所も変わります。そして何より、自分の気持ちが変わります。
だったらFIRE計画も、変化できるようにしておいた方がいい。
- 完全FIREしか認めない計画より、サイドFIREへ移れる計画
- 労働収入0円しか想定しない計画より、年間50万円や100万円だけ働く余地を持った計画
- 二度と仕事へ戻れないようにするより、必要なら戻れる程度の道を残した計画
この方が40代独身には現実的だと思います。
40代まで会社員として生きてきたのですから、働く能力が翌日突然ゼロになるわけではありません。
せっかく積み上げてきた職歴や経験まで、FIRE達成日にゴミ箱へ捨てる必要もありません。
使わないならしまっておけばいい。必要になったらまた取り出す。それくらいでいいです。
まとめ|FIREで手に入れたいのは「休み続ける権利」だけではない
韓国で注目されている「休んでいる若者」という言葉から考えてみると、FIREの意味が少し違って見えてきます。
同じように仕事をしていなくても、「働きたいのに働けない状態」と「働かなくても生活できる状態」では意味がまったく違います。
そしてFIREの強さは、単純に資産があることだけでもありません。
「働くか、働かないかを自分で選びやすいこと」、ここに価値があります。
40代でFIREした後、ずっと働かなくてもいいです。途中で働いてもいい。サイドFIREへ変えてもいい。短時間だけ働いてもいい。再び会社員になってもいい。その後また辞めてもいい。
人生は何十年も続きます。その間ずっと同じ選択を守り続ける必要はありません。
だから私は、FIRE前に「二度と働かなくて済むか」だけを考えるのではなく、「働かない生活を選んだ後でも、自分には別の道が残っているか」まで確認しておきたいと思います。
- 資産残高だけでなく、人生のオプション残高も残す
- 会社を辞められる自由だけでなく、必要なら戻れる自由も持つ
- FIREを人生の片道切符にしない
そう考えると、FIREとは「早く仕事を辞める競争」ではなくなります。
会社員として生きることも、休むことも、働き直すことも含めて、自分の人生を自分で決めやすくするための準備になります。
独身中年おじさんとしては、その方がずっと魅力的です。
何千万円もの資産を作った末に欲しいものが、単なる「無職」という肩書では少し寂しい。
欲しいのは、「もう嫌な働き方を選ばなくていい自由」、そして、「気が変わったときには、人生をもう一度選び直せる自由」です。
韓国の「休んでいる若者」という問題から逆に見えてきたのは、そんなFIREの価値でした。
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・会社に所属したまま仕事が少なくなった状態を、FIRE後の自由時間への予行演習として捉えています。今回とは逆に「会社の中にいるのに暇」という側からFIREを考えた記事です。
※本記事は、韓国における若年層の無業状態と、日本におけるFIRE・早期リタイアを同一視したり、個々の若者の事情を評価したりするものではありません。国、年齢、雇用制度、経済状況、健康状態等が異なるため、紹介した調査結果を日本の40代や個人の再就職可能性へ直接当てはめることはできません。
※本記事は、FIRE、早期リタイア、退職、転職、再就職等を推奨・保証するものではありません。働き方に関する判断は、収入、資産状況、健康状態、職歴、職場環境、家族構成、地域の雇用状況などによって大きく異なります。
※投資には元本割れのリスクがあります。新NISA、投資信託、株式、債券等の利用を検討する場合は、制度内容、リスク、手数料、税制、家計状況を確認したうえで、ご自身の判断で行ってください。



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